出会った頃
バイト中に先輩に手を振ったら、頷いてくれた!!!! めちゃめちゃ嬉しい。これだけで長寿になる気がする。帰りに並んで歩きながら、取り留めもない会話をした。自炊の話、学科の話、知り合いの話。その途中でコンビニに寄って、アイスを買った。同じラクトアイスの、先輩はチョコレート味。僕はバニラ味。先輩の部屋に上がらせてもらって、食べながら一口交換をした。間接キスにどきどきした。大して恋愛経験がないから、こんな程度で心拍数が上がる。男子高時代に同級生から告白(むろん男子だ)されても、あんまり相手にしてこなかったから、そのツケが今来ているような気がする。いいんだけど。その選択を後悔したことはない。本当に好きな人と恋愛をしたいから。
先輩のことを好きだと自覚したのは、共通科目で席が隣同士になった時からだ。教科書を忘れて慌てている僕に、そっと自分のを見せてくれたのが彼だった。お礼を言って目が合った瞬間に、恋に落ちた。有り体に言えば、好きな顔だった。三白眼がこちらを捉えているのがこたえられなかった。顔に血が集中する感覚を覚えて、慌てて顔を伏せた。赤くなるのが見られたら、ばれてしまう。幸い彼はなんとも思わなかったようで、ただ淡々と、ページをめくったり、閉じないように癖をつけたりしていた。危ない……高校生時代は翻弄するタイプだとかなんとか言われてたけど、単に気がないだけで、あったらもう分かりやすいったらない。経験値もないから何が正解かまるで分からなくて、ただちらちら彼の横顔を盗み見ては、ノートにちっちゃくデッサンを描いた。授業が終わった後にお礼を言うと、彼は首を振った。
「これくらい、全然」
「いえ、ありがとうございました……」
何か言葉を続けようと思ったけど、感情が動きすぎて何を言えばいいか分からなった。別れた後、しばらく頭を抱えていた。もう会えないのかな、いや、共通科目だから同じ学科だ、また会えるかも、などと思案しながらアパートまで帰ると、丁度二つ隣のドアの前に立つ彼にまた会った。神に祈ったのは後にも先にもこの時くらい。彼は唖然とする僕に気づいて、手をあげた。
「さ、先程はありがとうございました!」
あたふたと会釈すると、彼は「縁があるねぇ」と笑んだ。
「あ、あの、さっきのお礼がしたいので、お時間いただけますか……?」
と勇気を出して言えば、彼は頷いた。
「全然。同じ学科だよな? 俺は二年。君は?」
「僕は一年です」
「そうなんだ。どこ連れてってくれるの?」
包容力のある笑みに心が溶けた。
「あ、えっと、最近働き始めた遊園地があるんですけど、そこのタダ券持ってるんで、よかったら一緒に行きませんか……?」
もうただのデートの誘いだ。
「いいよ……というか、俺も遊園地で働いてんだけど、もしかして〇〇パーク?」
「えっそうです……バイト先まで同じだなんて……」
「ちょっと待って、俺ストーカーじゃないからね!」
「ふふっ分かってます」
僕は完全に彼に落ちてしまっていて、だからその後二人で行った遊園地は夢のようだった。本当に夢だったかもしれない。だから定期的にその時の話を彼に振って、幻覚じゃなかったことを確かめている。ついでに思い出にも浸っている。
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