5. 文化祭実行委員選出 ( オチが見えている )

「酷い目に遭った……」

「玲央暗いね、何かあった?」

「体育祭での騒介の騒ぎが落ち着いてしまった」

「何でだよ! というか蒸し返すなって!」

「男共に睨まれてた騒介マジ面白かったZE」

「すげぇ良い笑顔なのが超ムカツク」

「俺はすげぇ楽しい」

「こいつ……」


 はぁ、やっぱり騒介とのお馬鹿な会話は癒されるわぁ。


「んでマジで何があったんだって」

「まぁ家で色々とな。大丈夫だから気にすんな」

「りょ」


 騒介に相談出来る話でもないし、したところで役に立つとは思えないからな。


「今失礼なこと考えたでしょ」

「はっはっはっ」

「否定して!?」


 こうやって話し相手になってくれるだけで十分だよ。

 それに俺の境遇って他人から見たら『爆発しろ』の一言で済んでしまうからな。


 だって簡単に説明すると『美少女達と美人の姉に振り回されて困ってます』だぞ。

 俺だったらぶん殴りたくなるわ。


「皆、今日のクラス会を始めるわよ」


 高校生にもなってクラス会かと思わなくもないが、うちの学校は月に一度だけクラスで自由に使える時間が一コマ分ある。

 予定が無い時は外でソフトボールをやったり卓球をやったりとスポーツをするのが定番だ。


 今回は『予定』があるからスポーツは無しだけどな。


 司会をするのは学級委員。

 メガネをかけた真面目そうな男女が選ばれるおしつけられるのは高校生になっても変わらない。


「今日はクラスの文化祭実行委員を決めます。後、出来れば文化祭の出し物案も今日のうちに決められたらと思います」


 もうすぐ文化祭か。

 体育祭もそうだったけれど、うちの学校は普通のイベントが多い。


 文化祭の内容も堅苦しい出し物があったり逆に派手すぎる出し物があったりすることはなく、ごくありふれたお店形式のものや体育館で文化部の出し物がある程度のものだったはず。

 生徒会長の東雲先輩がトップとなって主導しているので、あの人なら突然奇をてらったことをすることは無いだろう。


「まずは文化祭実行委員ですが、立候補する人はいますか?」


 俺はやりたくない。

 文化祭に興味が無い訳では無く、文化祭実行委員で時間を取られたら寮のことが疎かになってしまうかもしれないからだ。


「騒介やったらどうだ」

「普通に嫌だよ!?」

「こういうの好きじゃん」

「陰キャだって知ってるくせにぃ……」


 こんな風に弄ったら、大抵弄った側にお鉢が回ってくるものだが大丈夫だろ。

 このクラスはイベントごとが好きな人が割と多い。


 立候補が出なかったとしても、陽キャ達の間でスムーズに話が決まるだろう。


「はい!」


 ほらな……!?!?!?!?


「ぶほぅ」

「うわ、玲央汚ねーよ」

「わ、わりぃ」


 ぬ……ぐぅっ……嫌な汗が、嫌な予感がするぅ!


「禅優寺さん、立候補ありがとう!」

「禅優寺さんなら大丈夫だな」

「うんうん」

「楽しくなりそう!」


 ここで禅優寺が文化祭実行委員に立候補だと。


 いや待て。

 焦るのはまだ早い。


 両親とのいざこざが解消されたあいつは自分の能力を解禁すると決めたはずだ。

 文化祭実行委員だって単にやりたいから手を挙げたに過ぎないだろ。


 そうだ、そうに違いない。


「後もう一人、男子は立候補いませんか?」

「俺やろっかな」

「禅優寺さんと一緒ならやっても良いかも」

「俺も立候補するぜ!」


 まぁそうなるよな。


 つい忘れてしまいそうになるが、禅優寺はこの学年の三大美少女の一人と言われているんだ。

 あいつが実行委員に立候補したのなら、下心のある男子達が寄って行くのは当然の流れだ。


「これが禅優寺さんの力かぁ。でも残念ながら一人なんだよね。どうしよう、クジ引きでもする?」


 くじ引きでもじゃんけんでも何でも良いからさっさと決めちゃってくれよな、委員長。


「禅優寺さんもクジで良い?」

「う~ん、指名しても良い?」

「え、一緒にやりたい人がいるの?」

「うん」


 ざわっ


 帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。


 マジで止めろよ。

 分かってるだろ。


 俺とお前が親しい間柄だなんて同級生にバレたら、何かの拍子で俺が女子寮に住んでいることもバレるかもしれない。

 そうなったら破滅が待ってるんだぞ!


「私が一緒に委員をやりたい人は~~~~」


 溜めるな溜めるな、不必要に溜めるな!


「春日くんです!」


 知ってた。


 くそぉ、なんてことしやがるんだ!


 ざわめきがやべぇ。

 女子達からは好奇の視線を浴び、男子達からは憎しみの視線を浴びている。


「ま、待ってくれ。何で俺なんだよ。もっと仲の良い奴とかいるだろ」


 真っ当な反論だ。

 俺達はこれまで親しい関係であることを徹底して匂わせてこなかった。


 それなのに突然俺を指名するだなんて明らかに変なのだ。

 俺は何もしていない、皆こっち見るな!


「だって春日くん、料理が得意でしょ。文化祭ですごい役に立ちそうじゃない」


 確かに文化祭で飲食の出し物は鉄板だ。

 俺が役に立てるかどうかと言われれば役に立つ自信はある。


「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、それなら尚更委員じゃなくて裏方で仕事するよ」


 文化祭実行委員というのは、言ってみればクラスの出し物のリーダーのようなものだ。

 俺に技術があるというのなら実働部隊で活躍すべきであって、リーダーをするには別に相応しい人がいるはずだ。


「それじゃあクラスの出し物じゃなくて春日くんのお店になっちゃうじゃん。春日くんにはリーダーとして皆を技術的に指導して欲しいの」


 ぐうっ、口が回るやつめ。

 だがここで諦めるわけにはいかない。


 もしここで俺が文化祭実行委員になったとしたら何が起きるか。


 あいつが学校で自由に俺に話しかける権利が与えられることになる。

 必要以上にフランクになったとしても、委員の仕事を一緒にやって仲良くなったとでも言えば説明がついてしまう。


 こいつは学校という俺が唯一心安らげる場所すら奪おうというのか!


「でも飲食店をやるって決まってるわけじゃないだろ。むしろ飲食店は人気があるから三年生が優先されるだろうしさ」


 希望の出し物が被った場合は上級生が優先されるのがルールだ。

 定番物は選べないと思った方が良い。


「大丈夫だって、春日くんなら飲食店じゃなくても上手く出来るから」

「いやいやいや、無理だって」

「あはは、いけるいける」


 強引に押し通す気か?


 だが周りを見て見ろよ。

 クラスメイトは俺の言っていることに納得してくれている様子だぞ。


「禅優寺さん、流石に強引なのは可哀想だよ」


 話をしたことのない女子、ナイスアシストだ!


「そうね、やりたいって言っている男子が何人もいるのにやりたくないって人を選ぶのはちょっと……」


 委員長さん(女子)ナイスぅ!

 あなたが委員長で良かった!




「う~ん、でも私、あまり知らない・・・・・・・男子と一緒なのはなぁ」




「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 な、なな、なんてことを。


 自分が何を言ってしまったのか分かってるのか。

 教室内が一気に静まり返った理由が分かってるのか。

 皆が俺の方を不審な目で見ている理由が分かってるのか。


 分かってるよなこんチクショウ!


 あまり知らない男子と一緒は嫌。

 それは裏を返せば俺は良く知っている・・・・・・・男子ってことになる。


 こいつは俺達の繋がりをバラしやがったんだ。


「あっ……」


 しかもわざとらしく『やらかした~』って演技までするんじゃねぇ。

 それだと知り合いなのを意図的に秘密にしていた感が尚更出るだろうが。


「玲央、どういうことかな」

「お、おい騒介落ち着け。これは何かの、その、間違いだ」


 生気の無い目でこっちを見るんじゃねぇ!


「そういえば玲央って栗林さんとも仲が良かったっけ……」

「ばっ、知り合いなだけだって」

「栗林さんだけじゃなくて禅優寺さんまで……どういうことかな~?」

「いや、だから、別に俺は何もっ!」


 くそぅ、禅優寺め、気が狂ったか!

 ニヤニヤしてこっち見るんじゃねーよ!


「というわけで、春日くん、よ・ろ・し・く・ね」


 その目は言外に引き受けなければもっと暴露するからねと言っているように見えた。

 くっそおおおお!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る