第2話 これからの相談
「未来は、やっぱりお兄ちゃんの手料理が一番好きです!」
幸せそうな顔でご飯をパクパクと頬張る彼女は、
先程帰り道で遭遇した、未来から来た妹の
お腹が減ったというので、とりあえず家に上げたのだ。それに、聞きたいこともいろいろあるし。
14時からのバイトは、とても心苦しかったけど仮病でドタキャンした。
ごめん店長。
「この前は、「お味噌汁の味付けが薄いです!」とかブーブー言ってたくせに」
「そ、それは今の未来が言ったことで、私じゃないです!今の未来は分かってないんですよ!この料理のありがたみを!」
ぷんすかと怒りながらも、相変わらず美味しそうに頬張っている。
少し大人になって、未来も薄味派になったんだろうか。
「ごちそうさまでした。美味しかったです!」
箸を置き、ぱちんと両手を合わせる。
「ほっぺにご飯つぶ付いてるよ」
「おっと、これは失礼しました」
こういうところは相変わらず子供っぽいままらしい。
もう少し大人っぽく、落ち着きを持ってほしいなと思う反面、いつも元気いっぱいの未来のままでいてほしいとも思う。
「食器片付けとくから、僕の部屋で待ってて」
「未来も手伝います!」
そう言うと彼女は隣で布巾を持ち、洗い終えたお皿を拭いてくれた。
隣に並んだ未来。
僕の肩より下にあるはずの頭が、今は目線の高さにある。顔だって幼さこそ少し残っているけど、改めて見るとやはり大人っぽくなっている。
こうしているとなんだか、僕が
「背、伸びたね」
「なんたって、18になりましたからね!おかげさまで立派に成長しました!」
ドヤ!と自慢げに胸を張る未来。
今の未来は中学三年生の15歳なので、3年後にはこうなっているのかと思うと、なんだか嬉しくなる。
まあ、今と比べてあまり成長してない部分もところも一部あるけど。
「あ、今、胸は大して成長してないなとか考えてませんか!?」
「べ、別にそんなことは考えてないよ。成長してるだろ」
「本当ですか?!それ私に、いや私の胸に誓って嘘じゃないと誓えますか?!」
「言えません」
「即答………。うう…良いんです。これは私じゃなくてお母さんの貧乳遺伝子のせいなんです…」
「ま、まあ胸はサイズじゃないって言うしそんなに落ち込むなよ」
「巨乳派のお兄ちゃんに言われても説得力がありません」
いや、別に僕はどっち派とか無い。
「そういえばさ、未来が18ってことは僕は
「未来の中では、お兄ちゃんはずっとカッコイイですよ?世間がどう思っているかは置いておいて」
「ごめん、聞いた僕が悪かった」
ブラコンめ。
真面目に質問した僕が馬鹿だった。
「そういえばさ、これからどうするの?ここに住む?」
うーん、、と悩みながら未来は口を開く。
「ぜひそうしたいのですが、少し難しい点がありまして…」
「難しい点?」
「この世界の未来に、私の存在を知られてはダメなんです。
ほら、私ってこの世界の
ドッペルゲンガー的なあれか。
そうなると、この家に住むのは難しいかもしれない。
でも、彼女は未来からタイムスリップして来たとは言え、やっぱり僕の大事な妹なわけで、ホテルやネカフェで寝泊まりさせたくはない。どうにか上手くやれる方法は無いかと知恵を絞る。
「とりあえず、今日は僕の部屋で寝てくれ。晩御飯を食べたら僕が未来をゲームに誘うから、お風呂はその隙に済ませて」
「分かりました。その作戦で行きましょう!」
明日以降のことは、なんとか考えないとな。
「ただいまー」
そうこう話してるうちに、未来が帰ってきた。
「おかえり」
「誰か来てるんですか?」
「え?」
「玄関に女の子のローファーがあったので──」
しまった。靴の存在がすっかり頭から抜け落ちていた。
幸いにも、まだ誰が来てるのかは知られていない。
どうしたもんか…
「友達が来てるんだ」
「そうなんですか?では、未来もご挨拶しないと」
よくできた妹だ。
でも、それが今だけは少し恨めしい。
「い、今ちょうど帰る支度してるところだから、今度改めて紹介するよ」
「少しタイミングが悪かったですか…。では、またの機会にご挨拶することにします!」
「そうしてあげてくれ」
ふぅ、なんとかなった………よね?
その後、作戦通りに未来と僕がゲームで遊んでいる隙に彼女が諸々を済ませ、なんとか今日は乗り切れた。
問題は明日以降。
こんな生活を続けてバレないわけがない。
翌日──
「もしさ、妹が突然2人に増えたら、タマだったらどうする?」
「は?」
開口一番になんだ、と呆れたような顔で僕を見てくる彼女は
彼女とは中学の時からの付き合いで、こうして相談に乗ってもらうことも度々ある。
中学の頃はずっと同じクラスだったのもあって、よくつるんでいた。だけど高校に入ってからはクラスが離れてしまったので、今は彼女とつるむのは昼休みくらいだ。
「シスコンが重症化して、ついにイマジナリーシスターが見え始めた?それとも、両親の隠し子とか?」
「どっちも違う。いや、捉えようによってはそうなのかな?」
もしかして、あの未来は僕の妄想が生み出した空想の妹ってこと?
そんなわけない。…………と信じたい。
「信じれないだろうけど、とりあえず昨日起きたことを話すよ」
タマに昨日の経緯を伝えた。
未来から妹が来たこと。妹の目的は"僕を救う"ということ。妹同士の接触を避けなければならないこと。
自分の頭を整理するためにも、一つ一つ言葉に出していく。
さすがに、誰にも話さず僕1人で抱えるには難しすぎるのだ。
「まあ、妹が2人に増えたっていう意味は分かった。でも、何が起きてるのか意味がわからない。
だってそうだろう? 3年後の
「そうだよな。だから僕も困ってる」
深く考えると僕の頭では理解できないことが多すぎる。
だから、どうやって
「あ────そういえば、昨日妹にバレそうになって、咄嗟にタマが遊びに来てるってことにした」
「バカか君は」
いや、これは仕方がないんだ。
あの後、未来が遊びに来てた方の名前を教えてください!って言うから、つい、パッと浮かんだタマの名前を出してしまった。
「よ、よりによって、どうして私なんだよ。1回も君の家になんか行ったことないのに」
「ほら、僕って女の子の友達が少ないから」
「それ自分で言ってて悲しくないの?」
悲しい。悲しいけど事実だからしかたがない。
「面倒だろうけど、もし未来に会った時は上手いこと話を合わせてほしい」
「はぁ、分かった。
その代わり、帰りにマック奢りね」
「あいよ。あ、でも今日の放課後は職員室にちょっとした用事があるんだ」
「それくらい待つよ。どうせ小町先生に面倒事でも頼まれたんでしょ?」
鋭い。
正確には、頼まれたのではなく強制的に押し付けられたんだけど。
早瀬は将来、絶対尻に敷かれるタイプだよと呆れながら呟くタマ。
そう言われても、こういう性分なんだよ。
それに、女が強い方が家庭は上手くいくって言うしさ。
お互いに昼食を食べ終え、「じゃあまた放課後に」と告げて学食を後にした。
「失礼します、小町先生は──」
「こっちだ早瀬~」
僕を手招きして「まあ座れ」と促す先生。
「早速だが本題だ。これから一年間、クラス委員を務めるお前の相方が決まった」
「そうですか」
内心、少しドキドキする。
やりやすい相手だと助かるけど、どうなんだろうか。
「相手は鷺宮になった」
今年初めてクラスが同じになった彼女とは、僕はまだ一言も喋ったことがない。
鷺宮さんはクール系で、物静かな印象が僕にはある。が、スカートの丈が膝上だったり、シャツの第1ボタンを開けていたりと、少しギャルっぽい着こなしをしているのもあって、僕としては少し近寄り難い感じの子だ。
「先生が決めたんですか?」
「ああ。人望の無い誰かさんのおかげで、誰も希望者がいなかったからな」
生徒に対して辛辣だなぁ。
「てことで、仲良くやってくれ。以上、帰っていいぞ」
そう言うと先生は、さっさと自分の帰り支度を始める。
本人曰く、「無駄な残業はしない派」らしい。
じゃあな~と僕に手を振り、先生はスタスタと帰っていった。
これが小町先生の平常運転だ。
数学教師って、どうしてこう変な人が多いのだろうか。
さて、僕もタマのところに向かわなきゃ。
帰り支度をして、タマと合流する。
「タマと放課後に寄り道するのってテスト期間以外ではあんまり無いよね」
「それ以外の日はこれといった目的があるわけでも無いからね、お互いに」
約束通り、マックへ向かう僕ら。
注文を済ませ、席を探していると──
「お待ちしておりました!お兄ちゃん、環さん」
何故か、未来(3年後の姿)がいた。
え、なんで???
「お兄ちゃんを救いに来ました!」 DK @DK1027
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。「お兄ちゃんを救いに来ました!」の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます