自由帳のラクガキ(練習即興小説)
浜風ざくろ
不老不死の嗜み(お題「銃」)
不老不死の私は、最近ソシャゲの課金と眉間を拳銃で撃ち抜くことにはまってます。
なぜかって? 暇だからだよ。
千年近く生きてきて、魔女裁判で火炙りにされたり、身体を槍で貫かれたり、爆弾で吹き飛ばされたり、車に跳ね飛ばされたり……死ぬような経験は何回もしてきたけど、なかなかね、死なないとわかっていてもスリルがあるもので。中でも一番気に入っている死に方が、銃で頭を吹き飛ばすことなんだよね。
あれだよ、めっちゃ頭スッキリする眠気覚ましのタブレットあるじゃない? あれを食べたときの何十倍の爽快感があってさ。すごくいいんだよねえ。受験生で不老不死の人がいたら勧めたい。まずいないだろうけど。
「……あー、また出なかったなあ」
私はソシャゲの十連ガチャの結果を見て、肩を落とす。銀色の背景。何十回も見た小銃を構えたいかつい軍服の少女リリスが「何事にも終わりはある……。後悔はしたくないな」と無駄にカッコいい捨て台詞を吐いている。はいはい、素材素材。終わりはあるならいい加減出てこないで欲しいよ。
私は、息をついてソファの背もたれに身体をあずけた。
「ちょっと金欠だからなあ。……マラソンして石貯めるしかないか」
作業苦手だから、ちょっと億劫なんだよねえ。それに他のゲームで二徹しているから、大分眠いんだよねえ。不老不死でも眠気はあるから不思議だよなあ。睡眠面倒なのになあ。神様、そこもせっかくなら省略してほしかったな。艦これのキラ付け並みにだるいんだよ眠るの。
「……ま、そういうときのフリスクなんだけどね」
私は独り言を言いながら、机の引き出しからベレッタを取り出す。なぜベレッタなのかというと、昔好きだったスパイ物の小説の主人公が愛用していた銃だからという理由。とくに意味はない。長生きしすぎると、こだわりもハゲの髪の毛みたいに薄くなる。
ていうか、銃で頭吹き飛ばすのをフリスクっていうの大分やばいよなあ……。
私は噴き出しながら、いつものように銃を構える。さあ、リセットリセット。二十四時間、リセマラできますかってね。
「さよならー」
どうせすぐに目が覚めるくせに、いつもグッバイ宣言をしてしまうのも、ただの気分だ。
私は、とくに戸惑うことなく引き金を引いた。
破裂音が響いて、視界がブラックアウトする。電源ボタンを落として再起動するように、いつもならすぐに光が広がって元の景色に戻るのだが……。なぜだろう? なんか……違う。
「……あ、れ?」
視界が赤い。どくどくと温かい何かが溢れて止まってはくれない。
あ、これなんかやばくない……? だんだん意識が遠く……。
スマホ画面が光った。どうやら弾みで、絞り粕のようなジェムで一回だけガチャを回したみたいだ。
たぶん、これ私の最後っぽいよね。不老不死って限度あるんかいってツッコミいれられる余裕はあるのが不思議だけど、戻らないのは間違いない。
さあ、最後のガチャの結果は……。
現れたのは、リリスちゃんでしたとさ。
最後くらい金背景現れてよ……。辛すぎるでしょ、運営……。
視界がまた真っ黒に染まっていく中、凛々しい声が響いた。
「何事にも終わりはある。……後悔したくないな」
煽ってんじゃねえよ、おい。
自由帳のラクガキ(練習即興小説) 浜風ざくろ @zakuro2439
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