【頭出し】AI球と創り出す世界~異世界転生したら設定すら定まってなかったので、ゼロから始めることになりました~
目の前には、真っ白な世界がどこまでも広がっている。
地面すら定まっている感じがしない。
というのも当然だ。
この世界は、生まれたての、本当に何も決まっていない世界なのだから。
「ごしゅじんさま、さて、どうしましょうか」
隣にいる黄金色に光を放つ球、それだけが、この世界に変化を与えている。
いや、これから、変化を与え続ける、といっても過言ではない。
この何もない世界で、あたしはこれまでのことを思い返す。
どうして、こんな事態になったんだっけ――。
*
「おまえは死にました」
立ったまま目が覚めると、ものの数秒でそれを言われた。
全く思考が追いついてない。
足元をみると雲海みたいなものがもわもわとまとわりついており、声の方向、つまり前方を見ると、日が沈む直前のような黄昏を背景に、どこかの絵画に出てきそうな白い布を重ね合わせで装着した金髪の女がこちらを見ている。
と、いうよりジト目でにらんでいる。
「……と、いきなり言われても」
気圧されながらも、とりあえず反論の声を上げてみるが、金髪女は目から光線でも出ているのかというほど強い視線を送り続ける。
「いや、死にました。異論は認めません。私は女神とかいう存在です。次の予定が迫っているので手短に説明します。ちなみに、おまえの生前に興味はないので、後で自己紹介でもしてください」
「いや、雑だな?!」
「で、死んだのでおまえは異世界転生します。が、昨今の異世界転生しすぎる件は業界でも問題となっており、急な退職が多数発生したせいで設定を作っている暇すらありません」
「なんとも世知辛い話だね……」
よくよく見ると、女神はジト目なのではなく、単純にまぶたが上がらないのだ。
30連勤くらいして、平均睡眠時間が5時間切るとなる顔である。
「というわけで、最近開発されたAI球をお供に連れていきます」
「AIって、なんかとても現代的なアイテムが来た?!」
「おまえが分かりやすいよう、便宜上の名前にしているだけです。世界の設定とか、おまえの能力とかそういうのもその子にお願いしてください。常識の範囲内でなんでも生成できます」
「何気にすごいやつなのでは」
「詳細はAI球に聞いてください。ああ、もう次のスケジュールが……! ではさよなら! グッドラック!」
ぽい、と黄金に輝く球を投げつけられ、その直後に世界は一気にホワイトアウトし――。
*
「こうなった、と」
「ですね。というわけで、この世界をどうしましょうか、ごしゅじんさま」
「うーん、本当に何も決まっていないの?」
「ええ。異世界ということだけです。世界観も設定されていませんし、フィールド情報も、展開も白紙。ごしゅじんさまがこの世界で何者なのかすら、なんなら性別年齢職業生い立ちすら決まってません」
「マジか……、じゃあ面のいい男が大量に現れて、姫プ決めてもいいってこと?!」
「全く問題はありませんが。ただ、一応ルールはあって、サイトの規約に触れない内容であれば、ということにはなりますが」
「なに、サイトって」
聞き捨てならぬ情報をゲットした気がするけど、その先を確認するのが怖すぎてすぐに忘れることにした。
うーん……、それにしてもどうしたものか。
「ごしゅじんさまの願いは、なんですか?」
AI球の、男性とも女性ともつかない合成音声のような響きを耳で受け止めながら、あたしは考える。
何もなかった人生。
何か特別になろうとして、何にもなれなかった人生。
年齢は……、二十代後半だったかな。
中学高校の頃はたくさんのやりたいことがあって、アイドルになりたいとか、シナリオライターになりたいとか、有名なピアニストになりたいとか、イラストレーターになりたいとか。
そのどれもが、気が付けば何も叶わないまま、過ぎ去っていた。
そして、気が付けば大人になり、普通に就職して、そして。
死んだ、かあ。
本当に何もなかったんだ。
この目の前に広がるどこまでも広がる世界のように。
だから、どうしたらいいかすら、よくわからないけれど。でも。
「せっかくだから、あたしが主役の、ドキドキワクワクする世界を楽しみたい!」
子供じみた、とか言われると思う。
でも、せっかくの機会なんだし、思いっきりこの物語をエンジョイしたい。
あたしの叫びを聞いたAI球は、近くに寄り添う。
そして、素晴らしい一歩が始まる。
と、思ったのだが。
「……あまりにも漠然としすぎて、生成が出来ません。もっと具体的なイメージを
「ああああ、やっぱりそういうやつかああああああああああ!!!」
真っ白い世界に、あたしの叫びがどこまでも
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