塩むすび

しらす丼

塩むすび

 個性もない、うまくもない。誰も興味のない作品をどうして公開しているのですか?


 その感想をもらった時、怒りを通り越して、ひどく肩を落とした。


 私の小説は誰も興味がなかったのか、と。


 そしてそれは、自分でも薄々察していたことでもあり、実際に言葉にされたことでこたえるものがあった。


 コメント、ありがとうございます!!!!

 鋭いご指摘だなあと思いました。

 皆様が満足していただける作品が書けるよう、精進して参りますね!

 生まれ変わるための一言に感謝です!


 そう返信して、また肩を落とした。ついでに眉まで下がる。


「なんか、もうやだな」


 私はWeb作家を始めてもうすぐ二年になろうとしていた。


 同時期に始めた作家仲間は、書籍化を決めるか活動をやめて一般人になっている。


 どうして私は才能がないと分かっていながら、まだしがみついているのだろう。


 仲良くさせてもらっている書籍化の決まった作家仲間と話すのがだんだん苦しく思えてきた。


 こんな何でもない私なんかと話したって時間の浪費だろうし、たまに私がSNSで発信しているポジティブワードを見て、嗤っているかもしれない。


「個性もない、才能もない。やめた方が周囲のためかな……」


 大きくため息をついてから、母が今朝握ってくれた真っ白のおむすびを手に取った。


 包んでいるラップを雑に剥がすと、剥きでたおむすびにガブリと一口かぶりつく。それをゆっくり咀嚼してから、ごくりと飲み込んだ。


「味気が足らないんだよなあ」


 まるで、私みたいだ。


 そんなことを思い、鼻の奥がツンとして自然と目から雫が溢れた。


「書籍化することがゴールじゃないし、私の夢じゃない。でも、スタートすることすら出来ない自分が苦しい」


 きっと、今の私の気持ちは誰にも分からない。

 私だって他の人の苦悩が分かるわけじゃないから。


 そんなことは分かっているはずなのに――。

 

 手に持ったままのおむすびに再びかじりつく。溢れた一筋の涙が頬を伝い、唇の端から口腔内に浸透した。


「おむすび、しょっぱいなあ」


 涙の効いた塩むすびになってる。

 やっぱりなんだか味気が足らない――味気ないままだった。


 もちろん、個性もうまさも、ない。


 そのまま塩むすびを咀嚼しながら、ふと昨日食べたコンビニの鶏五目おむすびのことを思い出した。


 茶色くなった米に鶏肉やゴボウ、ニンジンが入っていて、水分を欲するほどの濃い味がしていた。塩むすびとは相反する一品である。


 目の前にある塩むすびの無個性さが、なんだか可哀想だった。


 何も工夫されずに炊かれ、握られただけの白い米。粒がたち、当たる光にきらりと輝いてはいるものの、それだけなのだ。本当に個性も味気もない。


 ふと、家の炊飯器が脳裏に浮かんだ。

 丸みのあるフォルム。中にはメモリのついた黒い窯。


 その蓋を開けると、ふわっと湯気が目の前に広がり、目をこらすとそこには炊き立ての五目ご飯があった。


 そういえば先日、母と一緒に作ったんだった。五目ご飯、好きすぎな私である。


「でも……そっか。味付きご飯も、炊く前は白いんだったね」


 黒い窯に研いだ白い米、醤油とみりん、根菜を中心とした野菜。小さく切った鶏肉、ついでに細かく刻んだ油揚げ。


 具材の準備には苦労したけれど、炊き上がった米を見た時は感慨深いものがあった。


 個性や味は、こういう風に足されていくものなのかもしれない。


「うん……そっか。そうだよね」


 私はとても単純なことを悩んでいたんだな。そんなことを思う。




 どのおむすびだって、初めはただの白い米。


 そこから何かで色をつけ、具を詰め、らしさを発揮するようになる。


 今の私は味気ないただの塩むすび。

 けれど。いつか私も自分らしい味のおむすびになれるはずなんだ。


 つらくて、苦しい今。

 それでも、私は創作が好きだから続けていく。


 目指せ、私らしさの詰まったおむすび!!


 塩むすびは変幻自在。

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塩むすび しらす丼 @sirasuDON20201220

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