第24話
その後、俺は二人分の弁当の準備を終わらせると彼女を起こしに行った。
「おーい、朝だぞ」
「...ん」
「遅刻しないけど早くしないと遅刻するぞ」
「...もうちょっとだけ」
昨日の朝は普通に起きたんだけどな...昨日の夜、俺にあんなことしてたからか?少し申し訳なくなりながらも布団をはぎ取って言った。
「学校、先行ってるぞ」
「私も行きます」
俺がそう言った途端に彼女は体を起こしてそう言ってきた。俺が思わず苦笑しかけていると、彼女は時計を見上げると少し怒ったような顔で俺を見てきた。
「蒼人くん」
俺は一応弁明をしておいた。
「一応、俺は起こしたからな」
「いつですか?今じゃ意味ないですよ」
「一時間くらい前」
「...じゃあ、なんで今私はここに?」
「もう少し寝させてって言うから寝かせといた」
「...本当ですか...、ごめんなさい。これからはそう言っても無理やり起こしてください」
「分かった」
彼女は自分に非があると分かったからか俺に怒ってくることはなかった。
「まぁ、朝食の準備しとくから、着替えてきて」
「分かりました...」
そしてその後、準備が終わり朝食をとっていると彼女がいきなり訊いてきた。
「蒼人くん、昨日はどうでした?」
「...どうだったとは?」
「膝枕ですよ」
(中々答えにくいことを訊いてくるな...)
彼女の太腿の上でそのまま寝てしまったのだから居心地はよかったのだろう。ただ、それは面と向かって言うには少々恥ずかしかった。
そのためか、若干言い方が素っ気なくなってしまった。
「普通」
「そうですか...」
彼女が俺の言葉で露骨にしゅんと気を落としたのを見て取り、俺は慌てて付け加えた。
「いや、そのな、良かったぞ。ただ、そのな...、なんというか...もうとにかく良かったぞ」
「そんなとってつけたように言わなくてもいいんですよ...」
「そんなわけないだろ。普通に柔らかくて気持ち良かったぞ!」
「へぇ~、そうなんですね」
彼女はそう言っていたずらが成功した子どものように笑ってきた。
俺は彼女の言葉と表情から察した。
(しまった...。)
彼女に謀られたということを。俺の本心を探るためにわざわざ悲しそうな表情なども作ったのだろう。
俺は彼女から視線をそらし、そっぽを向いて朝食を無言で食べ始めた。
それで俺が拗ねてしまったのを感じ取ったのか彼女は俺をなだめるように言ってきた。
「蒼人くん、ごめんなさい。あと、昨日の夜、そのまま寝ちゃった私のこと布団まで運んでくれてありがとうございます」
「...おう」
「あと、その...ああいう風に触られると...」
彼女はなぜか言っているうちに顔を赤らめていき、それに比例するように声も小さくなっていった。そのせいで聞き取れなかった俺は彼女に尋ねた。
「何をなんだって?」
「いや、やっぱりなんでもないです。早く食べていきましょう」
「はぁ...。いやよく聞こえなかったんだが」
「もういいんです!」
彼女はそう強めに言うとそれ以降無言で朝食を食べ続けてしまった。
結局、俺が何度尋ねてもその日に彼女がそれについて口を開くことはなかった...。
♢
二日後の放課後、俺は珍しく図書館にいた。もちろん、これにはとある事情があった。ことは昨日の夜に遡る...。
「えっ?明日の放課後ちょっと待っててくれないかって?」
「ええ。お願いできませんか?」
「...なんで?部活とかないのか?」
俺は危ない橋は渡りたくない人間で、一緒に帰るとかいう誰かに見られたらどうするんだ...という危険極まりないことはあまりしたくなかった。ただ、いきなり拒否したところで聖女様が引き下がってくれるとは思えなかった。そのため、理由を尋ねたり、他のやるべきであろうことを尋ねて話を逸らす方向に持っていくことにした。
「今日は部活はないので一緒に帰りたいなぁ~と」
「...別に行きの電車一緒だからわざわざ帰りも一緒に帰らなくてもよくないか?」
「そういう問題じゃないんです。蒼人くんと学校で話したりできないんですから、...その分一緒にいたいんです」
彼女がそう少し恥ずかし気に言うのを聞いて俺は苦笑してしまった。
「俺なんかじゃなくても、畑山は聖女様なんだからいくらでも話し相手とかはいるだろ」
「...そうかもしれませんけど...、そうじゃないんです。蒼人くんって一緒にいてなんか落ち着くんですよ」
「ごめん。意味わからん」
「もうとにかく明日一緒に帰りましょう」
ここまで来たらいくら何を言っても逃げられないのは今までの経験で分かっていた。そのため、俺は危険の削減に走った。
「じゃあ、せめて駅からにしてくれ。先に行ってて駅で待ってる。学校からはちょっとばかしリスキーすぎる」
「...じゃあ、ちょっと前を蒼人くんに歩いてもらってそれを私が尾けていきますから」
「どうしてもそうじゃなきゃダメか?」
「どうしても嫌だったら駅からでいいですけど...」
彼女はそう少し悲しそうに言ってきた。無理やり押されるのにも、そういう風にされるのにも弱い俺は彼女と学校から帰るという選択肢しか選ぶことができなかった。
そして今に至るわけだが...
(これどうやって俺に帰るタイミング知らせるんだ?図書館にいてくれと言われただけだから分からん...。こんなに人がいたら俺に話しかけることもできないだろ...)
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