わたしの幸せなこと

 朝、目が覚めること。

 あなたがキッチンで動く音が聞こえること。


 顔を洗って、だいぶ伸びた髪を梳かすこと。あなたが磨いてくれた鏡に、自分の髪が映ること。


 あなたがキッチンで料理をしていること。わたしが作ったエプロンをつけてくれていること。

 あなたが炒めているのは卵で、作っているのはスクランブルエッグだと分かること。

 わたしとあなたの大好きな卵料理を、朝から食べられること。

 ほんの少しの間、あなたの姿を眺めること。


 あなたに挨拶をすると、「おはよう」と返してくれること。

 あなたの背中にくっつくこと。「危ないよ」と注意しながらも、あなたの顔は嬉しそうなこと。

 パンを焼き始めること。焼けるまでをじっくり眺めること。


 トーストの香ばしい匂いがすること。焼けたパンの耳は、あなたの髪色に良く似ていること。

 卵とレタスを乗せて、あなたが朝ごはんにしてくれること。

 「いただきます」と声を揃えること。卵は半熟でとろりとして、トーストに良く合っていること。

 「美味しい」と感想を伝えると、あなたの顔が安心したように綻ぶこと。


 食後のコーヒーを淹れること。わたしが淹れたコーヒーを飲んで、あなたの焦茶の瞳が細くなること。

 「幸せだね」とあなたに笑うこと。後で少し恥ずかしくなってしまうこと。


 「うん」と、あなたが短く――それでも、本当に幸せそうに言うこと。


 ――ああ、しあわせだ。

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幸福 たちばな @tachibana-rituka

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