【先行一話】妹が三国志演義の関羽になった件~学園独立行政特区「ヨコハマ」で天下統一を賭けた戦いが始まります~
横浜中華街、
中国の三国時代に名を
死後、「関帝」として武勇だけでなく商売の神としても中国文化に根付いたその偉大なる英雄は、こうして多くの人に願いを捧げられる存在となっている。
からんからん、という木などで作られたおみくじである
「ご利益あるといいなあ」
「そうだねえ、ってお兄ちゃんは何をお願いしたの?」
「んー……さあ、どうだろうね」
口にすることはちょっと恥ずかしい、ささやかなお願いだ。
でも、それが彼の今の全てだった。
すなわち、
――妹とずっと一緒に居られますように。
このヨコハマが学園独立行政特区、すなわちひとつの「学園国家」として認められて、はや10年。
今の『皇帝』が天下統一を果たすまで、多くの涙と悲しみの物語があった。
「ね、お兄ちゃん、手を
「お、おう……」
小さい頃から迷子になりやすい
だが、そうはいっても、お互い高二と高一だ。
ぐっと近くなる朝雨の長い黒髪から
と、
「そこのカップルさーん、お昼はうちで食っていかないかアル!」
ちょうど向こうから自転車に乗って来た一人の若い女の子に呼び止められる。
サイドにスリットが入った赤いチャイニーズドレスに、茶色の髪をツインテールに結わえた大層な美少女だが、二人は全く覚えがなく、中華街によくあるキャッチーだと思って軽く
「ちょっと、酷いアル。ワタシアルよ!」
自転車を止め、内ポケットから黒い丸眼鏡を取り出し、掛ける。
「あ、金澤さん」
「そーアル! 全く、こんな美少女を忘れるなんて酷いアル」
「……お兄ちゃん。誰、この女」
「あー、この人はね、同級生なんだ」
彼女は
同じ戸塚にある高等分校のクラスメートだ。
普段は眼鏡をかけ、目立たない雰囲気なので、明徳はその派手な姿に内心驚く。
「でも、金澤さん。どうして中華街で? あと、その口調……」
「勿論、バイトアル! といっても、親の仕事の手伝いアルけど……、あと、この口調はいかにもな営業口調アル」
そう言うと、何とも自慢げな表情で江美は胸を張ると、そこにあるふくらみが大きく
制服の時は全く分からなかったが、相当なボリュームがあり、明徳は思わず目を向けてしまう、と。
「ッ痛!」
「ちょっと、お兄ちゃん。どこみてんの」
「いや、まあなんというか」
朝雨のやけ冷たいジト目を浴びながら、明徳は明後日の方を向き
目を向けた先の細い路地に差し込む
と。
「ん、急に
突然、黒く分厚い雲が空に広がり、辺りは一気に暗くなる。
と、一同の持っている端末が一斉に鳴り始める。
江美はすぐに確認すると、見る見るうちに青ざめていく。
「なんてことアル……、皇帝が、皇帝が……」
明徳と朝雨も
「皇帝が、卒業なされたアル!!!!」
まさに、乱世の訪れを告げるものだった。
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