第60話


 全てが終わり東京体育館を出ると、エントランスの前に鳳凰学園の選手達が集まっていた。その中でも赤髪で大きな体躯の豪は目立っていた。明らかに回りとは違うオーラを放つ豪の近くには、いまだに涙を流している選手もいた。良く見れば豪の目元も赤くなっている。そんな鳳凰の選手達に挨拶をした方が良いのか躊躇ちゅうちょしていると、私達に気づいた豪の方からこちらに来てくれた。


「よう大崎、今回は負けたが次は負けない。大学の試合でまた会おう。莉愛その時、大崎と別れていたら俺の所に来い」


「誰が別れるか!」


 珍しく大地が声を荒げた。


「未来は分からないだろう?なあ、莉愛」


 最後の最後までこの二人は……。


 睨み合う二人に莉愛は溜め息を付く。


「竹田さんは私のどこがそんなに良いんですか?私なんかより可愛い女の子が沢山いるでしょう?」


 竹田は少し黙ってから話し出した。


「俺はこんな見た目だ。デカくて目つきの悪い男に話しかけて来る女子など、そういない。皆が怖がって逃げ出す。でも……莉愛は違った」


 へ……?


 それだけ?


 私が怖がらなかったから?


「竹田さん、そんな女子そこら辺に沢山いますよ?」


「沢山なんているわけ無いだろう」


 莉愛の言葉に豪があからさまに顔をしかめ、低い声を出したその時、理花と美奈がやって来た。二人の首には今やトレードマークとなった赤いメガホンが提げられている。


「あれー?その人って鳳凰の竹田くんじゃない?」


「ホントだー。竹田くん負けちゃったけど、すごかったねー」


 そう言って二人は豪の前に立ち、ゆっくりと見上げた。


「うわー。観客席から見てた時も大きいと思ってたけど、近くに来るとホント大きい。196㎝だっけ?」


「ホントだー。見上げてると首痛くなる。わー!美奈見てみて、この手」


 理花が無理矢理に豪の手を取ると、自分の手と重ねて見せた。


「手もめちゃくちゃ大きい。この大きい手でスパイク打つんだ……。すっごく強烈だったもんね」


 怖がる様子も無く豪に話しかける二人に、されるがまま固まっていた豪だったが、美奈の声で我に返りたじろいだ。


「竹田くん、ちょっと私のこと抱き上げてみて」


 手を広げて美奈が抱っこをせがんだ。


「えっ……ちょっ……それは……」


「いいでしょ。ほら」


 竹田は美奈に言われるまま美奈の脇の下に手を入れると、子供を高い高いするように上に上げた。


 すると……。


「キャーー!すごい、すごい。高いーー!」


 嬉しそうな声を上げた美奈を見て、理花が目を輝かせた。


「次、私も抱っこ!」


 美奈を降ろした豪に、今度は理花が高い高いをせがんだ。そして理花に言われるがまま高く上げた。


「キャーー!すごい。背の高い人の目先て、こんな感じなんだ。羨ましい」


 自分の目の前で楽しそうにハシャグ二人に、豪は困惑した。


「おい!群馬の女は皆こんな感じなのか?俺が怖くないのか?」


 理花と美奈がそんな豪の言葉に、キョトンとしてから顔を見合わせた。


「あはは……。群馬の女性は、かかあ天下って言って働き者で強くて格好いい人が多いんだよー」


「そうそう、上州名物かかあ天下と、空っ風て言うし。群馬の女性は強いだけじゃないからね。懐の深さは他県に負けないよ」


 そう言って二人はニッと笑った。


 そんな二人の話を黙って聞いていた豪が、ポツリと呟いた。


「群馬は良いところだな」


 豪の言葉に理花と美奈が大きく頷いた。


「「うん」」


「群馬は良い所だよ」


「良かったら今度遊びにおいでよ」


 無邪気に豪に笑いかける二人に、豪は困った様な笑顔を向けた。



「ねえ、最後に皆で写真撮ろうよ」


「いいね。ほら、狼栄のみんな、鳳凰の人達も集まってー!」


 理花と美奈のかけ声に皆が集まってくる。


「「みんな笑ってー」」


「「さあ、行くよ。私に勝利を捧げなさい!」」



『カシャ』





  * fin *

































































































































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排球の女王様~私に全てを捧げなさい! 七瀬ごご @yume0830nagi

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