【リハビリ】風が満ちる果てまで 奏でよ、息吹を① 明日へのファンファーレ【プロローグ】
屋内に居ても、外を舞う『風』を感じることが出来る力だ。
風といっても、びゅんびゅんと舞う物理的なものではない。
何と言ったらいいのか、例えるならばそれは――。
「……地球の息吹、なんじゃないかな」
日葵がうまく表現出来なかったそれを、隣の席に座っていた先輩の瑞希はこともなげに答える。
「いぶき、ですか」
「うん。呼吸みたいな。ほら、地球は公転して、自転して、それ自体が運動してる。息をしてる。だから、潮の満ち引きがあるし、大地は熱を持つし、空には風が舞っているから」
「あ、確かに。多分、それです。その感じです」
「ふふ。でも、すごいね、日葵は。息吹は生きていること、そして、私達のやってる命を吹き込むことの基本だから。それが分かるってかっこいいね」
「や、そんな大したものでは……! だって、相変わらず先輩方みたいにはうまく吹けないですし」
「日葵に唯一足りないものは、自信だねえ」
瑞希は少しだけ困ったような笑顔を向ける。
それは、バスの外の流れゆく景色と相まって、不思議な儚さがあった。
「そうだ、これ、聞いてよ」
瑞希は、ワイヤレスイヤホンの片側を渡す。
日葵が耳に付けると、そこには別世界が響き渡っていた。
「わ、これ、
「そ」
「やっぱりすごいですねえ……」
吹奏楽コンクールに初めて参加してから一度として全国金賞、すなわち、最高の賞を逃したことは無い。
奏でられる楽曲も、毎年どこの高校も未だかつて挑んだことのないような難易度の曲ばかりを出してきて、それは翌年、他の高校や団体で演奏されるなど、パイオニアとしての地位にもある。
「あ、このフルート、
「中学時代の友達なんだっけ」
「そうです、といってもあっちは嶺女で一年からエース、私は二年でようやくクラリネットメンバーに入れさせてもらったから、天と地の差ですけどねー」
「……今の日葵は全国でもトップクラスだと思うけど」
「またまたー、瑞希先輩に言われちゃうと本気にしますよ、わたし!」
本当なのにな、と瑞希は心の中で呟く。
一年の時、演奏メンバーに入れず、一方で全国で彼女の親友である梨衣の強烈なソロフルートを目の当たりにして嬉しさとショックでどん底から始まった日葵のクラリネット第二章は、それはもう凄まじかったと思う。
「大体、うちだって全国でやるんだよ、三年振りだけど」
「ですね、目指せ、嶺女と同じ金賞!」
吹奏楽の賞は、金・銀・銅の三つがある。
全国の金賞というと、実際の演奏評価はさておき、形の上では間違いなく横並びなわけだ。
そうこうしているうちに、バスは再びトンネルへと入る。
その時、日葵は不意に上を向いた。
無論そこには、バスの無機質な天井しかない。
けれど、彼女の耳はそれを捉えていた。
「あ、あああ……!」
風の
みなかた・ふらぐめんと 南方 華 @minakataharu
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