第6話

 部下二人が彼女を取調室から連れ出し、俺も部屋を後にする。廊下は人間にとって快適な温度に設定されているにも関わらず、じっとりとした空気が漂っている様に感じる。

 結局、取調べで話された内容が全て真実であっても、俺には彼女にのし掛っていたストレスやプレッシャーの大きさは想像することしかできない。

 しかし、ひとつだけ分かったことがある。


「ホシノヒトミが枯れたんだな。」


思わず口をついた、ほんの微かな俺の言葉を彼女が拾った。


「……そうですね。私自身が枯れてしまったんですね」


聞こえるか聞こえないかの声でそうそっと言い残し留置所に戻っていった。


 自室に戻るために廊下を歩く。ふと立ち止まり窓から中庭を見ると、所狭しと植えられた夕顔がオレンジ色に染まっていた。


 あれは彼女がこれから先唯一育てることを許された花である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

枯れたのは 小林 @w-kobayashi75

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ