第18話 愛してる

聖矢せいや。嫌だったら、この手を離していいから。さっきの続きだ。

 オレは、おまえが好きだ。おまえのおかげでオレは、ずっと抱えていた感情から解放されたんだ。すごくありがたいと思ってる。ありがとう。だけど、それだけじゃない。

 まだ、おまえと出会ってから一日も経ってない。それなのに、オレはおまえにものすごく魅かれている。

 おまえは嫌かもしれないけど、オレはそんな気持ちでいるんだ。この手、どうする? 離してもいいぞ」


 聖矢を見つめた。彼は、視線を外さず、


「僕の気持ちを言ってもいいんですか? 本当にいいですか? 言いますよ」

「いいよ、言ってくれ」


 大矢おおやの言葉に聖矢は頷き、


「向こうにいる時いろいろあったから、大矢さんと出会った時も、ただ怖かったんです。だけど、大矢さんはすごく優しくしてくれました。僕を……慈しんでくれてるって言うんでしょうか。そんな感じで、僕のこと、すごく大事にしてくれて……申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。だけど、僕……」


 聖矢が言い淀んだ。俯いた彼の頭をそっと撫でた。


「あの……大矢さん。僕は、大矢さんのこと、大好きみたいなんです。でも、そんなこと言われても困りますよね。

 大矢さんの言ってくれた『好き』は、普通に好きなだけですよね。『魅かれている』っていうのが、よくわからなかったんですけど。とにかく、僕の『好き』は、普通に好きっていう、そういうのではないみたいなんです。

 えっと……どう言えばいいのかわからないんですけど……好きなんです」


 この一日弱で、随分声が出るようになり、自分の意思を口に出来るようになった。そのことが、大矢を喜ばせていた。そして、大矢のことを好きだと言ってくれたことも。


 大矢は、握っていた手を離すと、聖矢を抱き締めた。聖矢も、大矢の背中に腕を回してきた。


「僕、おかしいですよね。昨日会ったばかりの大矢さんに、大好きなんて言っちゃって。僕、どうかしてるんです。優しくされたから、勘違いしてるんです」

「おかしいのは、オレのほうだろう。三十五のオレが、十五のおまえを好きとか言って。

 おまえ、間違ってるぞ。オレが言った『好き』は、おまえと同じ『好き』だ。

 オレは、おまえとずっとここで生きていきたいとすら思ってるんだ。そんなの、おかしいだろ。いっそ、笑ってくれ」


 二十歳も年下の、可愛い人。大矢は、聖矢と共に生きていきたい、と本当に願っていた。


 大矢は、聖矢を見た。聖矢も、涙を浮かべた目で大矢を見ていた。


「僕のこと、そういう意味で、好きでいてくれてるんですか? 僕、親にも好かれていないような人間ですよ? そんな僕を、どうして好きなんて言ってくれるんですか? 大矢さんは、本当に優しい人ですね」


 泣き声だった。時々、しゃくり上げるのも聞こえた。大矢は、聖矢の背中をさすってやる。


 どうして、こんなにこの少年を愛しいと思えるのだろうか。この子の何を知っていると言うのだろうか。わからなかった。が、好きになることをやめるのは、もうすでに難しいことだった。


「聖矢。訊かれても、答えられないよ。そんな、理路整然と答えられるとしたら、それは違うと思う。説明が出来ないような、混乱した気持ちなんだ。

 年の差も気になる。同性ってことも気になる。だけど、好きになるのをやめるのは、出来ない相談なんだ」

「僕も、同じです。この気持ちは、止められそうもないんです」


 聖矢が、大矢の肩に頭をもたせ掛けてきた。その可愛い人を、大矢はただ抱き締めていた。


 この出会いは、絶対に運命だ。聖矢は、運命の人だ。


 大矢は、そう信じた。


 年齢や性別。他にもいろいろと気になることはあるが、もうどうしようもない。この感情は、ごまかせない。


 大矢は、聖矢の耳のそばに顔を寄せると、


「聖矢。愛してる」


 そっと囁いた。                           (完) 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運命の人 ヤン @382wt7434

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ