第51話 『浮き沈み』


 翌朝。

 昨日は結局、兄ちゃんの蹴りによる頭のダメージが抜けきる事が無かったので、大事を取って午後の冒険者活動を休む事になってしまった。


 その肝心な兄ちゃんは、俺の意識が戻った事を確認し終えると、使った分のポーションを俺達に買い与えて騎士団詰所へと帰っていった。


 まぁなんにしても、俺達は王都へ来てから丸2日間金を稼げていないので、そろそろ依頼をこなす為に動きださなきゃいけないわけだ。


 しかし、問題はオードリーの冒険者ランクがまだEだということ…


 なので、俺達は現在ギルドへ向かう道中でその事について話し合っている。


「オードリーの貢献度稼ぎはどうするか…?」


「そうだねぇ…たしかそろそろDランクに上がるはずなんだよね?」


「えぇ、そのはず。 モルフィート出発前にエミリアさんがそう言ってたから」


 エミリアさんが言うなら間違い無いよな…

 なら、オードリーのランク上げを優先した方がこの先活動しやすくなるか。


「よし、とりあえずEランク依頼を大量にこなして、さっさとオードリーのランクを上げる事にしよう」




 話しているうちにギルドへ着いた俺達は、掲示板に貼り出されている依頼を1つ1つ確認していく。


 そして、北東の山と北西の森に関する依頼が多い中、俺は1つだけダンジョンに関するEランク依頼があるのを発見した。


「魔石集め……?」


 そこに書かれていた依頼内容は、王都北にある難易度Eダンジョン内での魔石集め。


 この世界では水道やランプの動力源として魔石が使われていたりはするが、モルフィートの冒険者ギルドには、わざわざ魔石を重点的に集める依頼なんて無かった。


 その理由は、街の規模の大きさ故か、人口の多さ故か…

 それとも、ダンジョンの『特異性』が関係しているのかもしれない。


 もしかしたら他にも理由はあるのかもしれないが、とりあえずここ王都では何かしらの理由で魔石が大量に必要だという事はわかった。


「魔石集めの依頼が気になるのかい?」


 俺が魔石の事について考えていると、隣にいるクリスが尋ねてきた。


「あぁ、この依頼ならオードリーのランク上げと、ダンジョンの攻略が同時に達成出来ると思ってな」


「あー確かに、それなら今の僕達にとって一石二鳥の依頼だね」


「だよな。 よし、それじゃあこれを受ける事にしようか」


 俺の提案に仲間達も同意しているようなので、俺は依頼票を取って依頼受付に行き手続きを済ませた。


 王都へ着いて今日で3日目、やっと俺達はお目当てのダンジョンへ入る事になるわけだな…

 情報は既に頭の中に入ってるし、実力的にも全然問題は無いはずだ。


 1つだけ問題があるとするならば、今俺の中で沸々と湧き上がってきているこの高揚感だけだ…!


 抑えないと…冷静さを欠くと致命的なミスをしかねないぞ……!


 俺はギルドを出て北門へと向かう間も、必死に自分の中にある高揚感と戦い続けた。




 なんとか冷静さを取り戻して北門を問題無く通過した俺達は、引き続きダンジョンへと向かって歩きながら話をしていた。


「それじゃあ、ニコールさんはやっぱり昔から才能溢れる方だったのね!?」


「…まぁそうだな。 あの父さんが天才と呼ぶ程だし、本当化け物だよ」


「才能がある兄かぁ…僕のところもそうだけど、リンクも大変だねぇ」


 あー…そういやクリスは三男だったな。しかも貴族家!

 しがらみの多さは俺以上だろう…


「兄弟姉妹ってのは、何処もだいたいそんな感じなのかもな」


「……いや、ニコールさんはちょっと特別なんじゃないか…?」


 横でファルが苦笑いを浮かべながらそう呟いた。


 まぁ、確かにな…。

 昨日模擬戦してみて改めて感じたけど、俺と兄ちゃんには3歳差以上の壁があるような気がする……

 子供の頃から大人の知識や知恵を使って鍛えてきたはずなのに、追いつくどころか突き放されていってる感じだ。


 生まれ持った才能が違うのもそうだが、昨日兄ちゃんから言われた『俺には何かが足りない』っていうのも要因なのかもな…


 ってか、その『何か』ってなんだよ…?

 昨日から考えてるけど全くわからん!

 もしかしたら、死生観とかそこらへんの問題かもしれな…


「おい、リンク…!」


「ちょっと!何よアレ!?」


 俺が思考の沼にハマっていると、俺を呼ぶファルの声と、何かを見て驚くオードリーの声が聞こえて思考が遮られた。


「ん?どうし…た……って、アレ飛行船かっ!?!?」


 2人の声で我に返った俺が上空へ視線を向けると、空に浮かぶ馬鹿デカい『飛行船』が、北の方角から王都へ向かって飛んで来ているのが目に入った。


「あー、確かにアレは『飛行船』だね。 僕も初めて見たけど、あんなに大きいとは思ってなかったなぁ」


 俺とファルとオードリーが口をポカンと開けて驚いている中、クリスだけはいつも通りのテンションでその光景を眺めていた。


「ひこうせん…? リンクとクリスはアレが何か知ってるのか?」


「そうよ!知ってるなら教えて! とりあえず、クリスの反応からしてアレが危険な存在じゃないって事はわかったけど!」


 ……そうか、ファルとオードリーはまず飛行船という物が何なのかすらわかってないのか。


「あぁ…アレはただの乗り物だ。 空を飛びながら人や物を運ぶ為のな」


 俺には前世の知識があるから飛行船が何なのかわかるけど、ファルとオードリーからしたらアレは空を飛ぶ大きな化け物にしか見えないよな。


 まさかこの世界で飛行船を見れるとは思って無かっ………いや、違う!


 たしか、領主邸で読んだ本の中で『飛行船』って文字見た事あるじゃねぇか!!


 あの時は魔物やダンジョンなんていう、非現実的なものばかりに目を奪われてたからサラッと読み流してしまってたけど、よく考えたらとんでもない物が存在してるんだけど…!


 いざ目の当たりにすると、あまりにもこの世界に不釣り合いな文明の利器過ぎて目を疑うな。

 世界は違えど、人間が空を飛びたいと願う気持ちは共通してるって事か…


 ファルとオードリーは先程と変わらず大きく口を開けながら、俺達の上空を通過する飛行船に目を奪われていた。


 クリスはそんな2人を見て、飛行船を指差しながら解説を始める。


「あの飛行船はハイトー大陸にある国家の主要都市を飛び回ってるんだよ。 近年セーハイ大陸で発明された物だから、まだハイトー大陸に数はあまり無いんだけどね」


 あー、そうだそうだ…!

 たしか、セーハイ大陸の旅行記にチラッと書かれてたんだったか。


 ……それにしても、クリスの知識量は相変わらず素晴らしいな。本当に助かる。


 飛行船がハイトー大陸内の主要都市を繋いでくれているのなら、国外を旅するのもそこまで難しくないって事だ。

 どれぐらい金が掛かるのかはわからないが…


 というか、ドラゴンとか現れたらどうするんだろうか…?

 色々興味深いな飛行船……




 俺達はその後も道の真ん中で立ち止まって、飛行船が王都西にある発着場へ向かって行くのを眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

迷鳴雷雷 〜二度目の人生は冒険者〜 下町のケバブ @kebub

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ