まちの電器屋

結騎 了

#365日ショートショート 304

 “家電量販店は売りっぱなし。売った後の面倒はメーカー任せ。”

 超高齢化社会が進む20XX年、遂に家電量販店の販売形態は限界を迎えた。新時代のハイテクノロジー家電を操れない老人が急増したのである。在りし日の「まちの電器屋」は瞬く間に需要を高めていた。

「すみませんねぇ、こんなに早く来てもらって」

「いえいえ、仕事ですから。どの家電です?」

「あれです、あのスマートAIテレビです」

「おっと。こりゃまた年季が入ってますねぇ」

 齢80の老婆は、作業服の若い男性を迎え入れた。自宅のテレビが映らない。そのSOSに応えるべく、急ぎで駆け付けたのだ。

「おばあちゃん、これはいつ頃に購入しましたか?」

「それがねぇ、よく覚えていないの。コロナよりは後よ」

「ははっ、それより前だったら流石にお手上げですよ」

 男は懐から弁当箱のような機器を取り出し、テレビに繋いでみせた。何本も繋がれたコードを通し、弁当箱のディスプレイに数字が映る。

「なるほど……」

「どうだい、よくなるかねぇ」

「大丈夫ですよ。お待ちください」

 ふと分度器を取り出した男は、テレビの角にそれをあてがった。なにやら角度を測っている。そして、おもむろに立ち上がり、

「それでは。いきます。……えいっ」

 手刀を一発。それは計算されつくした角度と強さによるものだった。スマートAIテレビの背面にインパクトが加わり、画面が途端にざらつく。かと思えば、次の瞬間、ニュースキャスターが原稿を読み上げていた。

 老婆は歓喜し、「あら~。ありがとう。修理代はプイプイでいいかね」

「おばあちゃん、プイプイなんて決済サービス、もう誰も使ってませんよ。いいっすよ、現金で。52,000円になります」

「はいはい。ちょっと待ってね」

「どうも!」

 男は老婆の自宅を後にした。

 超高齢化社会、全ての産業が老人の財布を開かせることに躍起になっていた。「まちの電器屋」も、例外ではない。

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まちの電器屋 結騎 了 @slinky_dog_s11

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