終活

連喜

第1話

 俺は今年五十になったから、そろそろ終活を始めようと思った。ちょっと早いと思うかもしれないが、俺くらいの年齢になると、急な入院や怪我があるかもしれない。そうなったら、終活が思うようにできなくなってしまう。大病してたら部屋の掃除なんてできないだろう。怪我でも同様だ。俺は独身で同居の親族もいないから特にそう思う。急に亡くなったりして、その時、部屋中が恥ずかしいものだらけだったら情けない。


 最近話題になっているのがパソコンの中のデータ情報だ。人に見られたくない順に、SNSやブログ、写真、趣味がわかってしまうブックマークという人が多いそうだ。さらに男性はエッチ動画となる。他人から見たらくだらないけど、すべてが自分の生きた軌跡だから、できれば消したくないと思う。画像の悪いエッチ動画も年を取ってから見たらやっぱり懐かしいだろう。俺はやっぱり消すのをやめることにした。


 しかし、手元にあるといつか誰かに見られてしまう気がした。ストレージサービスとしてはGoogle、Amazon、iCloud、One Driveなどが有名だが、容量が大きい場合は有料になってしまう。少し調べてみて俺はいい方法を知った。YouTubeに動画を保存するんだ。そうすれば、無制限で動画を保存できる。しかも、しばらくはYouTubeはなくなりそうにない。もしかしたら、俺の寿命の方が早いかもしれないくらいだ。


 俺はせっせと動画をYouTubeにアップロードして行った。もちろん、データを変換しなくてはいけない場合もあったが。そして、すべての作業を終えると、パソコンに保存していた元データは消した。

 エッチな写真はGoogleのDriveに移した。

 これだけやってすべて無料だ。有料が嫌だというより、クレジットカードの明細を見て何だろうと探されかねないからだ。IDとパスワードは俺の頭の中にしかない。


 これで俺の就活は終わりだ。

 俺はほっとした。


 身軽になってこれからどうやって生きて行こうか。

 いや、待て。

 俺の欲望には終わりはないじゃないか。

 これからもネットで動画を探して、次々とYouTubeに溜めて行こう。こうした動画を見直すことはないけれど、溜めること自体が楽しいんだ。

 ライフワークというには寂しいが、それに近いものになっている。


 しばらくして、俺は新しい動画をYouTubeに保存しようと思って、ログインしようとした。しかし、何故かできなかった。急にログインできなくなったから、いろいろ調べてみたが、どうやらアカウントを停止されてしまったようだ。理由はわからなかったが、俺はショックを受けていた。何十年もかけて溜めた動画が一瞬にして飛んでしまったのだ。


俺はYouTubeに保存したことを悔いた。でも、他にどうすればよかったかはわからなかった。諦めろ。俺は自分に言い聞かせた。


 ***


 それからしばらくして、警察が家にやって来た。俺がYouTubeにあげている動画の件で事情を聴きたいと言われた。非公開にしていたつもりだったのに、保管しているだけで罪に問われるのかと思った。YouTubeでは人の保管しているデータを盗み見ているのか。そんなのプライバシーの侵害じゃないか・・・。YouTubeはそんなにモラルのない会社なのか。俺は憤った。


 警察から取り調べを受けていて、なぜ事情を聴かれているのかがわかってきた。どうやら俺はデリヘルのお姉さんとの本番動画をアップロードした時に、誤って公開設定にしてしまったようだ。デリヘルは本番禁止だ。しかも、盗撮自体も許されることではない。俺はただ自分の楽しみのために録画しただけなのだ。それならお姉さんにも迷惑がかからないと思っていた。


 そう言えば、最近仕事でもミスが目立っていた。俺の仕事は営業なのだが、俺が作った書類は、毎ページ必ずミスがあり、毎回作り直しすように言われていた。他にもメールを送る時に添付ファイルを忘れたり、お客さんに間違った資料を送ってしまったり、問合わせが来た内容に対して、すべて回答できていない等のミスがあった。会社ではみんなから馬鹿にされていたと思う。しかし、なぜか売り上げの成績がいいのと、長く勤めているからみんな我慢していたが、お客さんからもミスが多いと苦情が来ていた。


 YouTubeに話を戻すと被害者の女性から警察に被害届が出ていたらしい。しかも、本人は本番を承諾していないと言っているようだ。そんなことはない。彼女から持ち掛けられて裏オプションで一万円払ったのだ。所属先の店に対して言い訳するために俺が無理矢理やったということにしているようだった。俺は大企業に勤めているということもあり、逃亡の恐れがないからと、家に帰された。もしかしたら、示談になるかもしれないが、会社はクビになってしまうだろう。


 俺はもう二度と見ることができない動画のために、人生を棒に振ってしまったようだ。まるで悪夢の中にいるようだった。


***


 さて、諸君。


 俺はこれから本気で最後の終活をする。

 ドアノブにはすでにロープをかけてある。


 皆さんには、終活は頭がはっきりしている四十代までに終わらせることをお勧めしたい。

 五十になると以前できていたことができなくなって来るのだ。


 さらばだ。


*YouTubeが無料で使える動画クラウドとして紹介されているのは事実です。

 公開設定を間違わなければおすすめかもしれません・・・。人生詰むかもしれませんが。

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終活 連喜 @toushikibu

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