令和のカッパ事情

海空

柳瀬川の河童

 時は令和になりました。

 柳瀬川の河童伝説のひとつに、『和尚に助けられた河童』があります。

 その河童の子孫達、実は今もこの川で暮らしているのです。




「ふぅ、今日はこのくらいにしとこうかな」

 

 拾ったビニール袋にゴミを入れる。体つきは10歳くらいの子供ですが、全身は深い緑色、頭にはお皿、背中には甲羅があり、手には水掻きがついています。はい、この子は河童です。


 実は河童、今お仕事をしています。河童はそれぞれ自分の縄張りがあって、毎日せっせと掃除をしているのです。なので今日も、早朝からゴミ拾いです。


 朝が早いと人間がいないので、河童達は安心して働けます。ご先祖様から代々伝わってきた教えで、『人間と仲良く暮らそう』というのがあります。けれど同時に『人間は怖い』とも聞いているのです。なので、ゴミは拾うけれど、河童の存在を知られてはいけない、というルールに今は落ち着いています。

 だから今日も、ゴミでパンパンになった袋をぎゅっと結ぶと、川沿いの道路にそっと置きました。こうすると、ゴミに気付いた近所の人が持っていってくれるのです。


 まだ朝露が冷たい早朝。もちろん道路には誰もいない……はずでした。


「か、か、河童?」


 !!


 頭の上から声がします。河童は全身から汗が吹き出ると同時に、ご先祖様の声が頭に響きました。

 『人間は怖い』

 そう、河童の存在を人間に知られてはいけないのです。

 河童はゆっくりと振り返り、上を見上げました。河童よりも頭4つほど大きい人間のおじいさんです。


 わん!!


「うわぁ!!」


 河童の足元にいた、薄茶の犬が吠えました。尻尾を振って、今にも河童に飛びかかりそうな勢いです。河童、思わずのけ反ります。


「あ、あぁ、すまない。太郎、静かに!」


 おじいさんは犬の太郎の散歩中でした。太郎はお利口な犬なので、おじいさんの言うことはちゃんと守ります。尻尾をふっておすわりをしました。


「君が河川敷のゴミを拾ってくれたんだね。ありがとう。前々からここにゴミが置いてあるから最初はイタズラかと思ったけど、分別してみたら拾ったゴミのようだし、誰がゴミを拾っているのか知りたくて、隠れて見てたんだ。ごめんよ、驚かせて……あ!」


 河童は逃げ出しました。おじいさんが話に夢中になっている今がチャンスだと思ったのです。土手をくだり、川に近付けば丈の長い草が生えています。そしたら逃げ切れるとおもったのです。

 おじいさんは走り去る河童を見て頭をかきました。


「まいったな、悪いことをしてしまったかもしれん」



 次の日、河童はまたゴミを集めて道路にやって来ました。今日は油断をしません。あらかじめ周りを確認してから道路にやってきました。


「よし、誰もいない」


 河童がゴミを置きます。すると近くにくしゃくしゃの新聞紙がありました。


「こんなところにもゴミが」


 河童が新聞紙を持ち上げると、何やらいい香りがします。そしてほんのり温かい。河童は新聞紙に鼻を近付けて食べ物だとわかりました。

 くしゃりと包まれた新聞紙を広げると、中には1本の焼き芋、そして1枚の紙がありました。紙には太めのペンで、おじいさんと犬の顔が描いてあります。


「これ……ぼくにくれたのかな」


 河童、焼き芋を食べます。ホクホクあまあまで美味しいです。緑色の河童のほっぺにほんのりと赤みが増しました。


「おいしい」


 河童は包まれていた新聞紙をきれいに折り畳むと、ゴミ袋の下に置きました。そして近くにあった木の枝で自分の似顔絵を描きます。にっこりと笑った河童の顔です。

 そして河童は、おじいさんと犬の描かれた紙を嬉しそうに手に持ち、川へと戻っていきました。

 令和でも河童と人間は仲良くやっているようですね。


 めでたし めでたし




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