第29話 銀朱の月、恋の瀬


「間近でお見せなさったら、本当にあの方によく似ておられる」



――そこまでして、こんな関係のない筈の僕があの方に似ている、と変に褒められると奇妙な不甲斐なさしか覚えない。


姫の口元で媚びても何の打開策もないし、何も変更も果報からやっては来ないからだ。



疲れたな。


何か、生きるのに疲れたんだ。


早く、人生の年表を早送りして結末を知りたい衝動に駆られる。



「君は随分、大胆なんだね」


姫は僕の身体を堪能し、夜の詩を諳んじている。



僕の唇を温め、肢体を撫で回し、かじかんだ背中を溺愛し、夜の底を銀朱に染めようと企んでいる。


僕は絵に描いた餅のように意地らしく喘ぎ、姫はこの上なく満足する。


ああ、ああ、と僕は吐息を殺しながら姫の仕込んだ、恋の瀬に溺れてしまう。



腰が痺れ、釣り足になり、ぶるぶると快感を伴う血流は多く通り過ぎる。


こうやって、頭上で深く馴れ合って、雪肌と恋し合って、恋情も虚仮にして、自らの意志とは反して、快楽を覚える運命に僕は恨み嘆くことさえできない。


嫌だ、嫌だ、嫌だ、ああ、嫌、と思っているのに少年の証はそそり立ち、激しく、淫らに煮え滾り、僕の奥部もぬるぬると熱情を帯びさせるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る