私の可愛いお嬢様2(ネリーネの見合い前日譚)

「もう! ミア聞いてますの?」

「あら。私がネリーネお嬢様の話を聞かないことなんてございましたか? もちろん聞いておりますよ」

「そうよね。ミアはいつもわたくしの話を聞いてくれますものね」


 ネリーネお嬢様は、うそぶく私を信頼の眼差しで見上げる。


 なんて可愛いらしいんでしょう……

 素直過ぎてミアは心配です。


「明日のお見合いにお召しになるドレスでございますよね」


 聞かなくてもネリーネお嬢様の思い悩んでいらっしゃることは想像に難くない。


「ねぇ、ミア。このドレスでは宝石が少なくて、輝きが足りず地味ではないかしら? それに装飾品はリボンばかりで子供っぽいと思うわ」


 そう言ってネリーネお嬢様はお召しのドレスの裾を持ちくるりと回る。

 デイ・ドレスとは思えないほどのリボンと宝石がたっぷりついたドレスは、わたしの可愛いお嬢様の魅力を持ってしても、着ただけで可愛らしさをすべて消し去ってしまう圧倒的な存在感を放つ。


「地味だなんてとんでもない。大した家柄でもないお相手なのですから、もっと、軽装でよろしいのですよ」


 私の発言にネリーネお嬢様はフン! と鼻息を鳴らして胸を張る。


「あら、いけませんわ! だってお見合いのためにマグナレイ侯爵家の別邸に招かれているのよ。栄華を誇る由緒正しいマグナレイ侯爵家の敷居をまたぐのだもの、軽装だなんて許されないわ。正装でお伺いしないと!」


 鼻息荒くそう言い放ったネリーネお嬢様は、由緒正しいマグナレイ侯爵家の別邸に招かれるからなんて言い訳を振りかざして新しく仕立てられたドレスの確認に余念がない。


 ネリーネお嬢様がこれほどまでに張り切っていらっしゃるのは、別に由緒正しいマグナレイ侯爵家の別邸に伺うからではないし、大奥様がいろいろな家に打診しては何件も断られ続けた見合い話が、やっとお会いするまでこぎつけたからでもない。




 ある日、ネリーネお嬢様の嫁ぎ先探しも諦め気味だった大奥様が、困惑しながら見合いの話を持っていらした。

 以前から大奥様とご親交のあるマグナレイ侯爵様が頭を下げて頼んでらしたとのことだった。


 いくら侯爵様からの頼みとはいえ、マグナレイ一族の傍系にあたる男爵家の四男で王宮の役人をしているだなんていう、釣り書きに、ネリーネお嬢様の足元を見られたと旦様だけでなく使用人まで揃って憤慨していた中、お見合い相手の名前を聞いた時の衝撃と言ったら……


 ──ステファン・マグナレイ。


 何度もネリーネお嬢様から聞かされていた、ネリーネお嬢様の尊敬する方が見合いの相手だったなんて。


 数年来のご愛読書をお書きになった男性との降って湧いたお見合いにネリーネお嬢様は喜びを隠しきれていない。


 お嬢様が年上であるお見合い相手に少しでも大人らしく見えるようにと仕立てさせたドレスは露出が高く下品な仕上がりだし、旦那様と若様が仕立てさせたのは幼い少女が着るようなリボンやフリルのたくさんついたドレスばかりだ。


 どのドレスもネリーネお嬢様の可愛らしさを台無しにしかしない。


 お金をかければかけるほど良いだなんていう概念は、デスティモナ家に脈々と引き継がれる悪しき呪いだわ。


 私たち使用人も、まだデスティモナ家の呪いに染まりきっていない若奥様も、ネリーネお嬢様の見合いのドレスはまともなものになるように必死に足掻いた。

 けれど、残念ながら旦那様と若様が選んだピンクと赤の目に痛い少女らしいドレスに、ネリーネお嬢様のお気に入りの羽根飾りなどの装飾品で大人っぽく仕上げことで折り合いをつけるのが限界だった。


 胸を弾ませるネリーネお嬢様を見てため息をつく。


 ── 残念ながら、いくらネリーネお嬢様が尊敬されていても、お相手は男爵家の四男でただの役人でございます。ネリーネお嬢様のドレス姿を見れば怯むのは火を見るより明らかです。


 ネリーネお嬢様が傷つく姿を想像するだけで今から辛い……


 しかしです、ネリーネお嬢様。


 ネリーネお嬢様の上辺だけしか見ずに、断ってくるような男はこちらから願い下げでございます。


 ミアは、ネリーネお嬢様の人を見る目は確かだったと思えるような結末になるのを祈らずにはいられません。






*********

お読みいただきありがとうございます!


ネリーネの兄ハロルドと義姉の物語の連載完結しました。

▶︎借金のかたに大富豪の元で奴隷扱いされるはずが花嫁として一家総出で歓迎されてます⁈

https://kakuyomu.jp/works/16817330658205645859


独立した話ですが、デスティモナ家が舞台なので十二歳のネリーネや侍女のミアが登場します。

よろしければ、こちらもよろしくお願いします。



ミア視点のネリーネが可愛いだけのおまけ小話は、不定期ですが今後も投稿したいと考えています。

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『社交界の毒花』と呼ばれる悪役令嬢を婚約者に押し付けられちゃったから、ギャフンといわせたいのにズキュンしちゃう件 江崎美彩 @misa-esaki

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