【頭出し】戦姫(バトル・アイドル)は今日も踊る(仮題)【プロローグ】

『残り10秒! これが最後のアタックになるかー!?』



 場内のアナウンスと共に、会場のボルテージは一気に上がる。


 左手に剣を抱えるように持ち、天地逆で空をくるくると舞うあたしは、着地の位置と標的ターゲットとの間合いを確認しながら、不敵な笑みを浮かべる。



 全身の筋肉が悲鳴を上げていて、そのまま倒れ込みそうなくらい苦しいけれど。


 でも。最後はキメる。


 絶対に――!



「奥義! ギガ・エアリアルファイブ!」


 

 着地と共に深く屈みこみ、一瞬だけ溜めを作ると、目の前の一つ目巨人サイクロプスが右腕の棍棒こんぼうを振り下ろすより幾分いくぶんか早く内側にステップインし、そこからあごへ向けて黄金に輝く剣先を振り上げる。


 カウンター気味に入った得物えものの反動で、一気に空へと打ち上がった巨人の後を追うように空へと舞うと、そのまま左腕のつけ根に三度突きを入れ、がら空きになった胸部へと渾身こんしん袈裟斬けさぎりを打ち下ろす。


 一つ目巨人サイクロプスが倒れ、あたしが着地した瞬間に、終了のブザーが鳴り響いた。



『終了ー! まさに圧巻の演舞レイヴ! ダメージカウント、コンボ数ともにジュニアチャンピオンの歴代記録を大きく塗り替える新記録! 芸術、技術審査待ちですが、間違いなく今年の優勝は彼女でしょう!』


 円形になった会場の中心にいるあたしは、ゆっくりと立ち上がると、地鳴りのような歓声を浴び続ける。

 

 心地よい疲労と相まって、それはどうしようもなく幸せで、まるで夢の中に居るようで――……。



「はっ?!」



 目を開くと、そこはよく見慣れた自室の光景だった。

 

 天井の照明は暗く、左右を見ると本棚やクローゼット、机などがいつもと変わらない日常を示している。


 

「夢……夢オチかあ」



 思わず笑いがこみ上げてくる。


 こことは違う世界で、今より小さい頃のあたしが、戦っていた。


 いや、戦うというよりは、まるで戦いの踊りを舞うゲームをしているような、そんな感じだった。


「ふふふ、変なの」


 

 運動神経皆無、中学高校と体育の通知表は進学出来るスレスレのあたしが、あんな凄い動き、出来るはずがない。



「もうちょっと見ていたかったなあ……」



 と、春が近くなったとはいえ、まだ肌寒い朝の冷え込みを感じながら、毛布を目深に被ると再び眠りに就く。


 デジタル時計をちらりと見ると、時刻は3:58、日付は4月2日。


 エイプリル・フールは、もう終わりを告げていた。

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