楽園開発
日奈久
楽園が作りたい
あるマンモス大学の昼下がり、講義が終わったあとの教室でダラダラとスマホゲームをしていた。
「新葉(あらば)くん。」
眼鏡をかけた黒髪ストレートの女だった。タートルネックなニット。巨乳が目立つチェック柄のディスペンサー。
「仁田(にだ)さん?」
普段は話したこともない同じ学部の女ーー仁田だ。
成績は優秀で、海外に短期留学も経験しているし、ボランティアサークルの立ち上げをし、学生会にも関わりがあって、人望も厚いようなできる女だ。
遊んでばかりの俺とは正反対で、ちょっと疎ましい。
「今って時間ある?」
「まあ、次も空きコマだから暇だけど。何か用事?」
「うん!でも、場所変えてもいいかな?」
「じゃ、大学のカフェでも行く?」
嬉しそうにうなずく仁田に、不思議な感覚を覚えながら歩いて3分のカフェテラスへと移動した。
カウンターで適当に注文し、レモネードど抹茶ミルクをもって席へつく。
俺たちしかおらず、天気も悪くない。
「で、話って?」
「新葉くんってこないだ30人斬りしたって聞いたんだけど?」
思いがけない言葉に危うく抹茶ミルクを吹き出しかけてむせる。
「ゲホッゲホッーー何のこと?」
「あれ?違うの?今まで寝た女の子たちに聞いたから確実だと思ったんだけど……。もっと多かった?」
仁田の行動力にドン引きする。
そして、寝た女の顔を思い出して真顔になる。
「聞いたのかよ……。何?俺と寝たいの?」
自分のナルシストみたいな発言にもドン引きした。
さすがに調子にのったかと焦ったが、
「ううん、あのね!楽園に興味ないかなと思って!」
きらきらした瞳で言い切った。
見なかったことにしたい。
「もしかして、マルチか宗教?だったら断るよ。」
「あー!違う違う!誰もやったことない新しい取り組みの話!」
それはマルチの常套句では?
「むしろ、これで怪しくない話のほうが驚きなんだけど?」
「えっとね、新葉君って色んな女の子と遊んでるじゃん?私、経験ないからよくわからないんだけど。そういう経験してるなら、遊びにも詳しいかなって!」
「今さらっと処女なの告白しなかったか?」
「もちろん、楽園で新葉君は好きなだけ女の子と寝てもらっていいよ。」
「要領得ないな。楽園ってなんだよ、そもそも。」
「みんなが自由に、好きに生活できる世界のことよ。まあ、最終的には村とか施設くらいの規模にしたいの。」
「それをアンタが作るのか?」
「そうよ。」
「俺と一緒に?」
「楽園作りのために、新葉君くらいの人望ある人が隣にいてほしいの!」
しばし沈黙。
先ほどまで熱く語った仁田をよく見る。
多分冷静に、次なんて話せば俺を説得できるか考えている顔だ。
「人望って……そんなもんないよ。」
「あるわよ、別に女の子ナンパシてるわけじゃなくて30人切りでしょ?単にモテるんじゃない?」
「そりゃそうかもしれんが……。」
「楽園作りに協力してくれるなら、大学近くの部屋を無償で貸すわ!困ってるでしょ、ホテル代!しかも、ほら!ここよ!」
スマホで見せてきたのは、相場の倍以上するような豪華な4LDKのファミリー用アパート。
学生向けの風呂とトイレも一緒のアパートに住んでいるような俺からすれば、喉から手が出そうなくらいほしい。
「何でそれ知ってんの?」
「最近行くホテルが安いって女の子から文句言われてるわよ。」
え?そうなの?
「……わかったよ、協力してやるよ。その楽園作りとやらに。」
「わあ!嬉しい。」
「はあ……。」
仁田の笑顔を見て、俺は一人不安になった。
楽園開発 日奈久 @aishifrom
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