16話 不死の呪い


「ヤツらが住む永世の都は、神が住む国だ」

「神って、花神様のような?」

「ああ、そうだ」

 廃墟のような大きな天蓋の中に入った僕たちは、顔を突き合わせていた。

 トゥファの頭の上で、星型に戻ったセイ。

 握りしめられたことで反省したのか、先程までとは違い、腰を据えて説明をしてくれるよう。


「で、アイツラは享楽島に住む黒社会人マフィアだ」

「待って、話が飛んでる」

 神様からいきなり話が飛んでる。反省したとは思ったが、これがセイなのだろう。僕は、頭を抱えそうになった。


「享楽島に住む奴らは、言わば永世の都を追い出され、堕落した神もどきだ」

 セイの話を纏めると、昔、永世の都では大きな内戦があった。起きた理由はわからないが、その戦争は全世界を揺るがすものだった。しかも、一部の神たちは不思議な武器を使い、周辺諸国の生き物たちをも殺戮したらしい。


 しかし、結果は殺戮した神たちが惨敗し、とある呪いを掛けられた。

 自分も死ぬこともなく、誰かを殺すことも出来ない『不死の呪い』。


「じゃあ、僕の傷が塞がったのも」

「ああ、その呪いのおかげだ」


 不幸中の幸い、だったのか。

 もし、その呪いが無ければ、僕は今頃……。自分の腹を触るが、そこには痛みすらもない。


「ただ、奴らは相当タチが悪い。人を殺さなくとも、引っ掻き回せばいいことを知ってる」

 人を殺せないからこそ、見つけた方法なのだろう。牢屋でボスが言っていた言葉、『薄膜の均衡を保つ』というのは、ここにつながる。

 常に何か起これば破れてしまう、そんな均衡をわざわざ作っていたのかもしれない。


「そんな人達を、敵に回したんだ、この国」

「馬鹿だからな、手を出さなければいいのに。懲りない国だ」

 肩を落とす僕、セイもまた呆れたような様子である。トゥファだけはおりこうに僕たちの話を聞いていた。

 ようは神に喧嘩を売ったようなものじゃないか。

 しかも、理由が……。


「あ」

 頭の中で繋がることがもう一つあった。

 それは、いつかの占術師の言葉。


 長き時を歩む人

 積もる恨み解く

 我が龍に放つ炎

 栄華は灰と化す


 長き時を歩む、それは不死を表すのではないか。

 積もる恨み、それは昔の戦争のことでは。

 狂った占術師の言葉をまるっと信じる訳では無いが、あまりにも合致しすぎている。


 だから、龍髭国は永世の都の「不死」たちに喧嘩を売ったのか。


 それに、ボスは何もしてないのにと言っていたが、これから何かをする可能性もある。

 正直、僕は故郷のこともある為、龍髭国が滅びても、正直遂にかとしか思わない。

 それに、マフィア本人たちは不死の呪いにかかってるとは言え、別の手段に打って出る可能性もある。


 その時、一番危険なのは誰だろう。


「セイ、どうしよう。母さんたちが危ないかもしれない」

「離宮か」

 僕が危惧していることがわかったのか、セイは眉を顰める。王宮内で彼らが暴れたとしたら、離宮まで及ぶ可能性もある。


「早く戻らなきゃ」

「リュウユウ、待て」

 焦るまま立ち上がり、駆け出しそうになる。しかし、強く手首を掴まれた。掴まれた腕を見ると、強くしなやかな土の腕が、伸びていた。


「セイ! 離して、急がないと!」

「その前に、気掛かりなことがある。それを聞いてからだ」

「もう、何!」

 淡々としているセイに、止められた苛立ちをぶつける。でも、その腕は緩むことはない。


「こんなわかりやすい所にいる俺たちなのに、あいつらは探す素振りも感じられない」

 僕はその指摘に思わず、首を傾げる。探す素振り。たしかに、外から捜索するような音も聞こえない。


「そして、そもそもあんな壁が開くような大爆発があったのにも関わらず、錦衣衛・・・たちが居ないのか」

 その指摘に、僕は天蓋から外を覗いた。元々合った牢獄の建物と、夜空と、白い砂漠。

 不自然なほどに、生き物の気配がない。


「何かがおかしい」

「ああ、ずっとおかしいのかもな」

 セイの言葉がよく響いた。

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星降る世界の龍仙師 木曜日御前 @narehatedeath888

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