四の無音と一の伝説

音森ひよこ

第1話 禁じられた音楽

僕の世界には、「音楽」というものがない。

「ない」というか、「禁じられてしまった」というほうがいいだろうか。


「禁音」


もうどのくらい昔になるか分からないが、僕らや、僕らの祖先がそう呼んできた。

勿論、物がぶつかる音、服が擦れる音、風の音、動物や人の声などは、

当たり前のように毎日聞こえてくる。


「リズム」「メロディー」「ハーモニー」


それら「音楽」として成されるものは、全て禁じられているのだ。

もし仮に、今ここで、僕が鼻歌を歌おうと言うのなら、

軽く5年は普通の生活が出来なくなるだろう。


では、何故こんなにも音楽を禁ずるのか。

昔、こんな言い伝えを聞いたことがあった。


『音を奏でる者、赤子の耳をけがさん』


この世界に、太古に存在していたたちが奏でた音楽で、

赤ん坊の耳がという伝説。

音楽を奏でたなら、それを聴いてしまったものは耳が聞こえなくなってしまう。

今や、「オンガク」という単語すら知らない若者も、少なからずいるらしい。

そうして、この世界の「音楽」は全て消えることとなったのだ。


__________


「禁音の真実を探してこい。」


リズ、ムジカ、ソルフェの3人が、「外世界がいせかい」で、そう伝えられた。

3人は人間のなりをしているが、普通の人間とは少しだけ違っていて、

魔法を使うことが出来る。

とは言っても、見た目はまだ子どものため、その能力は十分に使いこなすことはできない。


声の主は誰なのか、何故探すのが僕らなのかもわからず、

とりあえず「1つ目の世界」に放り出された。



「もしもーし!おーい!起きろよー!」


「ん~…なんだよムジカ…。」


「もうちょっと寝かせてくださいよ……。」


リズをゆすって無理やり起こそうとするムジカ、それでも起きないリズ、まだ寝たいソルフェ。

まだ明け方だと言うのに、どんなことにも好奇心旺盛すぎるムジカは、

昼夜関係なく、とにかく旅をはじめたいらしい。


「なぁ〜、なんで起きないんだよ!からのお告げだぜ?早く行くぞ!」


「「わかったって!!」」


いつまでもムジカが騒ぎ立てるので、2人は声をそろえて起き上がった。


そうこうして、太陽がやっと顔を出して来た頃、3人はソルフェ手作りの朝食を食べる。

今日のメニューは、ポタージュスープ、チーズハムトースト、フリルサラダ。

野宿で食べる朝食にしては豪華で、どれも絶品なものだ。


「「「ご馳走様でした!」」」


片付けを終え、旅支度をした3人は、場所も知らない「遺跡」へと足を進める。



-1つ目の世界「虹彩」-



色とりどりの硝子で建てられた噴水、宝石箱をひっくり返したような美しく光る路地、

横目に見える街並みの窓ガラスは、そのほとんどが、虹彩溢れるステンドグラスになっていた。

ただ歩いているだけでも見惚れてしまうこの世界は、

リズたち3人が、初めて足を踏み入れた場所となる。


「あのー、この辺で変わった遺跡…みたいなものを、見た事ありませんか…?」


謙虚で少し人見知りなソルフェが、恐る恐る街の人々に聞く。


だが……


「ん~わからないなぁ…。そもそも、遺跡なんて探してどうするんだい?」


「いせき?のなかにあったよ!なんかね、こう、ごつごつしたでっかいの!」


「うーん、私には、わからないですね…。他を当たってみては?」


「……そうですか。ありがとうございます。」


聞いても聞いても、この国の遺跡についての情報はなく、

皆物珍しそうに首を傾げる。

のなかにあった」という小さな女の子の話も、

ただの作り話な子ども向けの絵本のことだった。


「手がかりは何も無し、か……。」


先程まであんなにはしゃいでいたムジカも、肩を落としてしまった。

それもそのはず、見知らぬに探してこいと言われこの世界に放り出され、

その旅の手がかりになるものなんて、

の小さな地図と、方位磁針くらいしか与えられていない。

こんな無謀すぎるをしたのもどうかと思うが、

流石にこれではヒントが無さすぎる。


「これからどうするってんだよ…。」


「わかんないよ、地図と方位磁針しかないんだし……。」


ムジカとリズが腕を組み、

小さな丘にある公園の、色とりどりの硝子でできた綺麗なベンチに腰を掛ける。


「こらこら…まだ旅は始まったばかりですよ。もう少し聞き込みをがんばりましょうよ…。」


「だけど、みーんな目を合わせて首を傾げるだけなんだぜ?いくら聞いたって無駄だろ。」


ソルフェがなんとかして少しでも情報収集をしようと促すが、

早くも2人は諦めきってしまったらしい。


「もー!!そんなんじゃ、私たちがこの地へ飛ばされた意味がないじゃないですか!!!」


ついにソルフェが痺れを切らした。

あまり見ることない、彼女その姿に、リズが驚く。


「わ、わかったわかった!なら、あっちに見える時計台に行ってみよう!

周りにも大きな建物があるし、何か詳しい人がいるかもしれないよ!!」


いつもは大人しいソルフェにビビってしまったリズが、ムジカの手を引いて

少し遠くに見えている銀色の時計台を指差した。


「あとでまた美味しいお菓子を作ってあげますから!行きますよ!」


「はぁーい。」


「ソルフェのお菓子!?やったー!」


「なんで一番年下の私が、お二人の面倒を見なきゃいけないのですか。全く……。」


そんなこんなで、3人はリズを筆頭に、時計台へ向かった。


___________



この次元には、いくつかのがある。

今僕らがいるのは、「虹彩の世界」。

音楽が禁じられた謎の手がかりは、果たしてこの、色の溢れる世界にあるのだろうか。


リズ、ムジカ、ソルフェ。

3人は、禁音の謎のを突き止めるために、旅を本格的にはじめていった。



つづく




____________


-あとがき-


はじめまして。音森ひよこと申します。

この度は、「四の無音と一の伝説」、第1話を読んで頂き、誠にありがとうございます。

こうして小説をかいて人に読んでもらうことは初めてで、

このあとがきを書いている今、僕自身、少々緊張しています。


僕たちのいるこのでは、音楽という存在はあたりまえなものですが、

もしそれらが消えてしまったら……

小さな頃から音楽好きな僕にとっては、それは人生の終わりと言ってもいいかもしれません(笑)


リズたち3人が繰り広げる、音楽のない旅の物語。

語彙力、文章力共に、プロの方々には劣るものが多いとは思いますが、

今後とも何卒、よろしくお願い致します。


音森ひよこ

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四の無音と一の伝説 音森ひよこ @hiyoko_otomori

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