■.怪物退治

タバコに火を着け、口に咥える。部屋の真ん中には血溜まりと、一人の死体。私はタバコは嫌いだけれど、こんな気分の時には吸わずには居られなかった。

ふう、と煙を吐く。あとどれだけ命を奪ったら私は開放されるのだろう。嫌気のする思考をタバコの煙で追いやって、ポケットからコインを取り出す。天秤と、裏には迷路のような模様。まるで私を嘲笑うみたいに、ぴかぴか銀色に輝いている。


私は生前罪を犯して自殺の道を選んでしまった。だから私は普通に死ぬ事すら許されなかった。神様クソとか自称するクソによって私は罪を視ると、死ぬとき手に持っていた散髪用ハサミの形をしたを貰った。

悪趣味なジョークだ。

世の中には自身が犯した罪に苦しめられ続ける人がいる。罪を犯しておきながらその報いを受けずに生きている人がいる。それを精算するのが私の与えられた役目だ。そしていつかクソを満足させれれば、私にも永遠の眠りが訪れるらしい。馬鹿みたいな契約を結んだ過去の自分がいまさら憎たらしいが、それが私自身のなのだ。


「…で、次はどうしたらいい?」

銀色のコインに話しかけると、迷路のような模様が歪んで銀色の顔が現れた。見飽きた不細工なおっさん顔である。

「硬貨ニ従エ。」

ニタニタ笑いながらコインが答える。

「あっそ。」

黒いパーカーを着る。外は寒いだろうか。タバコの火を机に押し付けて消す。この家での暮らしも悪く無かったんだけどなぁ。

「無様ナ姿ダ。似合ッテルゾ。」

「黙れ。」

握りつぶさんばかりに掴んだコインをパーカーのポケットに押し込んだ。

重く軋むドアを開ける。ひゅうと風が吹き、短い髪を揺らす。思わずポケットに手を突っ込んだ。もうすぐ冬だ。

私は歩き出す。銀のコインがポケットから滑り落ちる誰かのところまで。

『怪物退治』が終わる、その日まで。

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怪物退治 彁山棗 @yansaco

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