15話 一瞬の戦い


「セイ! 服の中に!」

 僕がそう叫ぶ。セイがどうしたかは確認できないが、ザリザリとした感触が背中をつたう。


「ガキぃいいい! いっちょ、おねんねしてなぁ!」

 叫んだ男による確実に捨て身の特攻。それをギリギリまで引き付け、あと寸前のところでトゥファの背中を蹴り、高く高く飛び上がる。トゥファは蹴られたのを合図に、逆に下へと急下降する。

 男は驚いたように目を見開いた。

 どうやら、接近戦は得意じゃないようだ。


「とぅっ!」

 靴底を顔面に叩き込むように蹴り入れる。

「ガッ!」

 仰け反った男は力が緩んだのか、鉄の塊から身体ごと落ちていく。僕は落ちながら、男の身体に鞭から伸びた蔦を巻き付けて、急滑降したトゥファの背中へと着地しようとした。


 しかし、何か空気が割れた音共に、横腹を何かが抉っていく。熱い熱だけを感じ、赤い液体が自分の顔にかかった。痛みが麻痺しているが、何か一撃を食らったのはわかる。

 この怪我は薬草で気休めできるないな。


 また空気が割れた音がする。ふと上を見ると、鞭と蔦が分断されていた。


 しまった。


「すまんな、ガキ」

 今度は横から何かが突撃して、ふっ飛ばされる。衝撃で見開いた視界には、大きな羽を生やした熊が男を回収していた。



 バンッッツ!!!

 そして、今度は遥か上から爆発音が響く。上を見上げれば、美しい夜空に大きなひびが入ってるではないか。


 僕はふっとばされた先へと落ちていく。

 トゥファは気づいてと、思いつつ意識が落ちていきそうだった。


「起きろ!」

 僕の太ももを大きく叩かれる。セイの土の手が視界に映っていた。その衝撃ではっと目を見開いた。


「トゥファ!」

 力の限り僕は叫んだ。


「キュイ!」

 ドンッ。落ちた先、そこには背中に柔らかな綿の花畑を咲かせたトゥファだった。




 ふっ飛ばされた場所近くの廃集落。

「痛いっ、ぃい」

 戻ってきた痛覚、やはり腹には何か肉を削いだような傷があり、今は止血用の草を詰め込んでいる。

 花の毒が回り切る前に、解毒用のお茶を飲んだせいで、痛みでのた打ち回っている。

 トゥファは隣で心配そうに、僕に寄り添い、星人形のセイはずっと辺りを見渡していた。


「いる?  あ、のひと、たち?」

「……いないな。やはり足止め役か。あいつらは人を殺せない・・・・・・はずだしな」

「ぼ、く、し、にかけ、だけど?」

 セイはちらりとこちらを見ると、ふいと夜空を見た。白い砂浜、朽ちた集落、良く見れば、薄汚れた黄ばんだ灰色の布が点在する部屋。改めてあたりを見渡すが、所々燃えた跡があることしかわからない。


 ただ、なんだろう、既視感があるような。


「いっ!」

 体勢を保てず、崩れそうになる僕。痛いかと思って、抉られた脇腹に手を当てると、不思議なことが起こっていた。


 先程まで、あったはずの傷がなくなっていた。


「は?」


 顔を向けて、止血の草花を見ると、先程まで血濡れていたはずなのに。摘まれたての美しさが戻っていたのだ。


「な、なんで!」

 僕が声を出すと、セイはこっちに気づいたのか、とてとてとやってきた。


「それはそうだろうな。と言っても、奴らと関わり合いがなければ知らないだろうな」

「どういう事?」


「やつら、『永世の都』のマフィアは、『不死の呪い』に掛かっているからな」


 いや、なんでしょうか、それ。

 それがこの怪我とどういう関係なのでしょうか。

 というか、大事な敵の情報は先に出してくれませんか。

 僕は何故か偉そうに発言している星人形のセイを見つめる。そして、トゥファは僕の何かを感じ取ったのだろう。


 トゥファは、星人形のセイをすっと掴むと、そのまま握りつぶした。

 

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