糸の一生

高黄森哉

俺は一本の紐


 二つの糸は、絡み合い、一本の糸を形作った。俺の場合、親は白だったので、白色でしかない。こういう糸は純色として、尊敬の対象になった。


「なあ。今夜は俺と」

「ええ、いいわ」


 その糸は、純色の赤糸だった。俺は、この糸と子糸を結ぶつもりは、毛ほどもなかったが、ただ、遊びなら、悪くないだろうと思った。遊びでの、二本の絡まりは、子結いの練習にもなるはずだ。



 *



 俺は糸を、赤糸の輪の中に通した。それは、まるで針の穴に糸を通すような、厳しさだった。無理もない、初めてなのだ。糸は、穴に糸を入れられると、その身をくねらせた。俺は輪をつくると、その糸を引き入れた。その作業を何度も、繰り返し、糸の交差は、幾重にもなった。この糸の、真っ白なのたうち。白い俺の糸を、赤い穴から引き出す、すると、白い糸が、するすると出てきた。赤い輪っかから、白色の糸が引き、たわんだ糸の頂点は地面に垂れる。赤い糸の為す円から、ほつれた赤い屑が、白い糸に引っ張られて出て来る。俺は思った、この糸は、結ぶのが初めてなのだろうと。もし、以前にこういうことがあったなら、こういう長い、産ぶ糸は、糸と糸の摩擦で削れ切っているはずだ。俺という糸を、赤糸に通すたびに、赤いほつれが、どんどんひどく激しくなり、心配になったが、これは致命的ではないことを知っているので、糸と糸の、このもつれを中断することはなかった。

 二つの糸は絡み合ったまま、お互いを確かめ合った。また、様々な結び方を試した。糸と糸の方結び、糸と糸とのちょうちょ結び、糸と糸とのこんがらがり。お互いが混ざり合い、一本の糸になるような感覚がした。実際、この糸となら、一本の糸になってもいいのではないか、という気持ちにもなった。純潔がなんだ。紅白とて、綺麗じゃないか。この糸こそが、運命のあかい糸だったのだ。

 糸のあやとりは、その後も続き、身体から、摩耗した糸が出てくる出て来る。体がこすれ合った、焦げ臭い匂いが、部屋内に充満している。もうだめだ。体から吹き出る、糸くずがベットを白く、また赤く、汚した。しぬ、し、しぬ。


「同じ糸になりたい」

「そうしよう」




 *



 これは糸の集合である。横糸と縦糸の織りなす、一枚の作品だ。近くで見ると、その縦横に走る糸の一本一本が、細い糸が、寄り集まったものだと分かる。これは、先祖の情報だ。二本の先祖が、密接により合わさった二重螺旋を、より集め、現代の立派な太い糸を形作った。糸という先祖の糸の絡まり、その糸と糸の天衣無縫の連なり、糸のなす、この薄い塊。それは一枚の布だった。


 そして、この一枚の布は、巨大な布の切れ端でしかない。

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糸の一生 高黄森哉 @kamikawa2001

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