14話 泥仕合


 最初の一手は、俺様と言っている男から。男は躊躇なく手に持っていた大きな筒の先を僕に向けた。


「じゃあな、『天賜ティェンツー』!」

 大きな破裂音と共に僕に向かって何かが飛んでくる。それは絶対触れてはいけない、本能で悟った僕は寸前で床に転がるように躱した。


 バァンッ!!!


 背後の破壊音、壁が壊されたのだろう。あまりの衝撃に僕はさらに一回転多く転がった。身体は仙力を纏っているため、衝撃自体は抑えられているがそれなりに痛い。体勢を立て直さなければ、そう思って立ち上がろうとした。


 が、自分の視界に鋭い爪と茶色の毛むくじゃらな手が見えた。


 ドガッ!


 腕で受けるが、相手の力には負け、身体ごと外へとふっと飛ばされる。風圧を背中に感じながら、壁の大きな穴から出た世界。次第に砂埃も消え、そこは美しい星空と砂漠が広がっている。

 しかし、感動してる暇はない。


「トゥファッ!」

 僕は大声で叫びながら鞭を振るう。振るった軌道に仙力が残り、それは次第に緑の龍へと変化していく。

 しかし、敵は既に飛んできている。大きな熊の上に乗った男が、何かを交換しながらまた筒を構えていた。


「しぶてぇなぁ、クソガキ!  『天選之子ティエンシェンチィヅ』!」

 破裂音と共に次もまた何かが筒により放たれる。鉄の塊に何か目らしきモノが書かれていた。

 このままでは、ぶつかる。


「キュイッ!」

 つぶらな瞳を険しくしたトゥファの声、僕は鞭から蔓を伸ばし、その足に絡みつけて避ける。そして、反動に任せてトゥファの背中へと乗り移った。


「へえ、これが龍か。俺様感動だぜぇ」

「いいから早く行け!」

 熊の上に乗った男は楽しそうに飛び上がる。そして、その体は靭やかに虎へと変わった。きらりと光る鋭い爪が僕の顔を目掛けて振り下ろされる。

「なっ!!!」

 避けきれない。頭だけは守ろうと腕でまた受ける。ざくりっ。熱い。肉を抉られる感覚がした。

 そして、まるで遊ばれるかのように、腹に蹴りも入れられ、トゥファの背中から弾き飛ばされた。


「キュイッ!」

「ぐあっ!」

 少しばかり気を飛ばしそうになるのを堪えてると、眼の前で男が大きな土の塊で殴られて、同じく弾き飛ばされている。

 トゥファは慌てて僕に向かって蔓を伸ばし、しっかりと回収してくれた。トゥファは素早い動きで、相手から距離を取るように、ぐんぐんと高度を上げていった。


 ああ、もう腕が、ものすごく痛い。

「リュウユウ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫じゃないっ」

 蔦にされるがままトゥファの背中に戻ると、星人形のセイが待っていた。先程の土の塊は、セイの仕業なのだろうとなんとなく予想がついている。ただそれよりも、腕からだらだらと流れる血と痛みをどうにかしなければいけない。


「リュウユウ、とりあえず止血を。なにか布は」

 小さい身体なりに慌てた様子のセイ。僕は珍しいなあと思いつつ、トゥファの背中を撫でた。


「トゥファ、『怪我を治す』」

「キュイッ」

 トゥファの背中の上に一輪の花を咲いた。大きな葉っぱが特徴的で、蔓も複雑に伸びた赤い花。僕はその花を摘み、葉っぱを傷口に、花弁を口に放り込んだ。


 むしゃむしゃと花を食べる。苦く青臭く所々筋張っているが背に腹は変えられない。そして、いつの間にかトゥファから伸びていた蔓を葉っぱの上から巻き付けて固定する。


 痛みや縛られている感覚はじわじわ無くなり、血も止まっていく。


「こ、この花は一体?」

「チユバナ、葉は血を凝固させ、花は一時的感覚麻痺を起こさせる毒草だよ」

「毒草? お前身体大丈夫なのか」

「まあ、解毒用の草もあるからね。どちらも少し前に採取して、トゥファ体内で栽培してるんだよ。ねえ、トゥファ」

「キュイキュイ」


 星人形セイは、表情もないのにもかかわらず、なんだか呆れている雰囲気を出している。たしかに、僕も最初知ってびっくりしたなあ。

 二年前ほど前のことを思い出してると、ふと視界になにか輝くものが見えた。


「みぃつけた」


 あの先程の男が、先程避けた目がある鉄の塊に乗ってこちらへと向かってきていた。




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