第4話 ゾンビが人を喰らう悲しい理由とは?

ゾンビはホラー映画ではなく、ヒューマンドラマからもしれない。


1968年、ジョージ・A・ロメロがゾンビ映画の金字塔「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」を発表。

今もなお、映画好きにはマニアが多い。


死者が墓から這い出し、フラフラとした足取りでフレッシュな人肉を求めるゾンビはこの映画で誕生したわけではなく、実在したって話があるのよね。


「ゾンビ」は、元は中央アフリカのコンゴで信仰されている神「ンザンビ(Nzambi)」に由来する。

元々、Mitsogo言語の「ndzumbi(死体)」が語源らしく、そこから「ンザンビ(Nzambi)」となったこの言葉には「死んだ人の魂」という意味があるらしい。


ゾンビとはハイチのブードゥー教の民間伝承にあり、ブードゥー教の司祭にあたるボコの奴隷製造儀式にその起源があるらしい。


ボコの儀式は依頼を受けて人をおとしめる。

ボコは死体が腐り始める前に墓から掘り出し、幾度も死体の名前を呼び続ける。

やがて死体が墓から起き上がったところを、両手を縛り、使用人として農園に売り出す。


死体の魂は壷の中に封じ込まれ、以後ゾンビは永久に奴隷として働き続ける。

遺族は死人をゾンビにさせまいと、埋葬後36時間見張る、死体に毒薬を施す、死体を切り裂くなどの方策を採る。

死体に刃物を握らせ、死体が起き出したら、奴隷にしようとするボコを一刺しできるようにする場合もあるとか。


まぁ当然、嘘だろう。


死者が蘇るはずはないしね。


だけど、ゾンビ製造に使用されたのではないかと言われるゾンビ・パウダーって謎の粉があるらしい。


民族植物学者ウェイド・デイヴィス が自著で提唱した仮説なんだけど、実際にゾンビを作るにあたって、ゾンビ・パウダーというものが使用されたかもしれないんだって。


そのゾンビ・パウダーの起源はナイジェリアの少数民族であるエフェク人やカラバル人にあるとされ、西アフリカ社会では伝統的な刑法としてこの毒が用いられており、これが奴隷たちにより西インド諸島に持ち込まれた。


ゾンビ・パウダーにはフグの毒であるテトロドトキシンが含まれているっぽい。

ちなみにこのテトロドトキシンは青酸カリの500倍〜1000倍の毒素だとか。


この毒素を対象者の傷口から浸透させることにより仮死状態を作り出し、パウダー全量に対する毒素の濃度がちょうど良ければ薬と施術により蘇生し、濃度が高ければ死に至り、仮死状態にある脳(前頭葉)は酸欠によりダメージを負うため、自発的意思のない人間=ゾンビを作り出すことが出来るとか。


ただ、専門家に言わせれば、テトロドトキシンで仮死状態を作り出すってのには無理があるらしい。

仮死状態ではなくて即死でゾンビになる暇もないっぽいね。


そんな怪しいゾンビネタなんだけど、ハイチでは今でもゾンビ伝説は恐怖の対象となっており、目撃証言すらあり、世間を騒がしているのだとか。


ハイチで死んだ親兄弟を目撃したというゾンビ騒動が世界を震撼させたことがあった。


やはり、伝説は本当だったのか?


イギリス人の人類学者ローランド・リトルウッドがわざわざ、ハイチで行った調査によれば、ゾンビとなってよみがえった男性、ゾンビになってよみがえったとされた女性についての2例がそれぞれの父・姉から報告された。


がしかし、なんとゾンビとされた当人を発見!


彼らをCTスキャンにかけたところ人として異常はなかった。

そこでDNA検査をしたところ、どちらも親子・姉妹関係のない他人の空似だったことが判明。


ゾンビどころか普通の人だったとか。

ちょっと働きすぎて顔色が悪かったのかどうか知らないが大迷惑というか、失礼と言ったところか。


ただ、気になる証言もあるのは確かの。

1920年代に2人の作家がハイチに旅行し、現地でゾンビを目撃したと証言を残している。


旅行作家であり、ジャーナリスト、ちょっとオカルト大好きなアルコール依存症のウィリアムシーブルックは、1927年にハイチに旅行。


地元の人々にハイチ系アメリカ人の砂糖会社のサトウキビ農園に連れて行かれ、夜にサトウキビ畑で働くゾンビを目撃したという。


そのゾンビは「目はうつろで生気がなく、盲目ではないが焦点が合わず、死んだ男の目のようだった」とか。


実はこの証言こそ、現在のゾンビのモデルというか原型になってはいる。


もう一人の作家は、尊敬されている黒人小説家ゾラ・ニール・ハーストンでした。


ハーストンは人類学者として、最初にニューオーリンズでアフリカ系アメリカ人版のブードゥー教徒を研究するためにハイチに派遣された。


そのハイチでブードゥー教の司祭になるための訓練を受けたみたい。

そこでハーストンが目撃したというゾンビを激写した写真には、ハイチにある精神病院に入院する1人の貧しい女性が写っていた。


彼女はコミュニティから追放され、社会的地位を失った女性だった。


深夜のサトウキビ畑で働く男性や、社会的地位を失った精神疾患の女性がゾンビ?


一体どういうことなのか?


そもそもなぜ中央アフリカのコンゴの「ンザンビ(Nzambi)」が西インド諸島のハイチに根付いているのか?


そこには血の涙を流しながら食人するゾンビの真の悲しい歴史が隠されていた。


時は大航海時代の1492年、スペイン人によってエスパニョーラ島(現在のハイチとドミニカ共和国のある島)が発見され、植民地化してしまうところから悲劇の歴史ははじまる。


そこでは現地人をインディオと呼び、サイトウキビ畑の生産で文字通り甘い蜜を吸い続けた征服者スペイン、フランス、イギリスなどを大国にした歴史がある。


1514年から66年まで6回もハイチで現地調査したラス=カサスはインディオ達について、16世紀にスペイン支配の惨劇を告発した『インディアスの破壊についての簡潔な報告』という書類の中で次のように述べている。


「その地方一帯に住む無数の人びとをことごとく素朴で、悪意のない、また、陰ひなたのない人間だった。彼らは土地の領主たちに対しても実に恭順で忠実である。彼らは世界でもっとも謙虚で辛抱強く、また、温厚で口数の少ない人たちで、諍いや騒動を起こすこともなく、喧嘩や争いもしない。そればかりか、彼らは怨みや憎しみや復讐心すら抱かない。この人たちは体格的には細くて華奢でひ弱く、そのため、ほかの人びとと比べると、余り仕事に耐えられず、軽い病気にでも罹ると、たちまち死んでしまうほどである。・・・インディオたちは粗衣粗食に甘んじ、ほかの人びとのように財産を所有しておらず、また、所有しようとも思っていない。したがって、彼らが贅沢になったり、野心や欲望を抱いたりすることは決してない。」


そんなインディオ達だが、発見当初、400万人近く存在したが、なんと40年ちょっとでたった200人にまで激減、いや絶滅と言って良いくらいまでになっていた。


そこには征服者であるスペイン人の野蛮な大虐殺があったっぽい。


中世ヨーロッパに生きたラス=カサスが、血みどろの秘事を暴露している。


「スペイン人たちはかつて人が見たことも読んだことも聞いたこともない種々様々な新しい残虐きわまりない手口を用いて、ひたすらインディオたちを斬り刻み、殺害し、苦しめ、拷問し、破滅へと追いやっている。彼らは、誰が一太刀で真二つに斬れるかとか、誰が一撃のもとに首を斬り落とせるかとか、内臓を破裂させることができるかとか言って賭をしていた。彼らは母親から乳飲み子を奪い、その子の足をつかんで岩に頭を叩きつけたりした。」


現在よりも公開処刑が平然と行われていた迷信深い、血生臭い時代、血の匂いと死臭が漂う目を覆いたくなる行為は今よりも見慣れているはずだが、想像を絶する光景が繰り広げられていたに違いない。


ただ、サトウキビ畑で働かせ、生産を上げる目的のために。

征服者は血を吸い尽くすサトウキビ畑で巨万の富を築き、大国へと変貌していったのだ。


サトウキビを肥やす血となってしまい、絶滅したインディオたちの代わりに、中央アフリカの奴隷をハイチに輸送してきたので現地文化と宗教が融合し、ゾンビが誕生したというわけなのだ。


ゾンビといえば、人を喰らう化け物だがなぜ食人なのか?

ただホラー映画だから怖がらせるためだけではない。


そこには顔を背けたくなる、戦慄で身震いする歴史が隠されていた。


中世期にハイチの実態を調査したラス=カサスは、突然首筋を冷たい手で掴まれたようなギョッとする醜悪な歴史を書き残した。


「無法者はいつも次のような手口を用いた。村や地方へ戦いをしかけに行くとき、すでにスペイン人たちに降服していたインディオたちをできるだけ大勢連れて行き、彼らを他のインディオたちと戦わせた。彼はだいたい1万人か2万人のインディオを連れて行ったが、彼らには食事を与えなかった。その代わり、彼はそのインディオたちに、彼が捕らえたインディオたちを食べるのを許していた。そういうわけで、彼の陣営の中には人肉を売る店が現われ、そこでは彼の立会いのもとで子供が殺され、焼かれ、また、男が手足を切断されて殺された。人体の中でもっとも美味とされるのが手足であったからである。ほかの地方に住むインディオたちはみなその非道ぶりを耳にして恐れのあまり、どこに身を隠してよいか判らなくなった。」


つまりは、征服者スペイン人に強制的に食人させられていたというわけだ。


ゾンビとは、スペイン人に気ままに殺害されるのを待ちながら、永遠にサトウキビ畑で働くインディオ達の姿だった。


その風貌はまるで死体が歩いているかのようなゾッとする醜悪な化け物に見えたに違いない。


ただ、そんなゾンビよりもゾンビにさせた征服者である人間に恐怖を覚える。


ただ、心臓をギョクンとさせるのは、1920年代にハイチに旅行した2人の作家がそれらを目撃したという事実だろう。

スペイン、フランス、アメリカと時代と共に征服者は変化するが、アメリカが植民地放棄する1934年までの約400年間、ハイチの強制労働の地獄の光景はほぼ変わらなかったというのは歴史にドス黒い影を落としていると言わざるを得ない。


ゾンビは歴史に敗れ、自然淘汰の中で「死んだ」奴隷だった。

それが民間伝承で伝えられた農園で働くゾンビの正体だった。


遺族はボコに死後奴隷にされないように遺体にナイフを持たせたというが、それは「死後ぐらいはゆっくりさせてやりたい」という思いやりだったのかもしれない。


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歴史のグレーゾーン 雨鬼 黄落 @koraku_amaki

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