第23話 【フィオネ視点】戦いの行方

sideフィオネ


私は待合室を出てバッカスを追って隣に並んだ。


「どういうことだ?カインは飲んでいい、とか何も言っていないのにコーヒーを奪い取るような真似をするなんて」

「お前がどうせ飲まなかったものを飲んで何が悪い?」

「あ、あれは私にくれたものだが私は飲めずに返した。しかしそれでも勝手に飲んでいい道理はないだろう」

「あいつも2つ持ってても仕方ねぇって。それに何も言ってこなかったし」


そう言いながら歩いていくバッカスについて行く。


「か、カインは優しいんだ。だからお前に何も言わなかっただけなんた」

「へー、優しい、ね。根性無しのクズなだけじゃなくて?俺に逆らうのが怖かったんじゃなくて?」

「そ、そういう性格を治せと私はずっと言っているぞバッカス」

「俺は事実しか言ってないけど?あいつは俺が怖くて言い返せなかったんじゃないのか?ってさぁ」


カインがまだ出てこない待合室に目をやって笑うように口を開いたバッカス。

私はそんなバッカスを許せない。


「か、カインのことを悪く言うな。カインは強くて優しいんだ。だから何も言わなかっただけ」

「どうでもいいけど、そんなにあいつの事守るようなこと言うってさぁ、あいつのこと好きなわけ?」

「そ、そうじゃなくて」

「知ってんだぜ?お前がいつもいつもあいつの周りをウロチョロしてんのは」

「そ、それはあいつがクラスの中に溶け込めるようにだな」


それから授業にちゃんと出ること。

そんなことを伝えるためだ。


「まぁ、どうでもいいけど。そうだなぁ。じゃあ俺が勝ったらお前あいつと接触禁止な?」

「な、何故そうなる」

「一応お前は俺の婚約者候補なわけだ、そんなやつが変な男の周りウロチョロしてても目障りだからな。分かったな?それからお前が負けたらあいつにも言っておこう。金輪際フィオネに近付くな、と」

「そ、そんなことお前に決める権利は無い」

「貴族の言うことが聞けないか?知ってるだろ?俺の親父が上級貴族だってさ」


私はそれ以上何も言えなかった。

貴族の言うことに反対すれば様々な不利益があるから。


「分かったならとっとと舞台に来いよ、待ってるぜ?お前の惨めな姿が見られるところを」


そう言って舞台上に先に向かっていったバッカス。

私は怒りに拳を握りしめて同じように向かった。


負けない。

絶対に勝つんだ。


そしてカインを根性無しだと言ったことを謝罪させる。

あいつは根性無しやクズなどでは絶対にないのだと認めさせる。


そうして私が舞台に上がると審判はお互いに準備が出来ているかどうかを確認して試合が始まった。


これは準々決勝。

勝てばカインと当たる準決勝。

絶対に負けられない。


「そらよぉ!」


バッカスが剣を抜いてきた。

しかし次の瞬間だった。


「うっ……」


急に顔色が悪くなったバッカス。


「ど、どうしたのだ?何かの演技か?」

「ち、ちが……」


その場に剣を置いて崩れ落ちるバッカス。

こいつは卑怯で卑劣な男だ。


カインという本人がいないところでグチグチと文句を言い続ける男。


これは何かの罠かもしれない。

そう思った時だった。


「フィオネ!!今のうちに叩けぇぇぇ!!!!」


声が聞こえた。

そちらを見ると必死の形相をしたカインが私に向かって叫んでいた。


(し、しかし罠なのでは?)


と思ったが


「お、おごぉぉぉぉぉぉ……や、やばいぃ……」


そう言っているバッカスの声が聞こえた。

何がやばいのかは分からないが。


「フィオネ!今がチャンスだ!」

「し、しかし!バッカスは苦しがっている!卑怯だぞ!」

「馬鹿野郎!勝負ごとに卑怯もクソもあるか!勝ったやつが偉いんだよ!やっちまえ!!」


そう言われて思う。

カインはもしかして私に試練を与えているのでは?


目の前で動けないバッカスを倒すこと。

それを試練として私に与えているのでは?


原因不明の何かで敵が苦しんでいる、その間は当然無防備である。

それを慈悲の心を捨てて攻撃できるようになるほどのメンタルを付けろ。


そう言えば、と思い出した。

以前に私は言った。


『白紙で出す勇気がなかった』


と、私にはここぞと言う時に出す勇気がなかった。

カインの目を見ると。


「今だ!!!トドメをさせ!!さっさとしろ!チャンスだ!!」


カインは今私に勇気をくれようとしているのではないか?

あの目は真剣そのものだ。


きっとカインは私にくれようとしているのだ勇気を。

心の強さを。


圧倒的弱者を躊躇なく攻撃できるほどのメンタルを持つのだ、と。

彼はそれを私に伝えてくれているのだ。

今、こうして、ならば私がやることは一つだった。


「バッカス、勇気を出せ。私は今からお前を殴るぞ」

「ま、待ってくれ……今はやばい……ほ、ほんっとにやばいんだって……」

「問答無用!」


私がバッカスの体を剣で叩いた瞬間だった。


「ぁぁぁぁぁ……」


この場にそぐわない排泄音とバッカスの声が鳴り響いた。


(え?)


「ぁぁぁぁぁぁ……」


目の前のバッカスからそれらは聞こえた。

漂ってくる臭気に私は全てを察した。


(こいつが漏らした……?)


「わ、私は勇気を出せと言っただけだ!そんなものを出せとは言っていないぞ!!何を出している!バッカス!」


テンパった私はそんなことを言ってバッカスの顔を蹴りつけてしまった。


「うぅぅぅぅぅ……」


バッカスはその場に大の字になって寝転んだ。

彼の純白だった白い服も今や汚れてきていた。


私たちの戦いを観戦していた生徒達から悲鳴が上がり。


「せ、戦闘不能!よって勝者!フィオネ!」


と、審判が判断を下した。

正直驚きの連続だったし、今も何が起きているのか分からない。


でも。


何はともあれ、過程はどうあれ私は勝てたようだ。


それを確認した私は舞台を去っていく。

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ゲーム世界の悪役に転生した俺、悪役ムーブしかしていないのに何故か人々に感謝され成り上がってしまう にこん @nicon

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