こないだの結婚テスト、何点だった?

ちびまるフォイ

実地訓練からが本当の勉強

「みなさん、今日から学習指導要領が変わりました。

 新しい科目として"結婚"という学問がくわわります」


「ケッコン……?」


「これが教科書です。うしろの人に回してください。

 みなさんはこれから結婚の素晴らしさを知るとともに、

 どうすれば幸せな家庭をつくれるかを学んでいきます」


そんなわけで新しい科目の『結婚』がはじまった。


「ではこの3行目から読んでもらえますか?」


「はい。

 『私達の人生の目的は幸せな家庭を作ることです。

  そのために生まれ、そのために死ぬのです』」


「ありがとう。では続きを……〇〇さん、お願いします」


「はい。

 『幸せな家庭を作る最終目的のために、

  夫婦は常に協力し、お互いを尊敬しなければなりません。

  これは男の仕事だとか女の仕事だとかいう差別はもってのほかです』」


「本当にそうですね。では続きを△△くん」


「はい。

 『今みなさんにはそれぞれ好きなことや趣味などがあるかと思いますが、

  自分のことを優先させすぎると幸せな家庭は作れません。

  幸せな家庭を作るために、自分を削って我慢して捨てさる勇気もまた必要です』」


「ありがとう。みんなも覚えてね。それじゃ今日の結婚授業はここまで」


「あーーおわったーー」


「宿題も出しておくから、明日までに自分の思い描く幸せな家庭を作文にして提出してね」


「「 ええーー 」」


「ええーーじゃない。これもみんなの幸せを思ってのことなんだから。

 ちゃんと結婚を勉強しないと幸せになれませんよ」


最初こそ結婚科目にぶつくさ文句を言っていた生徒たちだったが、

それも時間とともに慣れて真面目に勉強するようになった。


すっかり結婚の義務教育が浸透しきった定期試験の終わりのこと、

たかし君とその母親はどういうわけか先生に名指しで呼び出された。


母親はわかりやすく焦っていた。


「あ……あの、うちのたかしがなにかしたんでしょうか?

 窓ガラスを割って回ったとか……?」


「いえ、たかし君の素行にはなんら問題ありません。ただ……」


「ただ?」


「このテストを見てください」


「じゅ、10点!? 結婚テストが……10点!?」


「たかし君は無回答じゃなくて、ちゃんと答えて10点なんですよ。

 これはちょっとたかし君の結婚観に問題があるとしか……」


「どうして!? どうしてなの、たかし!?

 どうしてこんなに結婚の勉強ができないの!?」


「ご家庭でなにか問題とかは……」


「ないですよ! 私たち夫婦は真面目にたかしを育てました!

 なのに……なのにどうしてこんなに精神的に問題ありありの子に……っ!」


「たかし君、なにか悩みでもあるの。先生に話してごらん」


「悩みは……特にないですけど……」


「たかし、正直に話しなさい! 私の育て方がまずかったのならそう言って!!」


たかし君は表情を変えることなく真面目な顔のままだった。



「先生、結婚成績が低いぼくは幸せになれないんですか」



「はい。幸せになれません」



先生は即答だった。



「どんなにお金を稼いでも、どんなに人から褒められることをしても

 結婚して家庭を作れなければ、人間は絶対に寂しいんです。

 心のどこかで満たされない気持ちが常にあり続けるんです」


「そうなんですか……」


「それに結婚でいい成績を取れなければ、

 進学することもできず、就職もできず、ひいては結婚もしにくい。

 結婚学ができない人間は一生幸せになんてなれないんですよ」


「ああ先生! たかしを! たかしをどうか見捨てないでください!!」


「もちろんですよお母さん。私は自分の生徒を見捨てたりなんてしませんっ!」


「先生っ……!」


「これからたかし君とは、放課後につきっきりで結婚の補習をします。

 正しい結婚の価値観を必ずや教えてみせます!

 大丈夫、留年なんてさせませんよ。必ずみんなと一緒に卒業です」


「先生……! ありがとうございます! ありがとうございます!!!

 ご結婚されている先生からの指導なら、なお心強いです!」


母親は腰を深くおって何度も頭をさげた。


「たかし、わかったね? これからはみっちりこってり先生に結婚の素晴らしさを教えてもらうんだよ? じゃなきゃ幸せになれないからね」


「うん、わかった。先生、でもひとつだけいいですか」


「なにかな。結婚に関する質問なら何でも聞いていいよ」


「先生も同じテストを受けてもらえますか?」


「たかし、なんてこと言うの! 先生は結婚して、結婚学も教えてるのよ! 失礼でしょ!」


「いいんですよお母さん。やらせてください」


そういって先生はテストを受けた。


テストは先生が作っているわけではなく、政府から定期的に配布されているもの。

個人の価値観で結婚観がねじまがってはいけないのだ。


やることといえば、結婚教科書を読んですばらしさを説き、

テストの解答用紙と答案用紙を見比べてマルつけるくらいだった。


先生の得点を見て、たかし君は首をかしげた。


「先生、教えてください。どうして結婚しているのに点数が低いんですか。

 先生は結婚しているのに幸せじゃないんですか?」




「うるせぇーー!! 結婚生活が教科書どおりにいくわけないだろーーーー!」

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