第23話

 俺は彼女のやっていることを理解すると跳ね起きて壁際まで引いた。


 彼女はそんな俺を見ても相変わらず彼女の太腿を無言でたたき続けていた。


 しばらく無言の圧力をかけられ続けた俺は根負けして口を開いた。


「あの...、畑山さん、怖いです」


 ただ、もちろん膝枕とかいう後で絶対にお互い気まずくなることが確定しているものの回避は諦めていなかった。


「...蒼人くんが悪いんですよ」

「...」

「私に隠し事したり」


 確かにそれは悪かったけど言いにくいこともあることは理解してほしい。


「私のことを朝起こさずに一人で私の分までお弁当作ったり」


 それも確かに俺が悪かったけど、まだ根に持ってたか...。


「あと、私だけがドk...させられたり」


 よく聞き取れなかったが、何を言っていたか訊くと絶対に話が長くなるので、俺は聞き流すことにした。


「それに、」

「ちょっ、ストップ」

「?」

「多すぎないか?俺に対する不満」

「不満ではないです。あくまでも、なんというか...そう前にも言いましたけど蒼人くんの存在がずるいんです」

「...」


 理不尽じゃ...と言おうとしたのを俺は飲み込んだ。


「まぁ、とにかく早く諦めてください」

「いやだわ」


 結局、そこに着陸するのかと思いながら俺はしっかり拒絶の意思を伝えた。ただし、そこで聖女様は諦めることはなかった。


「なんで嫌なんですか?」

「...恥ずかしいから」

「なんでやってもないのにわかるんですか?」

「...それくらいは想像に難くない」

「何事もまずはチャレンジからですよ!」

「...」


 聖女様の絶対に引かないという性格が今回は少しにくかった。


 このままだと今日を寝ないで過ごすことになることは間違いなく思われたので俺はため息をついてわかったよ...と言い、彼女太腿の上に彼女のことを見ないような向きで頭を置いた。


「柔らか」


 俺が聖女様の太腿の上に頭を置いた時の第一声はそれだった。


 彼女はその俺の言葉が嬉しかったのか、何も言うことはなかったが、少し誇らしげに俺の頬を軽くひっぱたりしていじりだした。特にそれを俺は咎めることなくそのまま彼女の好きなようにさせていた。


(やばい。なんかこれ溶かされるっていうかなんていうのか知らないけど...、眠くなるやつだ)


 俺はその眠気に抗いきれずに静かに暗闇に沈んでいった...。



「ん...」


 俺が目を覚ますとすぐ目の前に聖女様の顔があった。


 俺は慌てて横に避けて起き上がり、時計を見ると時計は午前1時を指していた。


「いつの間にか聖女様に膝枕されたまま寝てたのか...」


 そんな彼女は俺がそのまま寝てしまったから動くに動けなかったのだろう、俺の頭を膝にのっけて電気をつけたまま規則正しい寝息を立てていた。


(こりゃ起こせないな...)


 そこで彼女を抱えて布団まで運ぶことにした。


 一応、俺の家とはいえども俺が聖女様に貸した部屋に入るのはまずいと俺は判断し、布団をリビングにひき、その上に寝かせた。


(それにしてもよく寝てるな...)


 俺が静かにとはいえ彼女を移動させたのだから起きてもよさそうなものだが、彼女はまったく起きる兆しを見せなかった。


 俺は軽く笑って彼女の髪をなでた。


「じゃあ、おやすみ」


 俺はそう言い電気を消してキッチンに行き、薬を飲んで自分の部屋で再び眠りについた。彼女が顔を朱色に染めていたのも知らずに...



 翌日の朝、俺は起きるとともに恐怖に襲われた。それを服を握りしめてこらえるとリビングに向かい、彼女を揺らして起こした。


「おーい、起きるなら起きてくれ」

「...nん...、もうちょっと...寝させて...」

「もうちょっとってどれくらいって、もう寝たのか」


 俺がさっき揺らしたので一旦意識は眠りの沼から出たと思ったが、彼女の意識は再び沈んでしまっていた。


(別に俺は一応起こしたから...悪くないよな)


 俺はそう自分に言い聞かせ昼食の準備を始めた...。

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