おまけ(閲覧注意)
※エピローグ直後の話となっています。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「疲れた〜」
あれからも私と水間くんは、事ある毎に声をかけられ、写真を求められ、まったく休む暇もなかった。
だけど、そんなイベントももう終わり。
ようやく休めると、会場を出たところにあったベンチに腰を下ろす。
ちなみに、今この場にいるのは私だけ。水間くんはコスプレから私服に着替えるため、一時私たちとは別行動。私も今は私服に着替えていて、コスプレ衣装は既に小百合に返してある。
その小百合はというと、ただいまトイレ中。荷物はここに置いたままにしてあるから、私はその見張り役を兼ねていた。
それにしても、その小百合の荷物、すごい量だ。さっき返したコスプレグッズだけじゃない。
このイベントは私たちみたいなレイヤーもいるけど、メインは同人誌即売会。小百合は色んなサークルから同人誌を買い漁り、何袋分にもなっていた。
これだけ買うお金、いったいどこから出してるんだろう?
そんなことを思いながら、袋の中を覗いてみる。
やはりと言うべきか、小百合の買った同人誌のほとんどは、『ウィザードナイトストーリー』の二次創作だ。
ほとんどの表紙には、私と言うかエミリアや、その仲間たち、それにラインハルトなど、お馴染みのキャラのイラストが書かれていた。
以前の私なら、前世の自分をこんな形で見るのはちょっぴり複雑な気分になりもしたけど、きっちりケジメをつけ、貝塚恵美として生きると決めた今は完全に吹っ切れている。
むしろ、私たちがどんな描かれ方をしているか気になるくらいだ。
「うーん、ちょっと見て見ようかな」
小百合が帰ってくるまで待って許可をとろうかとも思ったけど、ほんの少し見るくらいなら、別にいいよね。
というわけで、袋から何冊か取り出し、どれを見ようか物色する。
その中でひとつ、特に目についたものがあった。その理由は、表紙に描かれたイラストだ。
そこには、ウィザードナイトストーリーの攻略対象全員が勢揃いしている絵が描かれていた。つまり、私のかつての仲間とラインハルトが一緒に並んでいたんだ。
しかも、本来敵であるはずのラインハルトがセンターを務めている。他のみんながラインハルトを囲んで、にこやかに笑っている。
こんなのは、ラインハルトルートでもなかった構図だ。
「私の仲間たちとラインハルトが仲良くする。そんなルートも、もしかしたら作れたのかもしれないわね」
それは、前世では決して叶うことのなかったもしもの話。けれどこういう形でなら、そのもしもを思い描いてもいいのかもしれない。
「よし、決めた。とりあえずこれを読んでみよう」
そう決めた私は、さっそくページを捲ったのだった。
そのすぐ後、絶句することになるとも知らずに。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「な、なにこれ……」
そこに描かれているのが何なのか、私には理解できなかった。
いや、最初の方はある程度わかったよ。エミリアの仲間たちが、なんやかんやでラインハルトと仲良くなって、なんやかんやで一緒に過ごしている。そんな平和な時がやってきたって設定らしい。
だけどね、だけど、それからが問題なの。
「な、なんでみんなが寄ってたかってラインハルトを××して、その××を××しながら、あまつさえ××で××で××××なんてやってるのよ……」
えっ? 何があったか全然わかんないって? しょうがないじゃない。だって、とてもそのままじゃお伝えできない内容なんだもん!
つまり、まあ、あれだ。BのL的な香りのする、伏字にしなきゃいけないようなことが展開されてるってこと。カクヨム的に言うと、セルフレイティングの性描写有りにチェックが入るような内容! ううん。カクヨムでこんなの書いたら公式から垢バン食らうかも。
と言うわけで、そんなことにならないため、伏字にさせていただきました!
っていう言うか、何これ? ウィザードナイトストーリーって、エミリアが男性陣と恋をする話だよね。その同人誌でどうして、ラインハルトと他の攻略対象たちが性描写有りなことやってるわけ?
「恵美、それを見てしまったのね」
「えっ? さ、小百合!?」
急に声をかけられ、本からそっちへと視線を向ける。そこにいたのは、トイレから戻ってきた小百合だ。
「ねえ、小百合。これどういうこと? どうしてラインハルトがみんなに××で××で××××なことされてるのよ!?」
「恵美、落ち着いて! それは二次創作だから何でもありなの!」
落ち着いてられるか! 二次創作だから何でもあり。それはわかった。
けどいくら何でもありだからって限度ってものがあるでしょ!
だけど小百合は、とりあえず落ち着いてと私を宥めると、ゆっくりと語ってくれた。
「それは総受け本と言いまして、一部の人にとっては大変美味しいシチュエーションを描いたものとなっています」
「そ、そうなの? 美味しいって、これが?」
「そう。ただし、見ての通り少々人を選ぶ内容となっていて、特殊な訓練を積んだ人だけが正しく嗜むことのできるものとなんだよ」
「……じゃあ小百合は、その特殊な訓練を受けてるってこと?」
「私はプロフェッショナルです」
なるほど、わかった。私には衝撃だったけど、好きなものは人それぞれ。小百合の好きを否定する権利なんてないし、これ以上何か言ったり追求したりするのはやめておこう。
「あっ、それと恵美。その本18歳未満は読んじゃダメなことになってるから、取り扱いはくれぐれも慎重に──」
「それって、小百合も読んじゃダメってことじゃない!」
前言撤回。いくら好きでも、否定しなきゃいけないものもある。
それと、言わなきゃいけないことがもう一つ。
「小百合。この本の内容、水間くんには絶対に言っちゃダメだからね」
「わかってるって。私もそれくらいの常識は弁えてるよ」
「いや、常識がある人は年齢制限を破ったりしないから!」
かくして、この本は水間くんの目に止まることのないよう、袋の一番奥へとしまわれた。
水間くんは知らない。前世の自分が、腐がつく女子たちの格好のターゲットにされていることを。
知らない方が幸せなことって、あるよね。
[完]
前世は聖剣で戦う乙女ゲームのヒロインでしたが、今は現代に転生してJKやってます。 〜同じクラスにかつての宿敵だった魔王っぽいのがいるんだけど〜 無月兄 @tukuyomimutuki
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