第25話 専属
僕らはパイヴィが管理する倉庫の隅にある応接室で、紅茶とケーキでもてなしを受けている。
アルガーポ・ガラシス事件の知らせはすでにパイヴィの耳に入っており、会った瞬間に何度も何度も背中をバンバンと叩かれ、泣きながら感謝された。
「しかし、ハルトは本当にすごいな。誰も手が出せなかったあのアルガーポ・ガラシスの秘密の地下室の件を一夜にして解決してしまうとは……、さすが、ボクが見込んだことだけのことはあるよ」
「いやあ、計画を練って行動にあたろうと思ったんだけど、成り行き上、仕方なかったよね……」
「本当に、うちの愚妹が申し訳ありません」
「ちょっと姉上! あたしの活躍も見てないくせに!」
「確かにアルガーポ・ガラシスのプラエトリアニを十数人倒したことは聞きました。しかし、あなた、ハルトが到着したときには瀕死状態だったらしいじゃないですか。もし、ハルトがいなかったら死んでいたんですよ。いえ、ガラシスの虐待用奴隷として誰の目にも触れない地下の監禁室で一生を終えるところだったのですよ」
「でも、ほら! ちゃんと生きてるし、ガラシスも捕まえて、地下に捕らわれてた人も開放できて、あたしが行動しなければ起きなかったことでしょ?」
「いいえ。ちゃんと話してくれていれば、私とハルトで解決できました」
「解決したのはハルトさんだし! 姉上は、検問も突破できずにもたもたしてたじゃない」
「うぐっ……」
「まあまあ。カールさんが日常生活を送れるようになったら、お世話をしていたアクリナさんも、そのお手伝いをしてたファナも、これからは自分の将来のこと、フィッツローズ家の将来のことを考えていかなくちゃでしょ? ファナはもうクランの一員で、これから連携を高めていくんですから2人とも仲良くしましょうね!」
「そうよね! あたしはこれから目一杯冒険してやるんだから! はやく、ダンジョン攻略したくてウズウズしてるの!」
「はぁ……。お家再興がかかっているというのに軽すぎます……」
「ところで、サイン・ドライヴは役にたったのかな?」
「いえ……。真価を発揮するまでにはいかなかったですね。これからファナのクエストに同行するので、そこでいろいろ試そうと思っています」
「それなら、クエストに必要なものがあったら、ボクの店で買っていってよ! これから長い付き合いになりそうだしっしっしっし!」
「あ! そういえば、ガラシスの流通チャネルは僕が引き継いだので、責任者をパイヴィさんにお願いしたいと思っていたんですよ!」
「!? な、なんですって?」
「引き継いだものの、とんでもない流通網でして。僕もフィッツローズ家も商売に疎いし、どうしようかと……。そこでピンときたのがパイヴィさん! と、いうことでどうでしょう?」
「どうでしょうって、ガラシスの流通ルート、つまり軍に食料や装備を販売できるということ。商売の幅も利益もグーンとあがる。そんなもの……気軽に貰えないよ」
「サイン・ドライヴのお礼……ということでは?」
「それでもボクの儲けが大きいよね」
「じゃあ、こういうのはどうです? フィッツローズ家の専属商会になるというのは?」
「……なるほど、そういうことね。フィッツローズ家の庇護の元、安全な商売ができる代わりにフィッツローズ家のために諜報活動をしろと……。その話、乗った!」
「あの、パイヴィさん、自分の家のことで恐縮なんですが、絶賛没落中のフィッツローズ家の専属商人とかになって大丈夫なんですか?」
「ファナ様、フィッツローズ家が没落したままでいると思いますか?」
パイヴィの視線に釣られて、全員の視線が僕に集まるが、ここはあえて何も言わずに笑ってごまかしておくことにする。
「じゃあ、ガラシスにはパイヴィに全権を委ねることを報告しておくよ。あと、パイヴィの補佐をするようにともね」
「ガラシスがボクの部下……」
「まあ、獄中にいることだし、悪事には手を出さないように指示してるけど、師匠の強化薬と闇ギルドとのつながりの件がきになるから僕の方で対応を考えるよ」
「それは、助かる」
パイヴィには、これからフィッツローズ家のためにたくさん働いてもらうことになるだろう。そして、大儲けしてもらって大商人になる夢を叶えてもらうんだ。
そのためには早くダンジョンを攻略して領地を手に入れないとね。
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