ディスプレイ

亜リン麻

第1話

 カーテン越しの空には、淡いブルーと濃いオレンジに染められた雲が滑らかに流れている。朝焼けというのは綺麗でいながらひどいもので、今まで一睡もせず、ひたすら激しく動く画面を追い続けていたたちばなの眼球から直接こめかみに響く。家族と山に登って正月にみる太陽は特別な様相で気分もあがるが、こういう普段見る奴は鬱陶しくて仕方がない。今日も明日も一限目から講義があるというのに身体は四限目を終えたあとの身体より疲れている気がした。今から寝れば到底すんなり七時半には起きられないだろうし、たたき起こされたとして教室についてからの未来は想像に難くない。橘は脱ぎ散らかされた三日前のシャツとパンツを椅子に放り、シーツと掛布団にクッションが練りこまれたベッドに倒れる。窓からはみるみる明るい光とともに、ほんのりと朝食の支度をする音と匂いが流れ込んでくる。スマホを見れば、起きなければならない時間の二時間前を指していた。橘の瞼はなにかにおさえつけられているのではないかと思うほど重たい。彼はこれからはじまる講義、目をとじたあとすぐに聞こえるだろう母親の怒号…を想像した。それによって生じた胸の暗澹たる気分を吹き飛ばすかのように大きく深呼吸してみたが、それすらも億劫だった。


大学にあるコンビニでは、昼時ともなると陳列された商品ではなく、ごった返す人を見ている感じだと、橘はサンドウィッチとインスタントラーメンを片手にスマホを取り出した。鮮明な緑の背景に、ニワトリかドードー鳥のような二本足の鳥がモチーフのデフォルメした白抜きが特徴的なアイコンのSNSをひらく。画面にならぶ四角い絵やバラついた文字の羅列が橘のスマホに表示された。

「月曜の一限って人生でいちばんサボりたい時間だとおもう」

「今日のねこ!いつも同じお墓の上にすわってる」

「写真でギャグ」

統一性のない文章たちと、今朝のアニメをスクショしたものから今撮ったであろう猫の写真、使いまわされて画素数が格段に落ちている古い加工画像まで、様々な添付画像が橘の指によって画面の外を上下した。お互いを認識しているユーザーの「くじらベーコン・あぶら丼」による”みんな午前中オツカレサマ!午後から配信するよ”という簡単な文字列と、それに対するコメントを一通り流し読みし、自分のタイムラインに再表示させる操作を無作為にした。

「次のお客様ー、どうぞー」

気づけば列の最前列に押し出されていた橘は、すっかり顔の判別ができるようになったコンビニ店員によばれ、小走りにレジへと向かった。

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ディスプレイ 亜リン麻 @Scorpion_Sacrifice

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