タイムリープ 繰り返される惨劇

黒白 黎

繰り返される惨劇

 タイムリープを繰り返して、いったい何かい繰り返したのだろうか。気づけば、また同じ場所で目が覚めている。変わらない学校生活、変わらない教室、変わらない友達同士の会話、変わらない人々の交流。まるでテープレコードを繰り返して聞いているみたいで、同じ会話が繰り返されている。

 行き交う人も同じことを繰り返している。それを見やるとまた戻って来たんだなと安堵と不安が混じったため息を吐いた。助けられなかったという後悔とまた戻ってきてしまったという不安が身体の中で蟲のようにうごめいている。繰り返すこの時間をどうにか決着しなくてはいけない。そのためにもタイムリープを繰り返して、ようやく原因究明となる人物を探し当てることができた。それは「かのさん」という人物が黒幕であると死ぬ間際に犯人がそう告げていたからだ。結局、犯人も「かのさん」という人物に操られているに過ぎなかったのだが。黒幕は静かに学校という安全に逃れ、優雅にひとときを過ごしていた。実行犯だけがぼくらの問い詰めにあらゆる方法で掻い潜ってきてはいたようだが…繰り返せば繰り返すほど、その様は怪しさを増し、見つけることができたわけだが…タイムリープ…ぼくは、彼女らを助けるために、そしてこの悲劇を終わらせ、みんなを救って見せるため抗い続ける。


 タイムリープだと気づいたのはほんの些細なことだった。まるで夢を見ていたみたいに自分の死を実感し、夢が覚めたと思えば、学校の中にいる。人と会話したとき、ふと違和感を覚え、会話を聞き取ると夢で見たことと同じことをしていた。そして、これから起こる学校の悲劇もまた、同時刻に起きた。<真っ赤化>だ。

 突如と体外へ血液が滴っていく。あらゆる穴から血を吹き出し、体の表面は真っ赤に染まり、目も充血していき、最終的には狂暴化する。人間であったことは忘れないまま、相手を襲うという狂暴性だけ見せ、相手を襲い、付着した血を相手につけることでその感染を爆発的に拡大させた。床や壁に付着した血痕でさえも感染源となる。そのせいで、一日で半数以上が<真っ赤化>になってしまった。そうして、彼らに襲われながら<占い部>に逃げのび、残った生徒たちと共に<真っ赤化>対策を考案したのだが、バリゲートは破られ無残にも殺されてしまった。


 次に目が覚めたときは、その対策のために校内放送で「付着した血液や真っ赤に染まった人には触れないでください」と促した。そのせいか被害はその半分、全校生徒の四分の一に抑えることができ、その後、タオルや段ボールなどを使って<真っ赤化>を隔離したことにより、それ以上の感染を防ぐことができたのだが、ここでイレギュラーが起きた。それは<真っ赤化>にもなっていないにもかかわらず一人の生徒が暴れ、注射器のようなもので刺していった。隔離して安全だと思っていたのが災いして再度感染。全校生徒の八分の一まで生存者が残らなかった。その後、<研究部>の二年生井上(いのうえ)の協力により<真っ赤化>の正体を探るまでに至ったが、相手の方が上だったか、<研究部>は襲われ、最後の拠点だった<占い部>も天井を破るという奇襲に襲われ全滅した。そのとき、屈託な笑みを浮かべる男子生徒を見て終わった。


 三回目になると、なにをすればいいのか身体が覚えるようになる。まずは<真っ赤化>が発現する生徒を見つけ、密かに隠してそこでサンプルを手に入れる。このまま放っておくと危ないので、首を絞めて殺害。そのあと、校内放送で危険を知らせ、<研究部>の二年生井上(いのうえ)にサンプルを渡し、これを研究してほしいと頼んだ。そこに井上の弟子である後輩の高田(たかだ)も加わり、2人で調べてくれるようになった。高田は二回目の時、最初の感染爆発でたまたまそばにいた生徒だった。最初の感染源を閉じ込めたことで、高田さんは無事だったようだ。その後、屈託な笑みを浮かべる男子生徒を探していると、同年代の親友の綿谷(わたたに)と出会った。綿谷は中学校からの腐れ縁でなにかと頼りになる大親友だった。二回目前は、僕を助けるために<占い部>へ行く前に襲われ感染し死んだ。その大親友が現れ、生きていることに感激しながらも僕は今度こそ、大親友を守って見せると心から誓った。

 綿谷に屈託な笑みを見せた男子生徒を見つけるべく、校長室にある生徒のアルバムを閲覧するべく、校長室に向かうが、先を読まれたのか校長室にはバリケードが貼られ、外では教師たちが防戦としていた。中では校長の暴走とアルバムを含んだものが焼失し、なおかつ中は誰にも見せられない惨劇になっていた。誰かが火を巻き、すべてを消していたようだ。

 どうやら奴もタイムリープしているようだ。先に手を打ち、証拠を隠蔽している。これは探すのは一苦労が倍苦労だ。

 <占い部>に行き、犯人を占ってもらおうと入ろうとしたとき、綿谷がそれを制止した。扉には窓がついており、それを見るなり中で<真っ赤化>した男らがこちらを凝視していた。どうやら、ここにも犯人の手が先に及んでいたようだ。

「クソ、ここもか…」

 犯人は先が最後の砦になると踏んだのか先手を打たれた。ここはもう安全じゃない。他を探そうと綿谷に言われたが、このままにしておけば被害が増えるだけだと僕は廊下にあった掃除箱から箒を取り、奴らを抹殺することにした。数はざっと七人。部長と副部長を除いた人数だ。どうやら二人は無事みたいだが、何度も世話してくれた彼らを殺すのは正直、気が滅入るし、やりたくなかった。

 綿谷のおかげもあって大掃除は圧倒間に終わった。それと同時に体が<真っ赤化>に染まっていた。じわじわと体外へと血が噴き出していくのがわかる。今ので感染したようだ。綿谷にすべてを託すことにした。

「綿谷、最後はぼくをやれ。そして、仲間を見つけてくれ。もっと協力してくれる仲間が必要だ。これはもう、ぼくと綿谷だけの問題じゃない」

「なんで…俺に託すんだよ…」

 涙声で綿谷は口をゆがめた。<真っ赤化>になったヤツが最後どうなるのか校長室でそれを見ている綿谷はぼくのことを必死で見つめていた。

「お前しか頼めないからだ。頼む、犯人を捜してくれ…」

 頭に鈍い衝撃が走った。何か強い衝撃波が頭ごと後ろへと吹き飛んだ。それから痛みはなく、ただ冷たい水の中でさ迷っていた。全身から熱が引いていく。凍り付く水の中へ沈められているみたいで、苦しくも寒くも痛くもない。これが<真っ赤化>した人の成れ果てなのだろうか。もし、そうだとしたのなら苦しんで生きて死ぬよりはマシなのかもしれない。そう思うと深い眠りに襲われた。瞼を閉じようとしたとき、誰かに呼ばれた。それは綿谷だった。綿谷が必死でぼくの名を呼んでいる。そして、「手を伸ばせー!」って、ぼくは手を伸ばし、その手を誰かが引っ張ってくれた。


 目を覚ますと、そこは四回目が始まっていた。いつもの光景とは違っていた。

「おはよう。昼休みの最中に悪いが、昼飯を買いに付き合ってくれ」

 綿谷を起こされ、ぼくはただ綿谷を後を付いていく。彼が最初にやったのは放送で<真っ赤化>のことを伝え、<真っ赤化>の最初である生徒を隔離し、<研究部>の井上と高田に治療方法を探ってもらえるよう頼み、<占い部>に赴き、校長室で頼みたいことがあると部長と副部長が協力してくれたことだ。その後、校長室の前で三年生の筋肉マッチョの尾形(おがた)と合い、校長室へ飛び込む。その中には、注射器を持った男子生徒と、縄で縛られた校長がおり、部長と綿谷と尾形で男子生徒を捕らえた。副部長とぼくで校長先生の縄をとくと、男子生徒は「なぜ、わかった。なぜ、このタイミングで」

と繰り返していた。男子生徒は屈託な笑みを浮かべた。癖なのか、こんな状況で余裕な顔を見せるとは、なにか考えがあるのだろうか。

「おい、お前! なんのつもりだ!!」

 尾形が男子生徒に問い詰めると「お前、イレギュラーだ。そうか、君の仕業か。どうりで、ぼくひとりじゃ厳しくなるわけだ」と反省するつもりもなければ謝る素振りもない。

 副部長の岸本(きしもと)に乱暴しないでと言われ、尾形は乱暴にもソファーの尖っているところに投げ落とした。背中にピンポイントに打たれた男子生徒は酷く苦しみながら「いてええええ!!!」と叫んだ。そこに校長先生が「君たちは外へ行きなさい。後は私がやりますから」と割って入った。だけど、コイツをこのままにしておけば<真っ赤化>の感染拡大につながる。その前にコイツの息の根を止めなければ確実に終わる。

 ぼくはテーブルの上にあった灰皿を掴み、岸本を遮り、綿谷の忠告を無視し、灰皿を思いっ切り叩こうとした。そのとき、校長先生が男子生徒から注射器を奪い取り、僕に打った。

「え」

 その場にいたみんなも同時に思った。

 校長先生が黒幕? 嘘だ…まさか…校長船の顔は笑みを浮かんでいた。男子生徒と同じ余裕な笑顔だ。

 それから校長先生は非道までに暴力を揮わせ、岸本の顔をぶん殴り、部長の腹をけり上げ、止めに入った尾形さえもフルボッコにしてしまった。綿谷は辛うじて生き延び、アルバムだけを奪って逃げた。

 そして、ぼくの助言通り<占い部>へ避難するが、そこはもう<真っ赤化>した部員しかおらず、自身が所属している<PC部>へ避難する。そこで、放送が「全校生徒に告ぐ。いま、感染源が拡大している<真っ赤化>と呼ばれる病気がとある生徒によって広まっている。校長室を襲い、複数人の生徒たちを殺した綿谷(わたたに)という生徒だ。今から、先生たちが綿谷を捕まえることと、いま拡大している<真っ赤化>を空いている教室に隔離するべく協力してくれ」と校長先生がそう言ったのだ。形勢逆転とはまさにこのこと。

 校長先生が黒幕だった。なら、合点が行く。自らの生徒たちを感染源として、広めることでなにか利益となる物を得ようとしていたのだろう。

「クソッやられた」

 <PC部>にいつ見つかってもおかしくはなかった。だけど、このままやられるわけにもいかない。綿谷は最後の抗いとして<PC部>にメモを残した。それは、とある生徒に向けられたメッセージだった。

 その後、綿谷は見つかり殺された。


 何回目なのだろうか。気づけば何度も繰り返し、そして黒幕を探していた。黒幕は意外なところにいた。本当に笑える話だ。

「おはよう。昼寝のところ悪いが、付き合ってくれ」

 綿谷に起こされ、後を付いていくと、隣の教室に目を向けた。扉は隙間が空いており、その上に黒板消しが挟まっていた。黒板消しなんて今どき見ない。誰かが倉庫から持ってきたようだ。しかも丁重に粉をまぶしてある。悪いイタズラだ。

「先生、ありがとうございました」

 中からの明るい生徒たちにお礼を言われながら扉を開ける教師。上から降ってきた黒板に驚きながら特に気にすることなく「やあ、話しがある。ついてきなさい」と、優し気に言うのであった。

 空いた教室に入るなり、そこには黒髪の女子生徒の渚(なぎさ)と青い髪にヘアピンをした涼音(すずね)、茶髪の男子生徒の轟(とどろき)、赤髪の女子生徒の垣根(かきね)、そしてぼくと綿谷、教師の森山(もりやま)の七人だ。

「<研究部>の井上と高田は森山先生が用意してくれた別室で研究してもらっているよ。あそこの方が、資材やら道具はそろっているからね」

 綿谷はなにかもすべて知っている様子だった。

「<占い部>の副部長の岸本さんは放送室で放送してもらう予定だ。その後、合流する予定だ」

「部長さんは?」

「部長さんは他の部員に話しを持ち掛ける予定だ。ちなみに、最初の感染者である人物を特定し、もう隔離してある。やはり体育系の尾形は速いな」

 尾形もすでに仲間内にいるのか。それじゃ、ここにいるメンバーは?

「みんな集まってもらって悪いね。実は、これから特定の人物を見つけてもらいたい。見つけたら、携帯で知らせてほしい」

「だ、だれを見つけるんですか?」

 垣根さんが手を挙げた。いい質問だ。

「『かのさん』という人物だ。学校の方で調べたんだが、名前は何人かいるのだが…綿谷がいうには違うという。つまり、読みが違うのかそれとも別称で呼ばせているのか、わからない。ただ、言えるのはその人を見つけても近づかず、見張っていてほしい。もし見つけても逃げられそうだとか近づいてきたとかだったら、できれば、先生か綿谷くんか尾形くんに連絡してほしい。急いで駆けつけて対処する」

 森本先生の話し方は丁重で優しい。新人の先生というから心配はあったけども。話し方というかなんか心が落ち着くかのような。そんな声がする。天使のささやきというな感じだろうか。

「その人は何をしたんですか?」

 渚さんが質問した。

 森本先生ではなく代わりにぼくがいった。

「数えきれないことをした。何人も殺しては平気で笑っていて、そしてぼくの大切だった人たちも殺してきた。最悪な人だよ」

 場が静まった。森本先生が解散の合図を促し、それぞれ持ち場へ向かった。

 森本先生は綿谷くんに後を託して、ぼくを慰めてくれた。


 それからどういう経緯で見つけたのか覚えていない。

 覚えているのは、学校を終え社会に出たということだけだ。夢から覚めると、案外覚えていないということはこのためなのかもしれない。もし、思い出したら続きを書こうと思う。ただ、思い出せればいいが、思い出したくもないものでもある。

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