え?彼氏できたの?すぐ言ってよウチら親友じゃん!え?ウチの兄貴?あ、うん、そう…



「魔法、ですか?」


「そうです、魔法です!」


突然の雄一の問いかけにシャロンが驚きながら聞き返すと、雄一は勢いに任せてシャロンに問いかけた。


「この間のジュリエ討伐に関してもそうなんですけど、うちのパーティーって遠距離攻撃担当が居ないじゃ無いですか?対象と距離を取った戦闘をするべきケースって結構有ると思うんですよね…弓や銃(そもそもあんのか知らんけど)を使えるパーティーメンバーを探すって方法も有るとは思うんですけど…自分が遠距離魔法とか使える様になったら早いのかなって!」


「はっはっは!麻生氏!何を異世界転生冒険譚みたいな事を申されているのですか!魔法なんてそんな非科学的な…」


「あのですね、ここ異世界なんですよ、しかも転生させられてるし、一応この先冒険しなきゃならないらしいんですよね」


「そんな馬鹿なっ!それではワタクシたちは武器なし・魔法なし・スキルなし・アイテムなし、挙句の果てに金も無しの5重苦で異世界に転生して冒険する運命を背負わされたと言う事になってしまうではありませんか!そんな異世界転生冒険譚有り得ませんぞ!わーはっはっはっは!」


「有るんですよぉぉぉ!ここに、目の前に、現実として、見るに堪えない現実として有るんですぅぅぅぅ!!!だから何回も何回も何回も何回も何回もその話をしてるじゃ無いですか!!なんとかしようとしてるんですよ!!出来る事から少しづつ!!」


「いやぁぁさすが聡明な麻生氏!そこまで先の展望に想いを馳せていらっしゃのですな!」


【なんでアンタは今日に至るまで少しも気にしないで過ごせていたんだ…】


雄一は伊藤さんの環境適応能力の高さに若干戦慄した。


「あ、あの…」


2人の掛け合いにシャロンが申し訳なさそうに口を挟む


「魔法はどれだけモンスターを倒しても使える様にはなりません…」


「えぇぇ?じゃあこの世界の人達が使う魔法ってどうやって習得してるんですか?」


「ええと、そうですね、まず私のヒエログリフを見てもらえますか?」


シャロンに促され雄一と伊藤さんはコルトを立ち上げるとシャロンのヒエログリフを確認する。


「このヒエログリフの一節が始まる部分の少し前なんですけど…」


「あーるーぶー…アルブヘイム???」


「そうですそうです!私の場合ここにアルブヘイムと書かれているじゃないですか?これは自分がこの世界でどの宗派に所属しているかを示す物なんです」


「宗派?」


「この世界はアースガルズ、ヴァナヘイム、アルブヘイム、ミッドガルド、ヨトゥンへイム、ニザヴェリル、スヴァルトアールヴヘイム、ニブルヘイム、ムスペルの九つの宗派に分かれていて、ユグドラシルに姓を受けた者は種族、国、性別に関わらずこの九つの宗派のどれかに必ず振り分けられた状態で誕生します!この宗派は死ぬまで移り変わる事は無くて、私達は各宗派の主神から神託を受ける事で、神の奇跡たる魔法を使える様になるんです!」


「え?」


「え?」


「あ、あぁすいません、なんか普通に異世界転生っぽくて…俺最近になってちゃんとした異世界転生ぽい要素を素直に受け入れられない病気を発病しちゃってるみたいで…多分…ハハハハ」


雄一は異世界転生物の主人公が絶対に言ってはいけない事をあまりにもしれっと言ってのけた。


「あ、えー、はい、ええと…つ、続けますね?私の場合、生まれ持った宗派はアルブヘイムなので主神はフレイ様になるのですが、この場合私はフレイ様に神託を授けて頂いて、初めて魔法を使える様になる訳なんです!」


「ふむふむなるほど、自分の宗派を調べるにはぁー」


「ヒエログリフを本人が自分で確認する事はできませんから、誰かに見てもらう必要がありますね!」


「じゃぁすいません、シャロンさんお願いできますか?」


「もちろんです!それじゃぁ行きますよぉー…」


シャロンはわざとらしく片目を瞑り、雰囲気ありきで雄一を覗き込んでみせる。

雄一は内心心臓をバクバクさせながらシャロンが告げる自分の宗派がなんで有るのかの告知を待ちわびたが、シャロンはなかなか何も言わない。


「あのぅ…」


「はい、どうしました?」


「雄一さんの宗派なんですけど…」


「はい」


「言いにくいのですが…」


「はい」


「九つの宗派のどれとも違っていまして…」


「…………」








「【誰でも転生ハッピーライフ教(笑)】と書いてあるんですが…」








【あのクソ女神、マジで今度いっぺんしばく…】


雄一は膝から崩れ落ちた、もはやここに来て何度膝から崩れ落ちたかわからなかったが、もうこれ持ち芸ってことで良いやと開き直る事にした。


「わ、私、誰でも転生ハッピーライフ教(笑)の主神がどなたかは存じませんが!ご心配なさらないでください!基本的にどの宗派の主神様も、敬虔な信徒であればその信仰に応えて神託を授けて下さいます!」


「わぁーそうなんですかぁー、それならよかったぁ安心だなぁー………って安心出来るかボゲェェェ!!!出来るかぁぁ!出来るわけあるかぁぁ!!答え合わせしなくてもわかってるもんね!そんなクソみたいな名前の宗派作る頭おかしい神様なんて1人しか思い当たらないもんね!!そもそもなんだ誰でも転生ハッピーライフ教(笑)て!教団の名前に(笑)つけちゃダメだろ!敬虔な信徒?なれるかぁぁ!!信仰?するかボゲェェェ!!」


「わーはっはっは、これはまた災難ですな麻生氏!どれシャロンどの、ワタクシのヒエログリフも確認していただいて宜しいですかな?おそらくは強大な魔法を使いこなせる宗派が刻印されている事かと思いますが…」


「……………」


「シャロンどの?」


「…………」


「ま、まさかワタクシにも誰でも転生ハーピーライフ教(笑)などと刻まれているなんて事は…」


「いえ、違います…」


「お、脅かさないでくだされ!シャロンどのも人が悪い!で、ワタクシにはなんと?」


「カンナ…」


「カンナ??」


雄一と伊藤さんはゴクリと同時に息を飲み込んだ、ワナワナと震えながらシャロンが続ける…











「カ、カンナムスタイルと書いてあります」










「は?」


「カ、カンナムスタイルと…」


「おおおおおおぉぉぉぉい!!アンタ前世で何したんだマジでぇぇぇ!!カンナムスタイルってなんですか一体!!百歩譲って九種の宗派のどれかじゃ無いのは良いですよ別に!でもスタイルって何ですかスタイルって!ついに宗派ですら無くなってるじゃ無いですか!スタイルに信仰関係ないから!勝手に自分で決めて貫いてればいいからぁ!まぁわかるけど!なんかイメージ重なるところあるけど若干!!」


「わ、ワタクシは一体これから何を信仰すれば…?」


【オ、オッパ?】


雄一は思い付いた事を口に出さずに止め置いた、なぜかそうする事でしか人としての尊厳を保てない気がしたからだ。


かくして雄一と伊藤さんはユグドラシルにおける自らの宗派を知った。

ただ雄一は、この先魔法が使える様になる可能性があったとしてもアイツを信仰する事だけは絶対に出来ねえと確信していた。

後、今ならイテオンクラスの方が宗派っぽいしPV取れそうだしいいんじゃないかと思ったがすぐにどうでも良くなった。















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JKローリングみたいなファンタジー作家になりたかった俺は現在、美しい女神が授けてくれた半裸のおっさんと異世界ライフを送っています… まど @madn_0714

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