第2話 木漏れ日の公園で。

 ついたのは知らない公園だった。

 並ぶ木々の間から溢れる光が地面を照らし、進むと大きな噴水の周囲にベンチが並んでいた。

 空いているベンチに座り、そこで初めて繋いでいた手が解放される。「少し待ってて下さい」とそう言い残し彼女は木漏れ日の中に消え、次に表れた時その手には見覚えのある黄色いジュースを「はいっどうぞ」と渡される。


「ありがとうお姉ちゃん」


 未だに状況すら飲み込め緊張で裏返りそうな声を振りお礼を言う。

 

「お姉ちゃん……か、本当だったんだね」


「うん?」

 寂しそうに視線を落とすも、それも一瞬ですぐに校門であった時のような優しい視線に包まれる。

 

「なんでもないよ飲んで飲んでっ好きでしょうレモンティー」


 彼女はペットボトルのお茶を開けて「熱いね」と言いながら先ほど手渡してきたレモンティーを指差す。

 

「うんっありがとうお姉ちゃん好きっ」

 乾いた喉にキャップを開けようとするが水滴で滑り四苦八苦していると左肩から首元にかけて柔らかい感触と石鹸のような良い匂いが鼻腔を擽る。

 

「うー可愛すぎるっいつもスカしてる柳永がかわいいっ」


「お姉ちゃん苦しいよ……汗かいてるし、あ」

 抱きしめられる中、首元を「クンクン」と嗅いでくる大人で綺麗な女性に知らないとは別の緊張を感じる。汗もかいてるため、柳永は気恥ずかしい気持ちで押しのけようかも考えたが視界に見える部分はとても柔らかそうな柔肌と、隙間から見える谷間に目線を逸らし頬を紅色に染める。


「あ!ごめんねっ可愛くてついっ」

 両手顔の前に合わせて、片目を閉じる彼女に謝られると寧ろこっちが悪いことをしたのではないかと錯覚する。

 むしろだ、むしろ……。

「……可愛いのはお姉ちゃんだよ……恥ずかしいから次から気をつけてね?」

 

「……天使だ、まじ天使っ」


 そんな言葉を吐かれながらまた抱きしめられた今度は先ほどよりも強い力で抱きしめられる……。「ギブギブ」と声を出してやっと声が届いたのか解放される。


「うんっ満喫しましたっごめんね柳永くんっ」


 解放されると共に今度は優しく頭を撫でられた。


「………うん。」

 だが、沈黙が続くと段々と今の状況に身体が無意識に震える。もしかしたら先ほどから気づかなかっただけで震えていたのかも知れない。

 

「怖いよねいきなり知らないところで自分も知らない人みたいになっててさっ」

 

 まるで自分の気持ちを代弁してくれている気持ちで心が溢れた。

 

「そうなの、お姉ちゃん……怖いよ」

 

 その言葉に安心するとともに気づくと涙が溢れていた。

 

「そうだね怖いね……て、それお姉ちゃんのことじゃないよね?それだとショック……じゃなくて柳永くんっ落ち着いて聞いてね?」


 慣れた手つきで彼女に頭を撫でられる。優しい手の圧が心地よく、すり抜けていく髪が喜んでいるのを感じる。先ほどよりも近い距離に彼女の顔を感じ目を開けるとすぐそこにはエメラルドグリーンの瞳が心配そうに覗き込んでいた。


 深呼吸をして涙を抑えようと努力する。すると少しだけ落ち着きを取り戻したのか頬を流れる雫は勢いが弱まる、だが口からでた言葉も弱々しかった。

 

「だ、大丈夫。」

「こころの準備できたかな?」

「うん」

「いいこだねっ」

 

 頭をポンポンと軽く叩き、終わりの合図と言わんばかりに拳一つ分彼女との空間が開く。

 

「じゃあ話すねここはね?柳永くんから見たら5年後の世界なの、柳永くんは高校生になって1年生やってるのっ」


「なんでここにきちゃったの?どうしたら戻れるの?」

 中学に上がったら1年と数えるのは知識で知っていた。だが高校生となると自分の想像外であり、夢であると言われた方が心には救いがあったのだが。

 

「ここにきちゃった理由は私も聞いてないから分からないんだでもねいい子にしてたら1年後のちょうど今日の日にね元いた時間に帰れるよっ」


「ほんと!…………でも1年もなの?」

 戻れると言う言葉に反応するが、1年即ち365日この夢のような世界にいなくてはいけない。しかも自分自身も成長している。血管が浮き出る自分の手を左手で摩ると触られてる感覚がある。

 

「本当に可愛いなっ柳永にもこんな時期あったんだ出会った時から部長面だったのに!」


 また抱きしめられるのではと、手で制すると頬をむっと膨らませた彼女は自分を制するかのように咳払いする。

 

「ごほんっごめんねいい子にしてたらだよ?そしたら戻れるよっ」


「どうしたらいい子でいられるの?」


「うーんっそうだよね。とりあえずサッカー頑張って、勉強も……赤点回避よねとりあえず!30点とればいいから……て小学生からだとほんとに厳しいだろうけどそこはお姉ちゃん頑張って教えるねっ秘策もあるしっ」


 彼女は人差し指を立てながら言葉を続ける。


「あ、あとこれが一番大切なの、それがね自分らしく素直な気持ちで生きるのこの1年間、そしたらもといた場所に帰れるよっ」


「うんっ……わかった俺頑張るよ」


 正直会話は殆ど理解出来なかった。とりあえずサッカーを続けて、勉強でテストも30点取って、えーと自分らしく生きるのと、いい子てことは、道のゴミ拾ったりとかてことだろうと拳を握り精一杯答える。

 

「可愛すぎるイケメソで可愛いとか最強だよ〜」


 懲りずにまた抱きしめられた。止めるまもなく、握った拳ごと抱きしめられており、両手にとても柔らかい感覚が布ごしに伝わる。視線を向けると谷間に手が埋まってる。まるで手錠をかけられている気分だったが、違いは柔らかく手に心地よいのが意地らしい。出来たことは意地らしい視線を向けるのが精一杯の反抗だった。


「あ、ごめんねっ」


 言葉とは裏腹に悪びれている様子はなかった。

 両手を前に合わせ片目を瞑り、こちらを伺う様子は本日2度目だとため息を吐いた。

 ここまで話している中で感じた素直な疑問を問いかけた。


「お姉ちゃん聞きたいんだけどいい?」

「うん?何かなお姉ちゃんに言ってみてっ」


 今度は拳を握り身体を乗り出してくる彼女に若干引き気味に疑問をぶつけた。

 

「お姉ちゃんは誰なの?なんで僕が昔から今にきたって知ってたの?」


「うん?それはねっなんとね…お姉ちゃんは柳永くんの彼女さんだからだよっ!君から色々聞かされてたから知ってるの、そして君から託されたのっシャルの力がどーしても、どぉーしても必要だってっ」


 ニッと笑うその笑顔から嘘は微塵も感じられない。時々間が開くのは気になるけど、そこは誇張しているのが彼女との短いやり取りでもわかった。

 それよりも気になるのが彼女という言葉だった。当たり前だが身に覚えがない。クラスでも一組付き合ってる噂を聞いたが現実的にどんなものかわからなかった。



――――――――――――――――――――


誤字脱字はごめんなさい。

いいなと思ったらハートと星お願いします。

執筆ペースはゆっくりです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の嫌いなスマイルぼっち。 緑茶 @gifkarahuru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ