初めての魔法

「じゃあまず魔法の使い方ね」


美優莉がそう言って俺の隣に立つ。


「魔法…本当にそんなの出るのか?」


半信半疑、というかほとんど信じていない。


「出るわよ。ほら」


そう言った美優莉が手のひらを空に向けた。その瞬間美優莉の手の周りに光が集まってきた。その光は手のひらの中心に渦を巻くように集まり一つのピンク色の玉になった。


「これが基本の技、集光(しゅうこう)。これは空気中にあるマナと呼ばれるものを手のひらに集める技術よ。さ、やってみて」


やってみて、と言われてできるものじゃないだろう。まぁやるけどさ…


「ふぅ…」


呼吸を落ち着かせ手のひらを空に向ける。見様見真似でしかないが手のひらに神経を集中させる。


「ふんっ!」


………何も起きなかった。いやまぁ?わかってたけどね?もしかしたら直ぐに出来ちゃうかも?とかちょっと期待はしてたけど…ダメだったか。


「出来るわけねぇだろ!」


クソ!俺だってあんなの出したい!何あれ!チョーカッケェ!


「まぁ最初はみんなそうよ」


「…そうだよな」


「そうだよ」


猫のような生物が便乗してくる。


「てかお前なんなんだよ」


「あぁ、紹介がまだだったね。僕はコンタ。君たちの願いを聞き入れて契約するものだよ」


契約…やっぱり俺は契約したのか。


「真雄、もう少し周りを意識してご覧」


「周り?」


周りには何も無い。街灯が等間隔で並んでいるだけだ。


「そう、周りのマナを感じるんだ。マナを体全体から吸収するようなイメージ。その吸収したマナを手のひらの持ってくるイメージだ」


体全体から吸収?また難しいことを言ってくれる。


「ふぅ…」


もう一度呼吸を落ち着かせる。体全体でマナを吸収するイメージ。自分がスポンジだと思え。マナは水だ。吸え。吸い付くせ。



なんだか体が暖かくなってきた。これは…吸えてるのか?分からないがとりあえずこの暖かいのを手のひらに持っていくイメージだ。足先、手先から手のひらに水を流すイメージで…



どうやら俺は集中しすぎて目を閉じていたらしい。目を開ける。すると俺の周りが黒い光で明るかった。


「ん?どうなったんだ?」


「ほ、本当に使えるなんて…しかも…黒色の光?」


「ね?言ったでしょ?でも黒色の光は…見たことがないな…」


空に向けた手のひらに目を向ける。するとそこには1メートル程の光の球体が出来ていた。


「う、うわ!」


それに驚いた俺は手を降った。


「あ!ダメ!」


美優莉がそう叫んだが手遅れだった。振り下ろされた手から放たれた光の球は真っ直ぐに街灯に飛んでいき衝突した。とてつもなく大きな衝撃音がした。衝突した街灯は粉々になっていて見る影もなくなっていた。そこには黒色の炎がゆらゆらと揺れていた。


「は?」


その光景に理解が追いつかず間抜けな声が出る。


「あ、あぁ…やっちゃった」


美優莉が俯きながらそう言った。


「うん。威力も申し分ないね」


コンタは俺の球をみてうんうんと頷いていた。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?!あんな音したんだから誰か見に来るわよ!早く逃げるわよ!」


やっちまった…こんなのバレたら絶対に弁償だ!逃げろ!


「お、おう!」


そう相槌を返して走り出そうとしたら


「ちょっと真雄!何してんの!」


そう言われて美優莉に手を取られた。何してんのはこっちのセリフだ!なにじゃれてんだテメェ!と思ったのもつかの間、俺の体がふわりと宙に舞った。


「え?!う、うわぁ!な、なんだ!?」


「今は説明してる暇無いでしょ!早く逃げるわよ!」


「全く忙しいねぇ」


「アンタねぇ!」


俺は美優莉に手を引かれるまま飛んでいた。それは夢の様でやはり全く実感が湧かなかった。


「集光で出した魔法に炎なんて…」


飛んでいる最中、美優莉が何か言っていたが風がうるさくて声が聞こえなかった。


「あそこに降りましょう」


そう言って俺たちが降りたのは寂れた小さな公園だった。広さは縦横20メートルほどの広さで遊具はブランコと滑り台、ジャングルジムしかなかった。


「…え?飛べるの?」


「当たり前でしょ?」


「当たり前だね」


え?初耳なんですけど?え?飛べるの?


「ちょうどいい。真雄。飛んでみて」


こんのクソ小動物がぁ…飛べるわけねぇだろぉがよォ?


「飛べるわけねぇだ…」


「飛べるわよ」


「…飛べるわけ」


「飛べるわ」


「…」


「飛べ…」


「分かったよ!やればいいんだろ?!」


俺は勢いに任せてジャングルジムのてっぺんに登った。高さは3、4メートル程度だが飛び降りたら怪我をするだろう。


「行くぞ、行くぞ!」


「え?、ちょ、ちょっと!」


意を決してジャングルジムから飛び降りた。体がふわりと浮く。え?俺飛べてんじゃね?まじで?!俺すごく…あれ?なんか沈んでるような…気のせいじゃなかった。


「う、わあぁぁああ!」


やばい!顔面から地面に突っ込む!


「危ない!」


美優莉が勢いよく飛んで俺のことを抱きとめてくれた。


「た、助かった」


「あんた馬鹿でしょ!?」


反論できない…


「真雄、ちゃんと人の話を聞こうね」


お前人じゃねぇじゃん、という言葉は飲み込んだ。


「はい…」


「今度も空気中のマナを意識するんだ。さっきの要領でマナを吸収してロケットのジェットみたいに足から出すイメージだよ」


「また吸収してからか…」


「そうだよ。何か行動を起こす時はマナを体に吸収してから行うんだ。でも気をつけてね。マナを吸収しすぎると許容量をオーバーして体が破裂しちゃうからね」


「え?は、破裂?」


何かの冗談か?


「そう。空気を入れすぎた風船みたいにパンッ!て破裂しちゃうんだ」


「えっと、冗談か何かか?」


「僕が冗談を言っているように見えたかな?」


「…」


「マナと魔力、これらはとても強力な力になる。でも少しでも使い方を間違ったら取り返しのつかないことになる。気をつけてね」


やべぇ。手が震えてる。少しでも間違えれば俺は死ぬ。集光をするだけでも相当な集中力がいるのにあの化け物達と戦うなら複数の動作を同時にしなければならない。本当にそんなことできるのか?


「…まぁ、そんなに慌てる必要は無いよ。とりあえず一週間後までにはある程度飛べるようになっていて欲しかな」


「一週間後?何かあるのか?」


「一週間後…あ、魔女集会ね」


魔女集会?なんだそれ。


「そう。魔女集会があるんだ。魔女集会は僕が契約した全ての魔女が集まる会の事だよ。そこで新しく魔女になった君を紹介するんだ。だからその時までに最低限空を飛ぶことと集光はできるようになっててね」


「…一週間ね。ちょっと厳しいかもしれないけど頑張ってね」


美優莉がそうサムズアップしてくる。頑張れって言われたって…


「本当にできるのか…?」


既に時刻は10時を超えていたためそこで解散となった。

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契約完了!魔法戦記 Haru @Haruto0809

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