壁に耳あり障子に目あり。他にも色々あるけど自由はあんまりない

赤茄子橄

本文

「ねぇれいく〜ん、今朝、玲くんに告白してきた豚女なんだけどさぁ」

「はい?」


「あの子ビッチだから今後は二度と話さない方がいいと思うよ〜」

「......雪歌ゆきか先輩が言うならそうしないとですよねぇ。でもよく知ってますねぇ。ネックレスとか盗聴器周りは全部外していったつもりだったんですけど?」


「えー、そんなの今更じゃない? それも私達の部活の一環だよ〜。ほら、制服の襟のところ、小型のやつ付けといたの〜。そんなあからさまなのにも気づかないとか、ほんと玲くんは無様だね〜♪ やっぱり私のお婿さんになる以外に生きてる意味なくない?」



 彼女、月夜雪歌つきよゆきか先輩の説明を受けてシャツの襟元を軽く触ってみると、襟の内側に確かに薄型のピンマイクみたいなものがついてた。


「あー、まじですねぇ。さすが雪歌先輩。やられました。いつの間につけてたんです? あと、お婿さんにはなりません。他にも生きてる意味見出します」

「昨日玲くんが寝てる時だよー」



 しれっとお婿さんがどうとか、生きてる意味がどうとかの話題を終わらされた。いいけど。


「なるほどなぁ。けど誰か部屋に入ってきたらさすがの自分も起きると思うんですけど?」

「あー、昨日のご飯に一服盛ったからぐっすりだったんだと思うよ〜」


「それは気づかないわけですねぇ。とりあえず不法侵入で訴えてみてもいいですか?」

「辞めといたほうがいいんじゃないかなぁ。私の名前呼びながら自分でシてるときの映像をバラ撒かれたくなかったら......ね?」


「うわっ、最低の脅しだ......。っていうか、スルときは念入りにカメラも探して外したつもりだったんですけど......怖ぁ......」

「うんうん。まぁ、そんなのなくても大丈夫なんだけどね」


「え? なんです?」

「ううん、なんでもなーい。っていうか、玲くんは愚かな子なんだから、気にしても仕方ないよ〜。人間、諦めが肝心だよ〜。だからそろそろ素直になって私と赤ちゃん作ろ〜?」



 ほんとこの人は、ゆるい口調でえげつない犯罪行為暴露するよなぁ〜。あと、相変わらずちょいちょい口悪い。

 口悪いのは別にいいんだけどなぁ。犯罪行為がなぁ。これさえなかったらすぐにでもお嫁に来てもらいたいところだったんだけどなぁ。


「諦めが肝心って......。元凶の人に言われちゃうと、なんかなぁって感じですねぇ。赤ちゃんも作りませんし、自分はいつも素直です。あんまり調子に乗ってると、自分の名前呼びながらぶっといの突っ込んでたときの動画ネットに流しますよ?」

「私の身体が世界中の人に見られても良くて、玲くんが警察に捕まってもよくて、責任とって私をお嫁さんにしてくれるならどうぞどうぞ〜」


「......やめときます」

「そっか〜。まぁ私の動画は玲くん専用のオカズにしておいてね。っていうか、玲くんはむしろ私に感謝すべきだよ〜」


「感謝? なににですか?」

「私が部屋に入って見つけてあげてなかったら、今頃、あのビッチが設置してたカメラと盗聴器でいろいろ弱み握られてたところだからね〜? 玲くんはダメ人間だけど、まがりなりにも無線研究部の一員なんだから、もっと気をつけた方がいいと思う」


「あー、肝に銘じておきます。っていうか、自分、毎日結構念入りに部屋中調べてるんですけど、どこにあったんです?」

「壁の裏側につけられてたよー。あそこ、音質は悪くなるけどバレにくくていい設置場所なんだよね〜」


「あぁ、もしかして雪歌先輩もそこに設置してたりします?」

「............知らないよー。先輩を疑うとかねー、後輩としてゴミだよー」


「んー、まぁいいんですけどねぇ。でも先輩、知ってます? 過度な束縛をするのって、好きの表れじゃなくて、相手のこと信じてなかったり、相手じゃなくて自分が好きなだけのメンヘラの表れって部分がデカイらしいですよ?」

「そんな一般論とか私達には関係ないから。好きな人のことをすべて知りたいって欲求は誰にでもあるはずよ」


「普通はそこに限度ってもんがあるんだよなぁ」




*****




 壁に耳あり障子に目あり。

 隠し事や陰口なんかはいつどこで誰が聞いてるかわからなくて、案外バレてしまうものだから気をつけろ、って趣旨のことわざ。


 なんとも言い得て妙である。

 自分の状況をこれほど的確に表してくれる言葉を、自分はまだ他に知らない。


 自分、裏門玲うらどれいの家にはかなりの頻度で耳も目もあるのだから。


 もちろん、実際の目や耳があるわけじゃない。そんなホラーな家には住みたくない。

 あ、いや、ホラーといえばホラーではある、かな?


 いつの間にか気づいたときには、壁(に埋め込まれたコンセントの中)やら障子(ではないけどドアの周辺とかドアノブとかモノの隙間)やらに、目(超小型の監視カメラ)や耳(盗聴器)がついている。


 小学生の中頃あたりから何故か女性が強烈な追っかけをしてくれちゃうことが度々あって、その子たちみんながことごとく盗聴・盗撮魔だった。

 だからその都度、部屋の中とか風呂の中とかに隠しカメラとか盗聴器が設置されて、解除してきた経歴がある。


 最初の頃はあまりの恐怖に震えて両親の部屋で一緒に寝させてもらったりもしたけど、それも中学も後半にさしかかる頃にはなんかもうどうでもよくなってきて、大丈夫になった。


 そのストーカーたちの正体は、折に触れて自分が何かしら手を貸したりして救ったことがあるらしい女性たちで、見た目はカワイかったりキレイだったりした。

 だけど、どんなに見た目が良くても、やってることが怖いし、シンプルに恐怖を感じたから、問答無用でお縄になってもうことにしてた。


 普通に告白してくれてたら、いい関係を築けてた子もいたかもしれないのに、なんとももったいない話だ。


 ともかく、彼女たちのおかげで通報する技術というか、証拠集めから通報までの手順みたいなのもかなり身についた。


 それに、盗聴器とかカメラを取り除くのも何度も経験できたおかげで、いまや除去作業はお手の物。盗聴やら盗撮を見つけるスキルだってかなり上達したと思う。

 雪歌先輩に比べたらまだまだみたいだけども。


 ともかくその経験が高じて......だなんてポジティブな言葉を使うべきなのかはわからないけど、ともかくそれがきっかけで無線機器に興味を持つようになった。


 雪歌先輩とは、高校に入ってすぐに入部した無線研究部で出会った。


 雪歌先輩も大概頭がどうかしちゃってる人ではある。

 彼女も盗聴盗撮は当たり前。ストーカー上等。通報できないように予め弱みもばっちり握っておく。


 端的に言えば、悪質な犯罪者だ。


 けど、過去の人達とは違って、なぜか自分の方が雪歌先輩の美しさにヤラれてしまって、黙認している。いや、半分脅されて黙らされているんだけども。


 それもこれも、雪歌先輩がキレイすぎて、あの日、夜寝る前のセルフプレシャスタイムにオカズになっていただいたときに名前を呼んでしまったのが運の尽き。

 部屋に設置されてた雪歌先輩の耳(盗聴器)には録音が、目(隠しカメラ)には情けない姿の録画が、ばっちり残されてしまった。


 それをネタに、通報を見送ることになったし、部活もやめさせてもられない。

 付き合いを強制されないだけ良心的だけど、それにしてもあの日の自分を呪わざるを得ない。


 いや、言い訳させてほしいのは、あの頃はまだ雪歌先輩の異常さを知らなかったんだ。


 盗聴盗撮は当たり前。そのために不法侵入をすることに一切の抵抗も罪悪感も抱かない。

 自分の周りに集まってくるストーカー予備軍の女の子たちは知らない間に病院送りになってるか、気づいたときには見かけなくなってるのも、たぶん雪歌先輩。


 この間なんて、自分の部屋で目が覚めたら口元ベロベロ舐められてて、いくら美人だからって他人にヤラれたら普通に怖かった。

 あと、いくら美少女でも、唾液乾いたらちょっと臭かった。


 うん、シンプルな犯罪者。さすがに付き合うとかは無理ですわ。


 本当は自分に自信がなくて臆病なくせに、言葉がきつかったり機械いじりばっかりで友達付き合いをしてこなかったがために周囲からハブられてきたから、人との接し方わからないっぽいけど......。

 そういうので許せるのには上限あるよねぇ。


 っていうか、雪歌先輩美人だから毒舌も気にならなくて普通に接してたら、それだけでストーカーになるほど惚れてくれるなんて、どんだけ人恋しかったんだ......。


 まぁなんにしても、壁に耳あり障子に目あり、そんな生活を一生続けるのは、絶対無理。


 雪歌先輩からは2ヶ月前に告白されたんだけど、丁重にお断りさせていただいたところだ。

 それからも変わらず......いや、むしろ激しくなったストーカー行為には閉口してしまうよ。


 明日からの合宿も不安しかないな。

 というか、無線研究部で合宿って謎イベントすぎるでしょ。

 なにすんだよ。


 ってか自分も自分で、南国リゾートでバカンスって言葉に釣られるとか、安すぎだろ......。




*****




「......ん............うん......?」

「あ、玲くん、起きた!? 大丈夫!? タダでさえダメな頭が余計におかしくなってない!?」


「あ、雪歌先輩? おはようございます? 寝起きいきなりヒドいですね」

「それどころじゃないのよ! くだらないこと言ってないで周りを見て!」



 いや、言い出したのあんたじゃん。まぁいいけど。

 で、周りを見ろって?


「....................................なんだここ........................」



 目の前には白い砂浜と青い海......。

 背後には青々とした森的ななにか......。

 頭上には燦々と照りつける元気いっぱいな太陽さん......。


「私もさっき目が覚めたばかりなのだけど、どうやら私たち、遭難しちゃったみたいよ」

「そ、遭難......」


「えぇ、頭の弱い玲くんに思い出させてあげると、私たちが乗ってた船が坐礁しちゃったみたいでね......。その時の衝撃で私たちは転んで頭をぶつけて意識を失ってたみたいなの。一緒に船に乗ってた船頭さんも船も、どこにいるのかもわからないわ」

「まじですか......。自分、そのときの記憶全然ないんですけど......」



 まずい。こんな映画みたいな展開、まじであるのか。

 船が挫傷したって記憶も、こけて頭打った記憶も全然ないんだけど。


 覚えてるのは............船上で雪歌先輩とランチにサンドウィッチ食べたあたり......か?

 って、もしかして......。


「もしかしたら頭を打った衝撃で記憶が混濁してるのかもしれないわね」

「......一応確認なんですけど、これ、雪歌先輩の仕込みじゃないですよね?」



 船も船頭さんも、用意してくれたのも雪歌先輩だ。

 理由とかはわからないけど、この状況も雪歌先輩の仕込みって可能性は十分ある。


 サンドウィッチに眠剤とか盛ってこの状況を準備した可能性が!


「..........................................何言ってるのかわからないわ」

「いや、どんだけ沈黙長いんですか」



 やっぱりそういうことかな?


「そんなことを言ってる場合じゃないの!!!!!!!」



 うわっ、びっくりした。雪歌先輩が珍しく大声出すからびっくりしたわ。


 っていうか、雪歌先輩、普段のゆったりしたしゃべり方じゃないし、その迫真の表情。

 まさかほんとに遭難......?


「ま、まじで自分たち、遭難しちゃった感じ、なんですか?」

「えぇそうみたいね。ここがどんな島かはわからないけど、幸い暖かい場所だし、森の方には木の実なんかもありそうだからある程度は生きられると思うわ」


「あ、そうなんですね。自分はサバイバルの経験とか知識とか全然なくて。すみません」

「いいのよ。私は無線研究の一環でこういう場合の対処とかも調べたことがあるのだけど、みんながそういうわけではないもの。ここは私に任せてちょうだい」



 えぇ......。なんかいつも以上に頼りになる感じなんだけど。

 普段の変態っぷりはどこに行ったんだ。


 いや、今はほんとにそれどころじゃないよな。


「とりあえずあたりを散策してみますか?」

「そうね。もしかしたらここが無人島ではない可能性も十分あるものね」


「役割分担します?」

「いえ、見たところこのあたりは拠点にはふさわしくないわ。拠点探しがてら一緒に行動しましょう。いい? 一瞬も私のそばを離れてはダメよ? はぐれたりしたら最悪だから」



 確かに......。今はぐれるのはかなり厄介な展開になるよな......。

 この状況なら盗聴とか盗撮とかストーカーとかくだらないこと考えなくていいだろうし、とりあえず生きて家に帰ることを最優先に考えよう。


「わかりました」



*****



「ゆ、雪歌さん......。すみません......。そろそろ......限界です」

「そう......仕方ないわよ。謝らなくていいわ。もうあれから2週間だもの......。だから......もう楽になりなさい? いえ、私が楽にしてあげるわ」


「うぅ............それは......だめですって。1人で大丈夫なんで......。っていうか、1人で......いかせてください......。雪歌さんを巻き込みたくないんです......」

「それはダメよ! そんなの認められないわ!」


「ほんと、一瞬なんで......今ならなにも苦しまずにいけると思うんで......お願いします......」

「ダメったらダメよ......。私をおいていかないで......」
















「いや、ほんとお願いですから、ちょっとそこで一発抜いてくるだけなんで! こんだけムラムラしてたらまじで即出るんで! 一瞬で戻ってくるので放してくださいよ! 後生ですから!」

「いやよ、そんなにムラムラしてるなら私で出しなさい。が望むなら上の口でも下の口でも飲んであげるから。ほら、おとなしくしなさい」


「イヤですって! 雪歌さんと一発やったらもう二度とやめられないくらいハマっちゃうに決まってるじゃないですか! そんな見え見えの地雷原に突っ込んでく気なんてないんですって!」

「ハマってもいいじゃない。ここから帰れるかどうかもわからないのよ? 私と2人で幸せになることを第一に考えたっていいじゃないの」


「そういうの今はまじでいいんで。まじのまじで限界なんで! あとで話きいてあげますからとりあえずいかせてくださいよ!」

「嫌だって言ってるでしょ!? それに、もしも1人になって野生の獣に襲われたらどうするの! 私も、玲も! 危ないんだから一緒にいるのが一番なの! ほら、もっとくっつきなさい! 少しでも距離を縮めてるのが安全なのよ! 体温も節約できるし!」


「だーかーらー! それまじでムラつくんで辞めてくださいって! そこに火だってあるんだから体温とかいいでしょ! 自分、今ふざけられる余裕全くないんですってまじで!」

「私もふざけてないわ!」







 遭難して早2週間。

 初日に散策してみた結果、残念ながら流れ着いた島は無人島だったらしく、海沿いを拠点に助けが来るのを待機してる。


 一緒に生き抜いてきた共体験も相まって、呼び方も自分の方は『雪歌先輩』から『雪歌さん』に、雪歌さんの方は『玲くん』から『玲』に変わったし、毒舌も最近は鳴りを潜めてるし、ある意味超順調。

 雪歌さんのおかげでなんとか簡単な家を作ったり、飲み水や食べられるものを集めたりしてサバイバルできてる............んだけども。




 生活がやや安定した途端、性欲だけまじでどうしようもないくらいヤバくなってきた。


 極限状況の中での生物の本能なんだろうか。

 子孫を残したいと、身体が自分に訴えかけてくるようだ。


 ぶっちゃけ雪歌さんへの欲情も限界を突破しているまである。


 普通に考えればしれっと1人で抜いておけばいいわけなんだけど、それを雪歌さんが全力で阻止してくる。


 っていうか、1人の時間を作らせてくれない。

 やれ1人になったら危ないだの、体温がどうだのと屁理屈を並べてくっつき続けてくる。


 目が覚めたら出てる、って状態がもうこの1週間で数回。

 でもそれじゃあ何も満足できなくて。


 このままじゃあまじで雪歌さんを襲ってしまいそうだ。

 今は辛うじて残ってる理性がなんとか本能を抑えてくれてるけど、それもいい加減限界。


 自分の中の悪魔が「もういいんじゃないか? 自分よ。それは都会の環境だといろいろ証拠を残されてストーカー女と望まぬ結婚をすることになると思ってるからだよ。逆に考えるんだ。無人島で2人きり。帰れるかもわからない。帰れたとしても自分がヤッたという証拠は残らない。『なら孕ませちゃってもいいさ』と考えるんだ」とかふざけたパロ台詞を囁いてくる始末。

 なんも『逆』になってねぇんだよバカ。


 ............でも、確かにその通りかもしれない。

 今ここでなら雪歌さんを襲っても問題になることはない。


 よしんば生き残れたとしても、ここでのことはなかったことにできる......。


「......玲? 急に静かになってどうしたの? ......お腹痛くなっちゃった?」



 その心配そうな目。チクショウ......可愛すぎんだよ......。


 ..........................................うん、ヤろう。




「雪歌さん、やっぱりヤラせてもらえますか?」

「え? 急に意見変えてきてどうしたの? ............でも、えぇ、もちろん良いわよ。私の身体、じっくり味わって?」


「すみません......いただきます......」

「召し上がれ?」









 まぁなんていうか。うん。最高だわ。

 1発目は速射だったし、もう何回戦目だ......?


 自分でも本心なのか何なのかわからないけど、雪歌さんへの愛を叫ぶのも辞めらんない。

 最高に良い。


 回数は数えてないけど、もう10回は軽く超えてるでしょ。


「雪歌さん雪歌さん雪歌さん雪歌さん雪歌さん雪歌さん、好きです大好きです愛してます。自分の子ども産んでください!」

「えぇ、私も玲のこと大好きよ。いくらでも仕込んで♡」



 こっからあと数回出したあたりで、疲れがどっと出て意識が薄れていくのを感じた。




*****



「玲。......玲! 起きて玲!」

「......ん............うん......?」


「あ、玲、起きたわね。大丈夫? 痛いところとかない?」

「え、あ、雪歌さん。えぇ、大丈夫です。それより、ここは?」



 目を覚ましてあたりを見回すと、この2週間で見慣れた海と砂浜と森だけの景色じゃなくなってる。


 清潔なベッド。点滴。消毒液の匂い。

 ............病院、か?


「病院よ。私たち、助かったのよ! あのとき、玲が眠ったころにたまたま通りかかったヘリコプターがいてね。救助してもらったのよ」

「ま、まじですか......。よ、よかったぁ」



 あぁ、自分たち、無事帰ってこられたんだ。

 夢じゃ......ないよな?


「夢じゃないわよ。生きて帰ってこれたし、私のお腹の中も玲の赤ちゃんの素でいっぱいだし。私、今幸せでいっぱいだわ」



 夢見心地な表情で語る雪歌さん。

 ぼろぼろな自分と違って、なんかツヤツヤしてる気がするな。


 女の人を抱いたら、その人のことが一層素敵に見えるってのは、ホントっぽい。



 でも、帰ってこれたなら雪歌さんには悪いけど諸々なかったことにさせていただこう。


「ゆ、雪歌さん。あの島でのことは全部なかったことに......『ところでね』......はい?」



 な、なんで今のタイミングで話に割り込みを......?


「私と玲の交尾なんだけどね。私達を助けてくれたヘリの人が一部始終を記録してたみたいなのよ。恥ずかしいわね? でも、私達の素敵なハジメテ、永遠に残せるわね♪」

「......は......え?」


「ほら、この映像よ。凄くしっかり撮れてるわね。結婚式で流しても差し支えないくらい」



 いや、結婚式でハメ撮り流すやつはいないでしょ。


 ......ってかそうじゃない!

 え? なに? どゆこと!?


「え、えぇ? ってことはヘリは自分たちがヤッてる間ずっといたってこと!? そんなのいなかったと思うんだけど......」

「いたのだからしょうがないでしょ? 私だって恥ずかしいんだから......」



 見せてもらった映像は確かに空撮のそれだったし、音はないけど自分が雪歌さんをハメまくってるシーンがバッチリ残ってる。

 でもいくら自分があのとき錯乱気味だったとはいえ、ヘリに気づかないなんてある!? ってかヘリの人もなにちんたら撮影してんだよ! 早く助けろよ!


「それで玲? さっき何か言おうとしてたみたいだけれど。まさかあれだけ欲求をぶちまけておいて今更私をお嫁にしないとか、言わないわよね?」

「い、いや......その〜」


「この映像、見ようによっては玲が私をムリヤリ襲っている風にも見えるわね?」

「え?」


「無人島で年頃の男女が2人っきりで2週間。男の子が女の子にマウントポジションで腰を振ってる。世の中の皆さんはこれを見て、どう思うかしら?」

「..................まさか、やっぱりこれ全部雪歌さんの仕込みだったんですか......?」


「何を言ってるのかわからないわ。それより玲。責任を取るのか取らないのか。はっきりしてもらえるかしら?」

「う......あ......」



 やっぱり自分は雪歌さんにはめられたのか?

 いや、ハメたのは自分の方なんだけども。


 ............っていうか、そういえば、あのとき。意識なくなっていく途中。

 遠くから雪歌さんが「そろそろ良いわよ。助けを出して頂戴」的なことを言ってた気がするのは気の所為か?


 いや、まさかいくら雪歌さんでも、意図的に2週間もまじでサバイバルさせるなんてことしない......?

 状況証拠だけじゃなんとも言えない......。


 ってかあんな動画あったんじゃ言い逃れもできない......。







 ......................................................まぁ雪歌さんキレイだしいいか..................。


「わかり......ました......」






「でも、玲ってば、一瞬私を拒絶しようとしてなかった? してたよね?」

「......してないですよ」


「したよね。これはいつ浮気してもおかしくないし、これからはずっと監視させてもらうね。もちろんいいわよね? 私を心配させる玲が悪いんだものね? これで盗聴とか盗撮しなくても、合意のもとで録音と録画ができるわけね!」

「............自分のプライバシーは......?」


「プライバシーなんて夫婦には必要のないものだとは思わないかしら?」

「......思わないです......」



 とか言っても無駄なんだろうなぁ。

 あーあ、これから自分の自由はなくなるんだろうなぁ......。


 まぁ、もうどうでもいいか。










「ふふっ、幸せな夫婦に、なりましょう?」

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壁に耳あり障子に目あり。他にも色々あるけど自由はあんまりない 赤茄子橄 @olivie_pomodoro

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