第10話

 いや聞いたことある声だとは思ったけど、いきなりかぁ……


「えーっと、伊上さんだっけ?初めまして」

「えっ!?なんで零が咲の名字なんか知ってるのよ?」

「なんでってそりゃ……」


 示し合わせたかのように二人で咲の方を見る。

 こやつ、さては全部話してなかったな……


「えっ!?えと……」

「「ジトォォ」」

「……(すぅー)」


 二人にジト目で見られた咲は、視線をそらし、まるで後ろに人がいるかのように後ろを振り返った。



「さぁーきぃー?」

「ひぇっ……」

「Vstreamerとして、配信者として気を付けないといけないことをやらかした挙句、マネージャーの私に黙っていたとは……」

「えっ、あのっ!……黙ってて本当にすいませんでした!」


 咲は慌てて頭を下げる。

 この様子だとそこまで重く考えてなさそうだな……


「咲、あなた今回相手が零だったからまだしも、他の人だったり、配信でそんなことしたらどうなってたか分かる?」

「えっ……?」

「貴女は企業Vであって、たくさんのリスナーたちがいる。いい人も悪い人もいるわ。そうんな中本名なんか晒してごらんなさい。あっという間に中の人バレして家に凸られたり、個人情報が出てきたりするわよ」

「そ、そんな……」


 鈴音の言葉にショックを受ける咲。

 やっぱりそこまで考えていなかったか。

 まあここまで言われたんだし今後は気を付けるようになるだろう……


「まあすず、俺の顔に免じてその辺にしてやってくれ。本人も反省しているようだし」

「零の顔に何の価値があるって言うのよ」

「どれだけの価値があるかどうかはすず次第かな?」


 冗談っぽく笑いながらそういうとすずは、仕方ないなぁと呆れた顔をしながらも許すことにしたようだった。


「まあ今回はなにも問題も……なくはなかったけど、大事にはならなかったし特別に見逃してあげるわ」

「ありがとうすず」

「べ、別に零のためじゃないわよ……本題にまだ入れていないってのがあったから……」

「おお……これが元カレパワー……」


 咲がぽつりと呟いた言葉に、すずはバッと咲の方を振り向く。


「咲ぃ~?」

「は、はいっ!?」

「今何か言わなかった?」


 眉間に皺を寄せながら、顔は何とか笑顔を保とうと頑張っている。

 ……器用なもんだな。


「何も言ってません!!」

「……まあ今日のところは聞かなかったことにしてあげる」

「やっぱすずは優しいね。うんうん」


 すずに許しを貰ってホッとしていた咲が急に顔を上げ、まるでありえないものでも見たかのような顔をした。が、まあ触れないでおこう……すずのご機嫌取りに苦労したくはないし……

 あ、すずが咲の顔に気付いた。


「後で罰送っとくから覚えておきなさい!!!!」


 あーあ……

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