球体猫
高黄森哉
球体の猫の育て方
「ねえ、これ、なに」
「それはね。それは、ボトルシップ、っていうの」
早苗は指を隣に移した。
「お姉ちゃん。じゃあ、この猫は、なんでまん丸なの?」
その猫はまん丸というよりも、梨のような形状をしていた。顔の方がすぼんでいて、お尻につれ膨らんでいく。早苗は、その猫について、奇形なのかなと思った。従姉である、彩香お姉ちゃんは、奇形の猫を飼っているのだ。
「あはは。猫って液体って知ってる?」
「ううん」
とは言ったものの、そう言った説は、聞いたことがある気がした。それは、確か国語の授業の時間、たまたま開いたページに、書いてあったのだ。それでも知らないふりをしたのは、早苗が、お姉ちゃんの話を聞きたかったからである。早苗は、
「ほら、あれ見て」
そこにあったのは、金魚鉢だった。
「アレの中にね、猫を注ぐの。そしたら、しばらく猫は、その形なのよ」
さて、早苗が、彩香お姉ちゃんのウチへ来て、三日が経った。
猫は相変わらず、金魚鉢の形をしている。早苗は、今、その猫を和室で撫でていた。猫を撫でると骨が金魚鉢の形に添うように変形していることに気づく。それだけではなく、ざらざらと皮膚が尖っている場所があった。そこを探り、その棘を引っ張ると、猫の内側から引き抜いたのは青い硝子だ。
硝子。
この硝子には見覚えがある。それは、早苗が裏庭で、土いじりをしていた時のことだった。小さいシャベルの先が、なにか、固い物体に突き当たる。しゃべるの先っぽで引っかけてみると、それは薄く青色をした硝子だった。その硝子は弧を描いていて、また、薄かった。沢山出てくる出て来る。時折、血のようなべったりとした赤が差しているのだ。気味が悪くて、全て、ゴミ箱に捨ててしまった。
早苗は、そのガラス片をゴミ箱から出してきて、組み立ててみる。想像通り、それは金魚鉢だった。足りない部品がいくつかある。きっと、あの猫の中に残ってしまっているのに違いない。
一体、何故、硝子は猫に刺さったのだろう。きっと、昔、猫が抜けなくなったに違いない。それで金魚鉢を割ったのだ。叩き割った破片が猫に刺さった。
「ねえ、早苗」
後ろを振り向くと、彩香が居て、早苗は凍り付く。
「球体の猫の作り方を知りたいの?」
早苗は、こくりと頷くことしか出来なかった。
「子猫を捕まえて来て、金魚鉢に入れて、その中で育てるの。猫は成長の逃げ場をなくしてね、形に沿うように変形するのよ。ボトルシップみたいでしょ」
球体猫 高黄森哉 @kamikawa2001
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