少年
鳥居の上にいた少年は、名を聞かせてはくれなかった。ただ自分を『月』と揶揄するばかりで他に自称するものはなかった。
「鳥居は高さがあるでしょう、危ないですよ」
私は月に向かってそう一言述べた。彼はというと不敵な笑みを浮かべたと思うと
「月は地に落ちない」と言って動こうとしなかった。
「では、なぜそこにいるのですか」
「なぜ、家にいることに理由がいるか?」
月は平然と答えた。
私や彼――月がいるところは山道を登った境内にあるお寺だった。鳥居こそ立派なものの他は手入れされていないのか狛犬には苔が生え、家屋はところどころに穴が空いている。もはやお寺と言うよりは廃屋に近かった。
「ここが家?家族はどこです?」
「血縁者という意味ならいない」
「なら血縁者以外の家族はいると?」
「会いたいか」
彼は告げる。知りたいか、見たいかではなく会いたいか、と。
だが今この場には私と月以外は誰もいない。家屋の中にいるものなら木の軋む音で気づきそうなものだ。
「鳥居をくぐればわかるよ」そう言って彼は自分が腰を下ろす鳥居に目をやる。やはり立派な朱色の鳥居だった。
私は恐る恐る彼の言うことに従い、残り数段ある石段を上り、鳥居の向こう側へ踏み入れようとする。そこで彼が一言言った気がした。
「君の現世は綺麗すぎた」
そこで視界は暗転し、長い夢をみている錯覚に落ちた。覚えているのはあの不敵な笑みだけだった。
神人戦争 月灯 湊 @Fu_
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