第30話 Japanese Empero オオムラサキ
「まあ、春の昼に路傍で咲く可憐な菫のような少年ですこと」
僕にとって終始、この穢れた身を委ね、僕の培ったイノセンスを弄するのは満更、御法度ではなかった。
最も、あいつから変に慰まれていた経験値のおかげで、恐怖感は自然と消えていた。
汗が背中に滴った気がした。臀部から強固な力が生まれ、快楽を覚えるのは束の間、惨めな倦怠感の幼虫がいとも容易く、繭の中からオオムラサキへと変貌させる。
オオムラサキとは英語名でJapanese Emperorと謂うんだ。
銀鏡で見つけた、オオムラサキは優艶な蝶の舞を北辰に捧げ、天照大御神にもその英名は、バタフライエフェクトのように歴史をもまた轟かすだろう。
恋の瀬踏みのこの期に及んで何を愚痴っているのか、僕もその真相は分からない。
「君はとても孤独に見える。僕もまた孤独だから」
姫と星を抱いたあの日、そして、姫の言伝に動かされるように眼が覚めた。
その日の一時外泊の当日の朝、伯父さんが目を離した隙を狙って、僕はこの病棟に戻りたくない一心で、伯父さんの財布から上京するための資金を盗んだ。
もちろん、激しい後ろめたさはあったけど、追い詰められた最悪な結果ゆえだった。
昼前に伯父さんが止まっていたホテルで、タクシーを捕まえ、怪訝な顔をされながらも空港に行って、そのまま、飛行機に搭乗し、見事に劇画的なサスペンスドラマの筋書きのように失踪した。
身の気まま、僕は伯父さんたちとさよならをした。
機上での曇りない青空を見ながら、だって、あんな病棟で青春をごく潰しにしてたまるか、と思ったから。
星朧メモリー 春の星は少年に焦がれてはなお、死を宣告する。 詩歩子 @hotarubukuro
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