エピローグ
「未知」
シャワーを浴びるとエリカは浴衣へと着替え、外に出る。
花火大会当日ということもあってか街の通りはかなり
彼女が働いているのは片田舎にある地方施設。
だが、三年前に制度やシフトが見直されたと聞いており、都会で研修を受けた場所と同じくらいに充実した設備と人手がそろっているところであった。
(…でも、花火大会の夜に休みを入れたいと言ったらOKをもらえるなんて思わなかった。彼も仕事休みだって言っていたし、久しぶりに会うの楽しみだな)
思わず駆け出しそうになる足をいさめ、駅の
駅につくと一階の喫茶店は時間もあいまってか人、人、人ばかり。
若い男女はみな浴衣姿で片手にうちわやバッグを持ち、階段には、おめかしをした女の子たちがひな人形のように座って時間待ちをしている様子も見えた。
(慰霊のための花火大会も、外の人から見るとただのお祭りなんだろうな)
ホームからやってくる県外からの見物客にふとエリカは祖父母から聞かされた戦時直後の話を思い出し、この街が
(そういえば、彼のおばあちゃんも戦後にこの街からアメリカに渡ったと言っていたな。今日会ったら詳しく話を聞いてみよう)
そんな折、駅の改札口から見覚えのある背の高い男性の姿が見えた。
そして、エリカは二週間前に
*
(…地上から上がる花火を見ると
亮の手元のスマートフォンには、双子が中継で動画配信する花火大会の映像がリアルタイムで流れていたが、宇宙ステーションから外を眺めても肉眼で花火を見ることは叶わないため亮は雰囲気だけを味わうことにしていた。
「どう、亮。なにか見える?」
持ち込むことを許されたマグネットピアスを揺らしつつ、マーゴはこちらへと来るも窓の外を見るなり「あーあ、ここから見えたら素敵なのにね」と同情するようにため息を漏らす。
「…まあ、宇宙飛行士になる夢を俺は叶えられたから。それで十分だよ」
そう言って船内の実験に戻ろうとする亮に『いや、こんなところで立ち止まられちゃあ困るよ』と手元のスマートフォンの中から老婆の声がする。
見れば、現地で花火を観覧していたマーゴの祖母が、画面の端に中継カメラをつなぎ、こちらを見ている様子が見うけられた。
「あ、すみません。クラハシ教授」
それに老婆は『これ、教授は呼ばない』と亮をたしなめる。
ついで船内にいたシステムエンジニアのネモが顔を出し「
『これ、花火を見るつもりがないのなら余計な茶々を入れるでないよ』
老婆はそう声を上げるも、背後に次の花火が上がり、拍手が聞こえる。
…そんな折、亮は隣にいるマーゴの耳に光る二つのピアスへと目がいく。
片方は、地上へと降りていく
もう片方は、天へと飛び立つ
(そういえば鳳凰は不死の鳥。そして俺たちの住んでいた街もいくどもの戦禍や災害から復興した経験から、不死鳥をモチーフにしていたはず)
地上から上がる
亮はその関連性にどこか
「…グランマ、そっちの観覧楽しい?」
見えやすくするために亮は無重力下にスマートフォンを浮かせ、マーゴの質問に老婆は『ああ』と答える。
『亮くんのお母さんが席を取ってくれたおかげで、今日はゆっくりと見れるよ。双子たちも親切にしてくれるし、亮くんのお母さんも今は仕事中だが、帰ったら撮影した分の花火の写真を私たちに見せてくれるそうだ』
「また写真集になるんでしょ。
「じゃあ、グランマ。明日も向こうで楽しんで」
それに老婆も『ああ、じゃあまた帰った時にね』と通話を切る。
画面に残る花火の映像。
最後に宇宙ステーションから亮は通り過ぎる日本のあたりへと目をやるも島国は夜の明かりに灯され、どれが花火かは判別できない。
(…?)
そのとき、亮は気づく。
日本列島の端…いや、成層圏から先にあるこのステーションのそば。
そこに小さな点のようなものが見えた。
「マーゴ、ちょっと来てくれ」
亮はそう言うなりスマートフォンのアプリを起動し、目の前の点を撮影する。
「なになに?」
興味深そうに近寄るマーゴ。写った点をサーモグラフィーで見てみると不自然なほどに温度が上がり、拡大すると小さな点の周囲の空間が歪んでいる。
「…もしかして今まで観測されていなかった極小のブラックホールじゃない?」
途端にマーゴの顔が輝き出し、亮の手からスマートフォンを受け取ると「ネモにも見せてくる!」と休憩しているネモの元に向かおうと文字通り浮き足立つ。
亮は彼女を見送りつつ、再び窓に目をやる。
まだ、誰も見たことがない可能性。
そこに踏み込み始めたという確信にひとしれず亮は胸を躍らせる。
(この先に、何が待っているのだろう?)
果てない宇宙。
地球と宇宙の境目で亮が見つけた小さなひずみ。
…そして、
Space(スペース) 化野生姜 @kano-syouga
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