私の嫌いなスマイルぼっち。
緑茶
第1話 恋ていうから愛にきた。
教室の前方に広がる黒板。楽しそうな話し声や笑い声が呼応する中、「バタン」と閉じるドアから女性が開口一番に優しくも大きな声を発信する。
「皆さんおはようございますまず、出席をとります」
「はーーいっ」
若々しく元気な声が、その言葉に反応し共鳴するかのようにクラスに響き渡る。
騒がしかった教室も、反響の後に一時の静寂を取り戻し、名前を呼ばれた子は大小あれど元気な挨拶を返すを繰り返していた。
「龍司くんっ」
「はーいっ元気ですっ」
「朱音ちゃん」
「はいっ」
1番後ろの一つだけ開け放たれた窓の前に俯くように鈍い鏡にも見えるツルツルした机に伏している少年の髪が風に揺れていた。
いつも通りの5の2の教室で元気なクラスメイトの挨拶を聞きながら、和歌鷺 柳永(わかたか りゅうえい)は自分の呼ばれる順番を待ちながら、「コクコク」「うとうと」と小刻みに船を漕いでいる時だった。
自分の左頭部に違和感を感じる。それは夜更かしをした後に感じるハリケーンのような痛みではなく、本の中でみた啄木鳥に突かれているような感触であった。朦朧とする眼で左隣を確認すると鉛筆の消しゴムの部分をこちらに向けている人物に気づくと同時に頭部を襲っていた違和感への興味は薄れ重い頭を支えるために右手を使い頬杖をつく。
こんなことをする人物には心当たりがある、それ以前に自分の隣が誰なのかなどわかりきったことだった。
「ねぇりっくん寝ちゃダメだよ?せめて朝のホームルームは起きてようよ」
「そんなこと言われても眠いんだひーちゃん」
蝶々の可愛らしい髪留めで、長い髪を一つの束ねており、心配そうな大きな瞳でこちらを見つめてくるのは幼馴染の高梨 向日葵(たかなし ひまわり)だった。
「また遅くまでサッカーの練習やってたの?本当に好きだね」
「うん?うーんありがとう……なんかものすごく眠くて……おやすみ、みっちゃん」
「て、はぁ〜話聞いてないしもうー怒られても知らないよ?」
「うん、うん…………」
会話をしながらもゆっくり船を漕ぐ、次第に暗い波に打たれ飲まれるかのように深い場所に潜っていた。
「もう、柳永たらまぁそこも好…なんだけど…」
その言葉は最後まで柳永の耳には届かず深い眠りついた。
「和歌鷹 柳永?和歌鷹 柳永起きなさい!」
「え?あ!はいっ元気ですっ」
恫喝するような野太い男性の声を聞き、身体を反射的に柳永は起こしいつも通りの挨拶をする。
周囲からはクスクスと笑い声が聞こえたり、りゅうー寝過ぎ、元気ですとか小学生かよなどの声が聞こえるが……寝ぼけている柳永にはまだ夢を見ているような気持ちだった。
いつのまに窓はしまっていたのか心地よく鼻腔を通り過ぎていた風の匂いもせず、自分を起こした野太い声の主は今後の行事について話しているのが聞き取れた。
寝起きで薄らとしか見えず霞んでいた視界も、次第にクリアになっていく、力強い声のしている前方に視線を向けると知らない中年の男性が教壇にいた。それどころかクラスを見渡しても知らない光景、知らない顔ばかりであった。
全員知り合いの従兄弟のお兄ちゃんが来ているような制服に身を包み、またその容姿も明らかに自分の寝ていた小学校の光景とはかけ離れている。
場所を間違えたのか、はたまた新人の教師の会合に紛れてしまったのか、いやこれはどう考えても一つの思考に辿り着く。
「夢?リアルな夢……」
そんな独り言を呟いていると、懐かしい今朝の感覚を頭部に感じた。
右隣に視線を向ける、そこには小学校では、シャーペンの芯が床を汚すとの理由で禁止されていたはずのシャーペンなるものを手に持つポニーテールの大人の女性が、目を細めて訝しむようにこちら見つめていた。目線が交わる中、先に向こうが視線をそらす。その視線は端っこが丸く穴の空いた紙に向けられ、ペンを走らせると今度は紙を4頭分に折り、こちらの机の上にそっと置かれる。
確認しろと言わんばかりに彼女の眉が2回上に動いて催促してくる。
促されるまま紙を広げ内容を確認する。
「柳永?寝すぎだよ?でも元気ですとか懐かしいね笑」
可愛い丸字でそう書かれていた。隣を見ると……やはりそこには知らない女性がいる。リボンの髪留めで一本に束ねた髪、こちらを見つめる視線は優しく、顔立ち全体は凛々しく素直に綺麗な分類に入るであろう大人な女性がそこにはいた。
「綺麗な人……」
思わず口から出た言葉だった。
「うん?なによ柳永っ褒めても何も出ないよ?というか…ぷっなんか、変な柳永〜」
「クスクス」と笑い瞳に溜まった雫を人差し指で救いながら声をかけてきた。
「うん?お姉ちゃん僕の知り合いなの?」
やはり聞き覚えのない声であった。本心から口に出た言葉に綺麗な女性の目つきが険しいものに変わる。
「ねぇ…柳永本当に言ってる?」
失言をしてしまったのは、その表情からも見てとれた。
「お姉ちゃん……怖いよ?僕何か悪いことした?」
素直に謝ろうと喉から声を振り絞る。
「………………え?何言ってるの柳永?私だよ?幼馴染の高梨 向日葵だよ?」
少し柔らかくなった表情から感じ取れたのは困惑だった。だがそれは柳永も同じであった。
「……え?ひーちゃん?何言ってるの?ひーちゃんは小学5年生だよ?もしかしてみっちゃんのお姉ちゃんとか?僕寝てたから分からないんだけど……」
幼馴染にお姉ちゃんがいるという話は聞いたことはないが向日葵の名は未だに幼馴染以外聞いたことがなく、同姓同名である疑念はすっかり抜け落ちていた。
「は?ねぇそれ面白くないよ柳永?」
新手の遊び?ツイットとかで流行ってるの?と笑いながら返してくるが、内容は柳永には届いておらず。ジっと隣の女性を見つめていた。
……顔を見ると柳永の知っている。隣の席のみっちゃんの面影がある。髪の長さは違く、大人びているが、ひーちゃんが成長したらこんなふうになるんだと予測ができた。出来てしまった。
悪寒が身体を走り冷や汗が額から滴り落ちる。
頬をつねるがとても「……痛い」自分が思った以上に力が入っていて痛かった。「夢ではない」と自覚して今の現状を段々理解してきた。
それと同時にあり得ない、怖いという気持ちが胸元から身体全体に血液の流れがわかるのではないのかと錯覚するかのように痺れが全身に広がっていくのを感じた。
「何やってるの?柳永?ボール頭にでも当たったの?……そんなに私を見つめて?惚れたか?このこのっ」
「………………」
現状を知れば知るほど段々怖くなってくる。
もう一度寝たら、またいた世界に戻れるのではと淡い期待をし、目線を逸らし下を向く。
そこから自分の視界に入ったのは胸元と腕、そのことから知らない服を着ていることに気づく、それと同時に首がきついと思ったら、出張ばかりの父が巻いているものと同じネクタイが付いていた。
「………………」
「ねぇ?柳永なにか変だよ?」
変だ……おかしい?学校で寝てたのになんでこんな大人の人達の中に?気づけば座って見える視線もいつもより高い。まるで自分の身長が伸びているようだった。
そうこれは夢ではなく、現実だ。呼吸が段々と苦しくなる胸に手を当てて気がつくと無言で立ち上がっていた。視線と騒めきが自分に集中する。「ハァハァ」息が詰まる。ここにいるのが苦しい、視界に見えるのは教室を出入りするためのドアが目に入った。ドアを確認すると隣から手が伸びてくるが振り払い、知らない人の机に足をぶつけるがお構いなしに全力で走ってその場から逃げた。
「ねぇ?柳永?どうしたの!?」
「おいっ和歌鷹?」
ザワザワと聞こえる教室を後にする。すぐに見える窓から見える景色は高く上の階にいることがわかるがそれと同時に書いだことのないラベンダーのような香りが鼻腔を擽り、ツルツルと磨かれた廊下に視線を落とし奥の視界の先に見えた階段を下へと降りた。
今更ながら履いているのはサンダルで軽く階段で躓き走りにくかったが、自分の身体とは思えないぐらい身体が軽くまた想像以上に早く走れたこともあり、追いかけてくる声や、教室のざわめきはあっという間に聞こえなくなった。
「はぁ……はぁ……なんなんだよ……夢じゃないならなんなの?」
昇降口を見つけるも自分の下駄箱など知るはずがなく、そのまま、開けた光指すグラウンドに出る……。
まるでサッカーの大きな試合場のような広いグラウンドの奥に、ここから出るための校門があることを確認して切らす息を整えもせず、出口へと向かいひたすら走った。
(なんなんだよ?インフルエンザの時の悪い夢みたい……怖い、怖いよ。)
そう心の中で叫びながら校門に近づく、そこで初めて校門の近くに誰かがいることに気づいた。警備員だろうか、止められるのを覚悟しながらなるべく避けるようにして足を急かし通り過ぎようとした時だった。
「柳永!?5年2組の和歌鷹柳永くんっ!」
その言葉にはっと、足を止めてそちらを向く。
そこには知らない女性がいた。金髪のロングヘアに吸い込まれそうなエメラルドの優しい瞳。物語から出てきたお姫様のような人がそこにはいた。
「はぁはぁ……ふぅーふぅー誰?」
「誰ってこいって言うから会いにきたんだよ?」
白いワンピースに身を包んだ、光が白い服に反射し、手に持つ紺色のバックが服装に似合わず浮いていた。
「大丈夫?しっかり息を整えて、ここじゃなんだから場所変えよう」
息を整える間もなく、女性に手をつかまれて連行される。緊張と不安の感情を抱くが自分を知っている人に連れていかれる子どものように付き添った。
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誤字脱字はごめんなさい。
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執筆ペースはゆっくりです。
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