6. クラスの出し物を決めよう
「それじゃあ出し物を決めるよ!」
「…………」
はは、男子達が睨んでらぁ。
変わりたければ変わってやるぜ。
「私が司会するから春日君は書記係お願いね」
チクショウ、笑顔で脅すんじゃねーよ。
はいはい、やりゃあ良いんでしょ。
だからこれ以上妙なことはするなよな。
「それじゃあ案がある人~」
おお、結構手が上がるな。
やる気がある人が多くて結構結構。
案が出なくて静まり返ってしまうのが最悪なパターンだからな。
でも焼きそば、たこ焼き、メイド喫茶、お化け屋敷など定番のものばかりだ。
「ねぇねぇ春日くん」
「え、俺?」
クラスの女子が話しかけて来た。
おいコラ男共、そのくらいで苛つくな。
騒介こっち睨むな。
「春日くんが作れるのが良いんじゃない?」
ああ、なるほど。
俺が料理が得意だからってのがそもそもの文化祭実行委員に選ばれるきっかけだったか。
だから俺が作れるかどうかで内容を決めるのはどうかってことね。
でもなぁ……
「多分全部作れるぞ」
「…………」
焼きそばだろうがたこ焼きだろうがお好み焼きだろうがオムライスだろうがかき氷だろうが、大抵のものなら作れるぞ。
「え、そうなの? じゃあたこパやろうよたこパ」
禅優寺いいいい!
そこで親し気に誘ってくるんじゃねーよ!
「良いね! 私もやりたい!」
ナイスだクラスメイトの女子。
この流れに乗ってやるぜ。
「騒介も参加するか?」
「無理無理無理無理!」
知ってる。
コミュ障陰キャの騒介がクラスの陽キャたこパなんかに参加できるわけがない。
「じゃあ他の男子は?」
だが騒介以外は違うだろう。
「やるなら俺も参加するぜ!」
「俺も俺も!」
くっくっくっ
これで禅優寺が
しかもクラスの男子達が禅優寺と一緒に遊べるきっかけを作ってやったことから俺へのヘイトが多少は緩和されたはずだ。
「あ~それはまた後で話そうか」
禅優寺もこのまま話を進めても無意味だと分かったのかひとまずは退いてくれたか。
寮でたこパを所望されるかもしれないが、まぁそのくらいは良いだろう。
激辛攻撃でもして…………栗林が被害を受ける未来しか見えないな。
「他にアイデアがある人~」
このままだと間違いなく上級生とバッティングしてしまう。
占い、脱出ゲーム、バナナジュース。
どれも人気がありそうな出し物だよなぁ。
脱出ゲームくらいならワンチャン被らないか?
「大体アイデアは出揃った感じかな?」
うんうん考えている人もいるけれど、何かが出て来そうな雰囲気は無いな。
「この中で多数決を……って言いたいけど、無理そうだよね。あはは」
禅優寺も少し渋い顔になっている。
もしどの案もダメとなると、つまらない展示だけという最悪な展開にもなりかねないからな。
やる気が無いクラスならそれでも良いのだけれど、やる気があるのに展示だけというのは流石に勿体ない。
「春日くんは何かアイデア無い?」
ここで俺に振るのか。
そうだな、どうせ俺が面倒を見なきゃならないのだから、真面目に考えてみるか。
「出し物って大きく分けて屋台、教室での飲食系、教室での飲食以外のサービス、教室での展示、体育館でのステージ、くらいか? この中でまずは皆がやりたいタイプを考えたら良いんじゃないか?」
「なるほど」
漠然と考えるよりもジャンルを絞った方が案が出やすいんじゃないかって思っただけだが、乗ってくれたようだ。
そして俺達のクラスは教室での飲食系をやってみたいとの意見が多かった。
「教室での飲食って言ったらやっぱり喫茶店なのかな。でも喫茶店は被っちゃうよね」
「そんなこと無いだろ」
「え?」
文化祭ならこれだって固定観念に囚われちゃってるのかな。
「要は喫茶というサービスに付加価値を与えればオリジナルの出し物になるわけだ」
「付加価値?」
「皆が大好きなメイド喫茶や執事喫茶が定番だな」
喫茶店というサービスにメイドや執事というプラスアルファのサービスを追加している訳だ。
「他にも例えば花を置けばフラワー喫茶、本を置けば読書喫茶、音楽を聞かせれば音楽喫茶。音楽だったら誰かが演奏しても面白いし歌だって良い。映画を流しても良いし、クラスメイトが何か特技を披露するショーを見ながら飲み食いしてもらうのも面白いかも」
飲んだり食べたりしながら何かをする、という縛りで考えるなら思いつくものなどいくらでもあるはずだ。
「そっか、あまり難しく考える必要無かったんだ」
「そういうことだ」
良かった。
クラスメイトがそれならアイデアが出そうって顔になってきたぞ。
ならもう一つおまけだ。
「後は出来そうにないことも挙げてみたら良いかもな。それが出来なくてもそれを元に別のアイデアを閃いたりするかもしれないからな。猫カフェとかさ」
大事なのはアイデアをひたすら出して発想を膨らませることだ。
俺の考えが功を奏したのか、沈黙しかけていた教室内に活気が蘇って来た。
みんな好き勝手言うから板書するのが大変だぜ。
「いっそのこと喫茶店じゃなくてレストランにしちゃうとか」
「道の駅みたいにお土産も売ってみるとか」
「逆にお客さんに料理を作ってもらって春日くんと勝負してもらうとか」
おいコラ。
微妙に面白そうだと思う企画は止めてくれ。
でもそれだと料理を作るの俺だけになっちまうからNGだ。
「今度はアイデアが出過ぎて困っちゃうね」
ここから絞ったりくっつけたりしてまとめるのが難しい。
今日は時間もあまり残ってないし、続きは後日かな。
と思っていたのだが、最後の最後で誰かさんが巨大な爆弾を落としてきやがった。
「じゃあ最後に私の案を言うね」
これは絶対に言わせてはならない。
俺の直感がそう囁いた。
だがこの状況で禅優寺の発言を止めるのはあまりにも不自然であり、どうすることもできない。
「レストルームとかどうかな」
直感が外れたのか?
名前だけだと特に俺に被害は無さそうなんだが。
「文化祭に来てくれた人に休んでもらうスペースにするの。例えばフカフカな椅子を用意して音楽を聴きながらリラックスして飲み物を飲んでもらうとか」
しかもそれなりに真っ当な案にも思える。
「静かなスペースで私達がお話し相手になって優しく聞いてあげるとか」
それならクラスメイト達にも料理以外の役割があるな。
「そして一番の目玉がベッドで寝てもらうこと!」
おや、雲行きが怪しくなって来たぞ。
「どうして寝るのが一番の目玉なの?」
クラスの女子さん、それ聞いちゃう?
怖くて聞けないんだが。
「だって春日くんがベッドメイクしたら最高に気持ち良いベッドになるから!」
ぎゃああああああああ!
なんてことをっ……なんてことを言いやがるんだ!
「え……禅優寺さん何でそんなこと分かるの?」
「……あ」
あ、じゃねーよ、あ、じゃ。
どう見てもわざとの癖にまた間違えた感を出しやがって!
せっかく良い感じに俺のヘイトが薄まって来たのに、また男共からの視線がヤバくなってるじゃねーか!
どうして禅優寺が俺がメイクしたベッドが気持ち良いって知っているかなんて、言い訳思いつかねーよ!
「あ、その、違うの、ちょっと春日くんの部屋で寝たことが……あ! そういう意味じゃないからね!」
てんめええええええええ!
それは百パーセント嘘じゃねーか!
「か~す~が~く~ん、どういうことかなぁ?」
「ちょっとお話を聞かせてもらおうか」
「やっぱりてめぇ禅優寺さんに手を出してやがったな!?」
どうしてくれるんだ。
このままでは嫉妬した男共に調べられて寮父バレからの追放一直線だぞ。
そうなっても良いって言うのか!?
「あははは、ごめんごめん冗談だって。前に春日くんがベッドメイクが得意って話をしてたのを聞いたことがあるだけなの」
「なんだ、そうだったんだ」
「そりゃあそうだよね」
「冗談きついよ~」
クラスメイトに微妙にディスられているような気がしなくもないがまぁ良い。
禅優寺め、最初から冗談で済ますつもりだったのか。
心臓に悪すぎるわ。
まさかこいつ、今後もこの手のやり方でからかってくるのか?
マジで勘弁して欲しい。
「それじゃあ今日はこのくらいにしよっか。春日くん、後でこのアイデア一緒にまとめようね」
「……ああ」
もちろん二人っきりでだよ、と露骨に目線で訴えかけてくるが、今のマウントを取られている状態で断れるわけが無かった。
ちなみに文化祭のクラスの出し物はレストルームに決まった。
マジで!?
――――――――
あとがき(次の更新で消えます、多分)
次の章は丸々文化祭にすることは決めているのですが、内容も展開も未決定なので再開までに少し時間が空くかもです。
女子寮の寮父は今日も彼女達の面倒を……おい、下着は自分で洗えよ! マノイ @aimon36
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。女子寮の寮父は今日も彼女達の面倒を……おい、下着は自分で洗えよ!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます