第25話

 ただ、悩んでいても解決するわけではないので俺はそれについて考えるのを止めて、自習を始めた。


 そうしてしばらくすると誰かからじーっと視線をもらっている気がしてふと顔を上げると、俺の座っている座席の向かい側の席に聖女様が腰かけて本を開きながらこちらを見ているのに気付いた。


 俺はそれに対して驚いたが、それを顔に出すことはなく立ち上がり、図書館を出た。


 そうして彼女の先を俺が歩いていると後ろから蒼人く~んと叫ばれて、俺は思わず立ち止まり、口に人差し指を当てて、後ろを振り向いた。


「声出してばれたらどうするんだよ」

「大丈夫ですよ。近くに人いないのは確認しましたから」


 彼女はそう言いながら、俺の横に並んだ。


 そうして、はいはい帰りますよと俺の手をつかんで駅のほうに俺のほうをあまり向かないように俺を引っ張っていく。


 俺はそれに違和感を感じて彼女の顔を覗き込んだ。


「いやちょっ」

「お願いします。駅まででいいので」

「...何かあったか?」

「...何もないです」

「いや、嘘つくなよ。お前の顔...、今にも泣きそうだぞ...」


 俺がそう指摘すると、彼女は少し困ったような笑みを浮かべた。


「...そういうところだけ鋭いですよね、蒼人くんって」


 そういうところだけ...それについて思うことはあったが今突っ込むべきところではないので俺はスルーした。


「...」

「大丈夫ですよ。特になにもありませんよ」

「そういう風に顔を作って言われてもな...。説得力ないぞ。あと誰だよ。甘やかかすし甘やかされるって言ったのは?別に原因は話したくないなら話さなくてもいい。でも、甘えろよ」

「...私ですね。...じゃあ、ちょっと胸借りてもいいですか?...誰かに見られるかもしれませんけど」

「最後の一言がなかったら快く貸せた」

「...それはダメということで?」

「...いや。どうぞ。畑山の顔は俺の服に押し付けてたら見えないし、俺も下うつむいてれば誰も俺だと気付かないだろ」


 俺はそう言って、自分にもそう言い聞かせて彼女に笑いかけた。


 彼女は俺の顔を見ると、小さくありがとうございますと言い、俺の服に顔を押し付けて、しばらく俺の胸の中で着始めた。


 しばらくすると彼女はひとしきり泣いたのか顔を上げた。


「もういいのか?」

「あとは家に帰ったらにします」

「そうか...」

「帰りましょうか...」

「ああ」


 どちらが先にというわけでもなく、俺らは手をつなぎ俺らは横に並んで駅まで歩いた。


 俺らは電車でも横に並んで座り無言で揺られていた。だが、どうしても俺には尋ねたいことがあったので彼女に訊いた。


「なぁ、それでどうして泣いたんだ?」

「...話したほうがいいですかね」

「...話したくないなら無理強いはしない」

「...それなら話さないでもいいですか?」

「...ああ」


 彼女が一体何を抱えているのか。彼女の今日あふれ出した感情は親の死に関係しているのか。彼女に対する謎は深まるばかりだったが、彼女の話したくないことえお無理やり話させる気のない俺は彼女が話してくれるいつかを待つことにした。


 そのため、俺らはお互いそれっきり話すことなく、電車に揺られて家に帰った。

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屋上から飛び降りようとしたら聖女様との同棲生活が始まった件。いや、なんで? 磯城 @PokeDen

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