契約完了!魔法戦記
Haru
プロローグ
「クッソ、遅くなった」
俺はそう悪態をつきながら学校から家に向かうために帰路についていた。
あたりは既に暗くなっており道端の街灯には明かりが灯っていた。何故こんなに遅くに学校から帰っているのかと言うと、下駄箱で靴を履き替えていた時いきなり担任に話しかけられて荷物を運んでいたからだ。
まぁ俺の場合はどんなに帰るのが遅れても大丈夫だ。だって俺には両親が居ないからな。別に寂しくは無い。両親は俺の小さい時になくなってしまったから両親との思い出が何もないんだ。
とは言えあまり遅くまで出歩くのは宜しくない。警察に補導されてしまうかもしれないからな。
そう思って走り出した時、それは目の前に現れた。
「え、は?な、なんだあれ」
何の変哲もない帰り道。歩道と車道が分けられていないような道のど真ん中に真っ黒な穴のような物が浮かんでいた。
穴。本当にそうとしか言えない。本当になんなんだあれ。
よく分からないが絶対に近づかない方がいいと本能が訴えかけている。…早くここから離れよう。
再び走り出したその時、穴が広がり中から
まずいまずいまずい!本当にまずい!心臓がかつてないほどに早く鼓動している。背中に嫌な汗が吹き出している。もしあれが孵ったらどうなるんだ?想像も出来ないがきっといい方向には向かわないだろう。
だから急いで離れようとした。したのだがもう遅かった。サナギのようなものが音を立てながら孵化しだした。
俺はただそれを眺めていることしか出来なかった。足が動かないんだ。目の前の光景がこの世のものとは思えなくて体全身が震えている。
いつまでそうしていただろう?10秒かもしれないし10分かもしれない。サナギが完全に孵った。
「う、あ、あぁ」
それは全長10メートル程の大きすぎる花だった。それだけならびっくりはしたかもしれないが綺麗だと思っただろう。だがその花は蠢いていたのだ。左右に伸びたつたが意志を持っているかのようにうねうねと唸っている。
瞬間、俺は弾かれたようにそれに背中を向けて走り出した。そして衝撃が俺の体を揺さぶった。
「あ?」
衝撃があったのは腹の中心から2、3センチメートル右にズレた横腹。そこを自分の手で触る。そして触った手を目の前に持ってくると手には赤い液体が着いていた。言わずもがな。俺の血だった。
その部分に目を向ける。そこには直径10センチメートル程の穴が空いていた。穴を覗くと後ろの景色が見えていた。
「ぐ、ぁ、ああぁぁあ!」
それを視覚で捉えた瞬間、俺の体には言いようもない激痛が走った。
「い、痛てぇ…痛てぇええ!」
なんだ?なにが起きたんだ?俺はあれに背を向けて走り出したところだった。それなのになんで俺の腹に穴が空いてるんだ?分からない。わからない。
徐々に意識が朦朧としてきた。
朦朧とする意識で花の怪物に目を向ける。するとそいつはつたを振り上げていた。あ、死んだ。
「間に合って!!」
そんな声と共に俺に物凄い勢いで伸びてきていたつたが切断された。誰だ?目を向けようとしたがついに限界を迎えて俺の意識は闇に落ちた。
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「━━て!起きて!」
耳元でそう叫ばれて薄らと目を覚ました。
「あ、れ?」
俺、何してたっけ?意識を失う前の記憶を辿ろうとすると腹部に激痛が走った。
「ぐ、うぅ!」
堪らず呻いていると
「ねぇこんた!どうにか出来ないの?!」
「この傷じゃもう…治依(ちよ)が居たら助かったかもしれないけど…」
「そんな…この人は巻き込まれただけなんだよ?!それなのになんで死ななきゃいけないの?!」
「そんなこと言ったって…」
うるさいな…静かにしてくれよ。もうしんどいんだよ。
「っ!?な、なんだこの魔力量は!」
魔力?なんの話だ?
「え?」
「もしかしたら…君!生きたいかい?」
生きたいかって?そんなの当たり前だろ。
「いき、たい」
「それはどんなに辛いことがあってもかい?」
まだ俺は何もしていない。高校生という若い年齢で死にたくなんてない。
「いき、たい」
「…そうか。君はこれから強大な敵と戦わなければならなくなるだろう。生き残れるかは君次第だ。」
「え?!ちょ、ちょっと待ってよ!この人男よ?!契約出来ないでしょ?!」
「いや、彼はおかしいほどの魔力を持っている。この魔力量なら男だとしても大丈夫なはずだ」
「そ、そんなことって…」
「我、契約を結ぶもの。汝、結ばれるもの。願いを力に変え戦う原動力とせよ」
なんだ?当たりが騒がしい。
「さぁ、君の願いをもう一度言ってごらん?」
「お、おれ、は、生きたい」
生きたい。それが俺の願い。
「契約完了。…君を巻き込んでしまって申し訳ないと思っている。でも、地球を救うためだと思って許してくれ」
先程まで朦朧としていた意識がはっきりしたものなっていく。目を開くとそこには一人の女の子と…なんだこいつ。見たこともないような動物がいた。猫位の大きさで尻尾が三本、それに浮いていた。女の子の方は昔の話に出てくる魔女のような服装をしていた。魔女のような格好ではあったものの絵本に出てくるような魔女ではなく現代に合わせてあるような格好だった。大きな帽子は被っていたがスカートは丈が短く膝ほどまでしかなく上半身の服はピチッと体にフィットしていた。
ムクリと体を起こす。すると先程まで空いていた腹部の穴が無くなっていた。
「え?ど、どういうことだ?」
「いきなりのことで驚いているかもしれないけど、君は今日から魔女になった」
「は?魔女?何言ってんだ?」
猫のような物が喋りかけてくる。
「君は君の願いを叶えて魔女になった。僕は契約によって人を魔女に出来る存在なんだよ」
「そう。そして私が魔女の佐中 美優莉(さなか みゆり)。契約した以上、あなたはさっきみたいな魔人と戦わなければいけない」
さっきみたいな?あの花のことか?
「お、俺は下宮 真雄(したみや まお)だ。そういえばさっきのバカでかい花はどこ行ったんだ?」
「あれは私が倒したわ」
倒した?あんな化け物を?そんなことができるのか?一人の女の子に。
「できるわけないって顔してるわね。それもそうよね。でも魔女になればそんなことも可能になるわ」
「魔女…。てかなんで俺生きてんだ?」
さっきまで腹に穴が空いて死にそうになってたはずだ。それが今では嘘のように元通りになっていた。
「それは君が生きたいという願いを元に僕と契約したからだ。契約の時に叶える願いはどんなものでも叶えてくれるからね」
「そんなこと…本当にあるのか?」
実際に体に空いていた穴が塞がっている。なんなんだ?これは本当に現実なのか?
「て言うか本当に男でも契約出来たのね…」
「僕も驚いてるよ。それほど君はイレギュラーな存在なんだ」
「な、なにがだ?」
全く話についてていけない。なんの話をしているんだ?
「本当は男は契約出来ないのよ」
「そうなのか?」
でも俺は契約できてるぞ?
「そうさ。女の子は魔力を沢山持っているのに対して男の子は魔力をほとんど持っていないんだ。だから男の子とは契約できない。君以外はね」
「俺の中に魔力が…」
全く実感がない。本当に魔力なんてあるのか?そんなのゲームとかアニメの話じゃないのか?
「今は実感が湧かないだろうけどそのうち君の規格外さが分かるだろう。君は女の子をも凌駕する魔力を持っている」
「まぁ、そういうことだからよろしくね。真雄」
「あ、あぁよろしく。佐中」
「ちょっと」
「な、なんだよ?」
「なんで佐中なんて他人行儀なのよ。美優莉でいいわよ」
「わ、わかった。美優莉」
そう言うと美優莉は満足そうな顔をしていた。
この日から俺の戦いの日々が始まった。
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