第26話 クラスカード
さて、王都に来て一週間がたった。
今日もファナの討伐クエストに同行している。
目的はファナのランクアップとアリーサとファナの連携に磨きをかけるためと、ファナの友達、熊獣人リズリーのプラエトリアニ入隊試験を兼ねている。ニィズはアクリナさんに預けて来た。当然一緒に行きたいとゴネたが、『今日は魔物といっぱい戦うから、リーアと一緒にお留守番してくれると嬉しいな』とニィズを抱きしめながら言うと、アクリナさんとリーアのフォローもあって渋々だが頷き受け入れてくれた。
「《バリキュラム・ルージェ》!」
【バリキュラム・ルージェ】
ヘイト操作技・防御技:挑発的な雄たけびの意。敵に自分が脅威であることを認知させ、効果範囲内の敵のナワバリ意識を増大させる
アリーサのスキルによってライガーファング(ウルフ系)の群れ7匹のうち数匹がアリーサの大盾に引き寄せられる。
「いくよ! リズリー」
「はーい!」
掛け声とともに、2人が走る。
右手逆手に持った短剣と、両手で持つラブリュス(両刃斧)を担ぐ対称的な武器の前衛組。
「えーい!」
恵体から放たれる力任せのリズリーの一撃はライガーファング2体を軽々と薙飛ばす。
「3匹目ぇ!」
縦横無尽に跳ね駆け回るファナの刃もライガーファングの急所を的確に捉え一瞬にして3匹を倒す。
「我が剣に炎を! 業火一閃、《フラムマスパーダ》!」
アリーサが突き出す炎をまとった剣が、盾に突っ込んで朦朧とするライガーファングの鼻先から突き刺さる。炎はライガーファングの体内を焼き尽くし、一瞬にしてその体を焼失させた。
「ナイス! いい連携だ!」
僕は鋭い牙を向けてくるライガーファングの横っ面を裏拳で殴り飛ばして拍手を送る。
「姉上、燃やしたら<ライガーファングの毛皮>が手に入らないんですけど」
「いいでしょ、別に。これは、いかに効率よく敵を倒すかの連携訓練なのですから」
「1匹、ハルトさまの手を煩わせてしまいましたあ……。あてぃしがもっと動けてたら……」
「いや、複数の魔物相手だったけど、このくらい連携できれば問題ないと思うよ」
「でも、リズリーが言ったように、1匹逃しちゃったし……。短剣じゃ、やっぱきついのかな? もっと速く動けるんだけどなあ……」
【ステータス】
名前:ファナ・エリカ・フィッツローズ
種族:ヒューマン
身分:貴族
爵位:なし
メイン職業:アサシン《暗殺者》
サブ職業:盗賊
戦闘スタイル:短剣、軽装備。斥候と前衛攻撃または中衛射撃。
恩寵加護:なし
称号:なし
魔法:なし
ユニークスキル:なし
エクストラスキル:《ステルスムーブ》
その他スキル:『ブーストLv.3』『アクセルLv.2』『毒霧Lv.2』『残像Lv.2』
耐性:物理攻撃耐性Lv.2、魔法攻撃耐性Lv.2、痛覚耐性Lv.4、毒耐性Lv.3、麻痺耐性Lv.3、闇属性耐性Lv.2
(《星詠み》でファナのステータスを見せてもらっているが、貴族のご令嬢とはとても思えない……)
『ハルト、ファナちゃんにぴったりな職業あるよ』
(ぴったりな職業?)
『スワッシュバックラー《活劇剣士》よ』
(ふむ……)
◆スワッシュバックラー《活劇剣士》
両手に武器を装備する前衛二刀流タイプ。前衛職の割に攻撃力は低いが、華麗な身のこなしで手数で戦う遊撃手。対多数戦闘用のスキルが多く、手数でアサシン《暗殺者》を上回るダメージをたたき出すこともある。
「ファナ様に1つ提案があります」
「ハルトさん、『様』はいらないって言ったよね? あと、丁寧な言葉づかいも!」
「ごめん、まだ呼び慣れなくて……」
「あたしだけ『様』付けなんて、居心地悪すぎるよ!」
「あはは、気をつけるよ。それで提案なんだけど、転職しない?」
「嫌だ! あたし今のアサシン《暗殺者》気に入ってるもん! 暗中飛躍……。表の顔は貴族の娘、しかしその正体はこの世にはびこる悪を人知れず葬るアサシン……。このギャップがかっくいいんでしょ! これからもガラシスみたいな悪いやつを片っ端から排除していくんだから!」
「ファナ、あなた相変わらず物騒ですわ。暗殺なんてしないで、貴族なら正々堂々正面から事に当たりなさい」
「い・や・だ!」
「ファナ、聞くだけ聞いてみない?」
「……まあ、ハルトさんが言うなら。でも聞くだけになるよ……」
「スワッシュバックラー《活劇剣士》っていう職業<クラス>なんだけど、華麗な身のこなしと手数で戦う遊撃手なんだ。武器は短剣のまま変わらないけど、なんと! 両手に短剣を装備できます。つまり二刀流です」
「なるわ! スワッシュバックラー《活劇剣士》!」
「
「即決ですね」
「速いよ、ファナちゃん。もうちょっと考えて!」
「二刀流……。にしし、かっくよすぎでしょ!!」
(まあ、いいか。それじゃ頼むよ、ルナ)
『オッケー! じゃあファナとリンクするね!』
僕が歴代継承されてきたスキルを使えるのは絆を紡ぐ力を持つルナという存在があるからだ。僕を含めて全12人の能力とスキルがルナの中に蓄積されている。わかりやすく言うと、僕は歴代継承者の職業なら何にでもなれるし、攻撃スキルも剣、槍、杖、斧、槌、弓、銃……体術、なんでもSクラスの能力で使う事ができる。そして、この力はルナが認めてくれれば、僕の意思で他者と共有させる事が可能なのだ。
『リンク完了! これでファナはハルトの思い通りにできるわ! さあ、ハルト色に染めてあげなさい!』
(また、その言い方!)
「ファナ! 今から君を転職させるよ。少し違和感を感じるかもしれないけど、身体の異常ではないから慌てないで」
「わかったわ」
「スキルリンク
僕は、【スワッシュバックラー《活劇剣士》】のクラスカードで具現化すると、ファナの背中に押し当てる。
カードがファナの身体に吸い込まれた――。
「なに!? 急に身体が熱く……」
「よし。ファナ、自分のステータスを確認してみて」
うなずくアリーサがしばらくして、こちらを振り返り驚愕の顔を見せる。
【ステータス】
名前:ファナ・エリカ・フィッツローズ
種族:ヒューマン
身分:貴族
爵位:なし
メイン職業:スワッシュバックラー《活劇剣士》
サブ職業:忍者
戦闘スタイル:二刀流、軽装備。前衛と斥候、遊撃、中衛射撃。
恩寵加護:なし
称号:なし
魔法:なし
ユニークスキル:《瞬脚》
エクストラスキル:《剣舞》
その他スキル:『回転斬りLv.1』『毒霧Lv.1』『火遁の術Lv.1』『水遁の術Lv.1』『土遁の術Lv.1』『雷遁の術Lv.1』『分身の術Lv.1』『瞬身の術Lv.1』『投擲武器Lv.1』
耐性:物理攻撃耐性Lv.2、魔法攻撃耐性Lv.3、痛覚耐性Lv.4、毒耐性Lv.3、麻痺耐性Lv.3、闇属性耐性Lv.2
「あれ? サブ職業も変化してる! 『忍者』だ! ……かっくいい!」
『あたしからのサービスね! 貴族のご令嬢のサブ職業が『盗賊』じゃ、お下品ですもの』
「『忍者』!? サブ職業『忍者』持ちは、大貴族の誰もが欲しがる人材だと聞いたことがあります。たしか、かなりのレア職業で取得条件も難しいと聞いた覚えが……」
「そうなの!? 超レアのサブ職業持ち……。最っ高に、かっくいいじゃん!」
「ファナちゃん、すごい!」
(やりすぎだよ、ルナ!)
『てへっ』
「コホン……。『ブースト』と『アクセル』が合成昇華されてユニークスキル『瞬脚』になったみたいだね。これで、今日からファナは二刀流のスワッシュバックラー《活劇剣士》だ。早速、魔物と戦ってみるかい?」
「もう、いませんよ」
「待ってー、ファナちゃーん!」
この後、討伐クエストをかなりの数こなした。
リズリーのプラエトリアニ試験は合格。ファナの勢いに引っ張られ、なかなかいい動きを魅せ、正式にクラン加入が決まった。
帰り道、ファナはそのリズリーに背負われ疲れ果てて眠っている。
あれだけはしゃげば当然だろう。木から木へと音もなく飛び移り、魔物を見つけると音も立てず木を降り魔物の背後に立ち仕留めたかと思えば、突然走り出し、ゴブリンの群れに突っ込んで行き、両手に持った短剣で剣舞を披露するように倒していく。新スキルの瞬脚や忍術も戦いの中で試行錯誤しながらものにしていった――。
もしかすると僕(ルナ)は、末恐ろしい少女を生み出してしまったのかもしれない。これから先、ファナが過信しないように、正義感が変な方向に行かないようにちゃんと見守ってあげようと、僕とアリーサは思うのだった――。
◇ ◇ ◇
王都での生活も50日が過ぎ、僕らは<オゼンセ>へ帰る準備をしている。
カールさんも日常生活どころか、得意の槍を毎朝ブン回し、爽快に汗をかくほどに回復している。
数日前の夕食時、アリーサが当主の座を元気になったカールさんに返上することを話題に持ち出したが、これをカールさんが頑なに拒否。これまでと変わらずアリーサがフィッツローズ家の当主として仕切ることとなった。
そして、もう家族が離れて暮らす理由もなくなり、フィッツローズ家と僕らプラエトリアニ全員で<オゼンセ>へ行くことになった。
帰る準備と言ったが、正確には引っ越しは終わっている。
ナーラン商会の執務室にパイヴィの許可を貰い転移門を設置させてもらった。この転移門と<オゼンセ>にあるアリーサが管理するクランハウスに設置してある転移門を繋げ瞬時に行き来することが可能となっている。まあ、人数も増えて前のクランハウスでは手狭だったので、新しく大きなクランハウスを金に物を言わせて建ててみたのだが、没落貴族と言われるフィッツローズ家の身分にはふさわしくないほどの立派なやつが建ってしまいアリーサに怒られてしまった。
一応気を遣って、町から離れた人目につかない森の中に立てたのだが……。
転移門は、フィッツローズ家に関わる僕が許可した者にしか見えないし使うこともできない仕組みになっていて、ナーラン商会、オゼンセの町の旧クランハウス、森に新しく建てた新クランハウスを転移門で繋げ行き来可能となっている。
引っ越し荷物はすでにこの転移門を通って新クランハウスに運び終えていて、今はナーラン商会の執務室で全員が集まりアフタヌーン・ティーを囲んで一息ついているところだ。ここにある転移門をくぐれば、いつでも屋敷に帰れるのでバタバタする必要はない。
「しっかし、転移門か。本当にハルトくんのスキルには驚くばかりじゃ」
「ほんとねえ。お義父さまの呪いも解いてくれて、ファナの命まで救ってくれて」
「で、どちらと結婚するんじゃ? アリーサか? ファナか? どっちもか? リーアも一緒にどうだ?」
「お祖父様!」「おじいちゃん!」
「あらあら、まあまあ」
「あはは」
「おじいさま! あたしは、リィズと結婚するのよ! ねえ、リィズ!」
「リィズ、ハルト……いい」
「もーう!」
「ハルトさん。すぐダンジョン攻略に行くの?」
「いや、まずは僕が師匠と修行していた森でみんなを鍛えようと思ってる。そのために建てた新しい屋敷だからね」
「コ、コングベアがいるんですよね? あてぃし怖いですぅ」
「うん。今はまだ全員で挑んでも一瞬でパーティー崩壊、全滅するだろうね。でもそこでの修行で個人個人のステータスを上げつつ、連携にも磨きをかけていけばきっとコングベアも倒せるようになるよ。ダンジョンにはボスがいるって言うから、挑むのは全員が力を付けてからになるね」
「コングベア以外にもレアな強い魔物がいるんでしょ? 魔石以外のドロップアイテムはフィッツローズ家専属のナーラン商会に任せて! ガラシスのコネ使って高値で売りさばいてあげるわ!」
「コングベアとまだ見ぬ強敵たちかあ、楽しみ! ハルトさんコングベアをソロで倒しちゃうんだよね……うっし!」
「うっし! じゃありません。連携が大事なんです。くれぐれも一人で突っ込んで行かないように!」
「はーい、姉上」
新たな領地獲得とお家再興。希望に満ちた団らんに花が咲く。
まずは修行、そしてダンジョン攻略、領地開拓経営……。
楽しくなりそうだ。
「ではみなさん、<オゼンセ>へ帰りましょうか!」
◆ 第1章 完 ◆
転生者からスキルを継承したので没落貴族三姉妹の親衛隊やります カタコリス @katakorisu
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