先輩への気持ち
橋宮先輩は、大学の学科の先輩だ。いつも黒髪をぴちっとまとめていて、黒縁眼鏡をかけていて、鋭い目つきをしている。本当はすごく優しい人なんだけど、見た目で誤解されることもあるみたい。先輩のゴツゴツした手を、酔った勢いで触ったことがあるけれど、見た目に反して柔らかかった。そういう人だ。
アパートも一緒だから、よく部屋に上がらせてもらってる。髪の毛をピンクに染めてくれたのも先輩。最近プリンになってきたから、また染めてもらおうかな。繊細に動く先輩の腕をずっと眺めていたかった。鏡ごしに目が合った時に顔が赤くなったんだけど、気づかれていないだろうか。心配だ。
昨日は先輩と缶ビールを飲みながら、学科の試験対策をしてもらっていた。史学科だから、参考文献を念入りに読まなきゃいけないんだけど、教授によってコツがあるらしい。真面目な学徒である先輩は、そこらへんの知識に深くて、とても頼りになる。なんなら部屋にある文献を貸してくれる。それが目当てで付き合ってるわけじゃないけど、とても嬉しい。クレバーな彼はかっこいいし。
時折、真剣な目で文献を指し示してくれる彼の頬に触れてみたくなる。優しい曲線をなぞってみたい。でも僕らは恋愛的な意味で付き合ってるわけじゃないし、先輩はノン気だろうから、僕の気持ちを伝えるわけにはいかない。だから永遠の片想いをこじらせている。
バイト先も偶然一緒で、遊園地で働いている。先輩は体力があるから、よくゴーカートの操業を任されている。僕は屋台で水風船を売っている。日陰だからあんまり日焼けしない。ピンク髪に色白痩身だから、たまに女性に見間違えられることがある。マスクしてるし余計に。そんな時、先輩みたいに背が高くて、痩せてるけど節が男らしく出てたら間違えられることもないんだろうなと思ったりする。女の子に可愛がられることもある。きっと背がそんなに高くないから、威圧感がないんだろうな。それはそれで嬉しいことだ。
先輩のことを好きになって、男性が好きだと自覚してからは、自分の外見へのコンプレックスは薄れた。それはいいことだったなと思う。気持ちをひた隠しにするという新たな苦役を背負いこんだけれど、自分の気持ちだからかまいやしない。彼が幸せであればいいと思う。その人生に少しだけ、僕の居場所をください、といつも願っている。
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